夢
初投稿です。
サイトで小説を執筆するのは初めての試みなので不安半分、期待半分といったところです。
誤字脱字なとが多く、読みづらいところもあると思いますが、どうぞよろしくお願いします。
日常という名の日々を生きている僕らにとっての“恐怖”とは何なのだろうか。
目に見えないもの?
目に見えるもの?
そんな簡単な疑問にすら僕は答えることができない。
なぜ?
簡単なことだ……目に見えるものならまだしも、目に見えないものには自然と恐怖を覚えるものなのだ。目に見えない“それ”は掴むことができない。つまり、知り得ることが出来ないというわけだ。
数字にしろ時間にしろ、僕らは目に見える形に…自分の目で正体を確認できるようにしなければ怖くて触りたいとも思わない。
まぁ…それはあくまでも“ぼくなら”という事なのだけれど。
中にはわざわざそれに自ら立ち向かい、正体を掴む人間もいるしね。
無謀だと言う人もいる。その人間を勇者だと称える人間もいる。
言わばヒーローさ。
怖い物や事を解決した人間はヒーローになれる。
それは、目に見える恐怖についても言えること。
例えば、テロリストが僕らの学校に爆弾を仕掛け、全校の生徒を人質に立て込もっている状況があるとしよう。そんな状況の最中、犯人を捕まえるべくたった一人で奮闘し、見事に犯人を捕まえた人間がいた。
おそらくその人間はヒーローになったのだろう。
目に見えないものに関してもそう。
目に見えないほど小さな細菌に対抗すべく、薬を作り、見事に勝利した医学者もまたヒーローだろう。
つまり、ヒーローとは恐怖と闘う人々……という風な考え方をしてくれればいい。
ここで話を戻そう。
日常という名の日々を生きている僕らにとっての“恐怖”……
それは、日常が壊されることだと思う。
でも、だったらその恐怖と闘うヒーローが現れるはずだ。いままでだってそうやって僕達は生きてきたんだ。
でも……馬鹿なり無謀なりしても、ヒーローになる人間はみんなそれなりに意志を持っている。ヒーローになりたいってわけじゃないけど、自分の意志をもって行うことによりヒーローになる。
じゃあ……不本意なヒーローっているのかな?
なりたくないのにヒーローになっちゃった人。
やりたくないのにヒーローをやっている人。
なおかつそれが危険な事だったり。
でもさ、だったらヒーローにとってのヒーローっているのかな?
―イルワケナイジャン―
まぁ、そういうこと。
「――――――っはぁ!?」
悪夢を見たような気がした僕は何かから身を守るような体制で布団から飛び起きた。
「なんだ……夢か……」
再び力なく布団に寝転がる。でも目は開いたままだ。
おもむろに視界に入り込んでくるのは見慣れた天井だった。
白い天井。
そこに窓から差し込んだ光が当たっていた。
朝だということをつげるように鳴き続ける小鳥の声がうるさくも平和な日の到来をいつものように伝えてくれた。
「朝だな……起きないと……でも……ふぁぁ…」
寝転がっているせいか、強い眠気が目蓋を押し下げるようにして僕を支配すべく圧力をかけてきた。
「ちょっと!兄ちゃん?起きてるの?早くしないと遅刻するわよ!」
ゴンゴンと僕の部屋のドアを強打する音に混じってそんな声が聞こえてきた。
二度寝寸前だった僕は、はっ…と気付いて、布団から出た。
「大丈夫……起きてる、起きてる」
と、ドアに向かって叫んだ。
ドアの前から足音が遠ざかっていくのがわかった。
その場で立ち上がった僕は、パジャマをベッドの上に脱ぎ捨て、勉強机の横に掛けてある制服を手に取った。
無論、着替えるためだ。
冷えるこの季節の空気に当てられていたワイシャツやズボンは肌に触れるとひんやりとしていた。そして、慣れた手つきでネクタイを結び、上からブレザーを羽織った。
そして、ドアの横に貼ってある少し前までファンだった歌手のポスターを通り過ぎてドアに手をかける。がちゃりという音と共に開いたドアの先にはすぐさまリビングをのぞめる形になっている。そこからもう少し奥にあるキッチンには妹の瑛里香が立っていた。こちらには背を向けた形だが、腰のラインを通っている何本かのひもが見えることからエプロンをしているのがわかる。
料理をしているのだろう。ドアを開けた途端から香ばしいような臭いがしていた。
「あ、おはよう。やっと起きてきた」
「いいだろ別に。今朝の当番はお前だろ?だから僕は安心して寝ていたわけだ」
僕は誇らしげに言う。
僕の両親は、父親がアメリカに単身赴任中。そんでもって母親は多忙な毎日により家にはあまり長いこといるということはない。つまり、状況的には妹と二人暮らしということになる。まぁ、この暮らしを始めてから結構長くなるのであまり不自由なことはない。食事の当番も毎日交代制になっていて、朝の当番と夜の当番にわけている。家事も協力して行えているし、金銭面に関しては時折顔を見せる母さんからお金をもらっている。もちろん小遣いも。
「いただきま〜す」
リビングにあるテーブルの上に、瑛里香が作った朝食を並べ終わった頃合いに瑛里香が箸を握りながら手をあわせて言った。
「…いただきます」
僕も合わせるようにして手の平をあわせた。
今朝のメニューは焼き魚に味噌汁、ご飯か…結構質素な食事だな。江戸時代にでも食べられたような食事だ。
「仕方ないでしょ…お母さんだって給料前だから一番お金がないときなの。だからこれで我慢してよ」
僕の視線から思考を悟ったように瑛里香が言ってきた。
まぁ…別に嫌いなわけではないんですなけどね。僕、油っこいのも結構苦手だからね。
「あ、それよりお兄ちゃん。今日ってバイトの日だったっけ?」
不意に瑛里香が訊いてきた。
「ん?あぁ…いや。今日はない。明日になった」
「変更?結さんにしては珍しいね」
「まぁ、ちょくちょくあったことだけどな。なんだか今日は急用が入ったとかで遠出するんだって」味噌汁をすすりつつ答えた。
「遠出か…お兄ちゃんは手伝いに行かなくていいの?」
「ばぁか、僕は学校があるだろ?――それに、結さんが『お前は力不足だから足手まといだ。だから着いてくるな。邪魔だ』――なんて言われたら行く気も失せるだろ?」
僕は苦く笑った。
「ははは……相変わらず言葉にトゲがあるね……」
瑛里香も苦笑いを浮かべる。
「あ、でもバイトが無いってことは今日の夕飯はお兄ちゃんが作れるってことだよね?」
「………まぁ…そうだな…」
瑛里香は急に笑顔を浮かべ、心の喜びを示すように両手を広げた。「やった!今日は楽ができる」
「そんなことで喜ぶなっつの」
そんな戯言を言いつつリビングの壁にかけてある時計に目を向けた。
7時25分か……そろそろ出ないと電車に乗り遅れるな…。
僕の通っている高等学校はこの家の最寄りの駅から電車で35分ほど行った少し遠い所にある。中学校の友達と同じ学校に行きたくないという単純な理由でわざわざ遠めの学校を受験したのだ。
中学生の時に友達がいなかったわけではないのだが、高校では自分をリセットできたら…と、思っていたのだ。
実際、高校に入ってからできた友達はいい奴ばかりだ。中学の連中が悪い奴らだったというわけではないが、あの中学で起こった事件が大きな要因なのかもしれない。
僕が中学2年生の時に起きた事件。その事件により僕はある人物に出会った。
まぁ…この事件に関しては後々語ることになるだろう。わざわざ今語る必要もないしね。
というより、今は時間がない。
妹はまだ中学2年生。中学校はここから歩いて15分ほどの所にあるから、まだまだ登校する時間ではない。
僕は席から立ち上がって昨日からソファーに放置していたスクールバックを手に取った。
「じゃぁ僕は学校に行ってくる」リビングから玄関に繋がるドアを開け、2メートル足らずの廊下をいったところにある玄関で革靴を履いた。
玄関まで迎えに来てくれた瑛里香がにっこりと笑って片手を上げた。
「じゃ、行ってらっしゃい」
「行ってくる」
他の部屋のドアよりも堅く重く造られている玄関のドアを開けて僕は外に出た。
最寄り駅である忍ヶ丘駅までは家から歩いて8分ほどだ。毎朝混んでいる上り電車に比べ、僕が乗っていく下り電車は毎朝比較的に空いている。この電車と、もう一つの中山線を乗り換えて使って学校へと向かう。
中山線に乗り換えるまでの神崎線は結構空いていると話したが、その次にのる中山線には大差とまでは言わないが、結構なまでの人数が乗っている。
僕の乗った電車は中山線に乗り換える内道駅に着くところだった。
その時ガクンッと、電車が大きく揺れ、立っていた僕は転ぶ寸前のところで体制を整えた。
が、胸ポケットに入れていた僕の生徒手帳がぽとりと床に落ちた。
蒼井 一哉という僕の名前と、その横に自身の顔写真が貼られている。しゃがみ込まずに拾おうと手を伸ばしたとき再び車両が大きく揺れた。
手帳は床を滑るように誰も座っていない席に当たって動きを止めた。
その席まで近づき手帳を拾い上げた。すると、手帳の下に潜り込むように一枚の紙切れがあった。
一般的な消しゴムのような大きさの長方形をした紙は、多数の人間が踏んでいる床にありながら今落とされたかのように汚れがなかった。だが、そこの席に座っている人間はいない。
僕は不思議に思って紙を拾い上げた。
どうやら上面だったのは裏だったようで、その裏には英語のような文字でアドレスのようなものが書かれていた。
誰かのメールアドレスかな?
考え込んでいる僕をよそに電車は目的の駅へと到着した。
扉が開いた途端に待っていた人々が流れ込んできた。
乗換駅なので、この電車もこの駅を境に人数が増える。
「やっべぇ!」
人の波に流されて降りられないような事があったら大変だ。
僕は手帳ごと紙切れをポケットに突っ込み、電車から駆け降りた。
「――んならいい方だぜ……うちと比べたらな……」
僕の話を聞いた橙色 優介は肩を落としてため息を吐いた。
中山線に乗り換えたところで遭遇したのだ。
優介は同じクラスの友人で、特に仲の良い友人だ。
金色に染められた髪から一見不良のように見られるのだが、話してみるとなかなかいい奴だ。
最初に話しかけられた時はさすがにびびったが打ち解けるまで時間はかからなかった。
お互いに共通する趣味や思考があったからだ。
こいつは中山線一本で学校まで来ているので、こうして電車内で遭遇することはなにぶん珍しいことではなかった。
「そうかな……そんなことはないと思うけど…」
「いいや…焼き魚があるだけマシだっつの。俺の家なんざ味噌汁が出るかどうかすら心配な毎日だからな。給料前とか言ってるけど、うちは給料後でもそれほどまともな物は食えないしな」
優介は苦笑いを浮かべ、さっきよりも深いため息を吐いた。
「そんなの知るかよ。どうせゲーム買うために金貯めてるからひもじい思いしてるだけだろうが」
「テヘへ…」
今度はわざとらしく笑った。
「お前がやっても可愛くねぇよ」
こいつは高校生ながら一人暮らしだそうだ。両親からの仕送りがあるそうだが、生活費の大半は自身のアルバイトによる稼ぎで補っているらしい。もうすぐ欲しいゲームソフトが発売するらしく、しかもハードごと買うとのことなので一層極貧生活が続いているらしい。
「あのさ、提案なんだが…」
優介がかしこまった風に言った。「今日の放課後にお前の家にいってもいいか?」
「提案じゃなくて頼みじゃねぇか」
「まぁまぁ…そう言うなって」
ヘラヘラと笑っている優介からは何とも言い知れぬ不安を感じた。「お前…僕の家に来て何をするつもりだ?」
僕の家に両親はいない。だから友達を呼ぶことには何の問題もないのだが、今のこいつからは僕の家に来たい理由が見つからない。そんな怪しい状態のこいつを我が家に招くのは危険かもしれないのだ。
「いゃぁ……別にこれといった理由はないが、ただ単にお前の家に行きたくなったんだよ。そういうのあるだろ?……たまに…」
「ねぇよ、そんなの」
優介は頭をボサボサと掻く。
「ちぇっ……だったらナン寄っていこうぜ。そっちだったらいいだろ別に? 」
「お前…金ないんじゃなかったのか?」
ナンとは学校の駅の近くにあるファーストフード店の総称だ。だが、当然のことながら飲食店に入れば自ずと金を払うことになる。今節約中の優介にとってそれは結構厳しい事なのではないか?
「あぁ。ないよ。だからお前に分けて貰おうって魂胆だよ」
「結局僕が損するんじゃないか!お前がそれ相応の対価を支払うってんならきいてやらんこともないが…?」
「ふっふっふ…その言葉を待っていた」とでも言いたげな不敵な笑みを浮かべる優介。
「対価?そんなものないわけがないだろう。何てったって、我が親友にただ迷惑だけをかけるなんて俺にはできないからね」
「ほぅ…じゃあいいだろう。放課後だ、忘れんなよ」
と、いうわけで放課後のつまらない用事は終わった今現在である。結局、あいつの言っていた対価は芸能ニュースみたいに学校の生徒に関する情報ばかりで、僕にとって大して役に立つ情報は一つとしてなかった。
瑛里香には悪いのだが、さっき行ったファーストフード店で夕食となる物を購入してしまった。
「ただいま…」
同じような毎日がサイクルしている。
こうやって学校が終わって帰ってきて玄関をくぐるのも毎日の風景だ。昨日や一昨日の風景とほとんど異なる点がない。
「おかえり。――ん?何?その袋?」
瑛里香の目が手に持っているファーストフードの袋に注がれる。
「あぁ……これ、お土産というかなんと言うか……」
「ありがとう。お兄ちゃん!」
引ったくるように僕の腕から袋を取ってリビングへとパタパタと走っていってしまった。
僕は靴を脱いで、自分の部屋へと戻る。制服を脱いでハンガーへと掛けていく。上下の服装が自宅用になったところで制服の中に携帯電話を入れっぱなしであることに気づいた。
ポケットに手を突っ込み手探りで携帯電話を探す。
堅い物に手が当たった事を確認してそれを掴み、ポケットから取り出した。
水色をした僕の携帯がその手には握られていた。
そして、ポケットから手を抜き出すと同時に、その端から紙切れが床に落ちた。
「ん?」
かがみこんで紙切れを手に取ってみる。
朝に電車の中で拾った紙切れだ。英語で何かが書かれている。
その紙をしげしげと見つめながらリビングへと戻ってきた。
リビングにはさっき渡した袋の中身を食べている瑛里香がいる。
「瑛里香、勘違いしてると悪いから言っておくが…それはお前の晩飯だからな」
「ぶっ!?」
「うわ!汚ぇ!」
こいついきなり吐き出しやがった!
「な、何でよ!!今日は夜ご飯作ってくれるって言ってたじゃん!」
口の周りに付いたパンくずを取りながら言う瑛里香。
「いやぁ…ナンに寄ったからついでに買ってきたんだよ」
「も〜!……お兄ちゃん最近買い飯が多いよ!…バイトでただでさえいないんだからたまには作ってくれてもいいじゃない!!」
叫んだ瑛里香はテーブルを両手で叩きつけた。
「少しぐらいいいじゃないか!」真似をしたつもりで僕も同じようにテーブルを叩きつけた。 と、手に持っていた紙切れがテーブルの上にヒラヒラと落ちた。
「――ん?」
すっとんきょうな顔をして紙切れを凝視する瑛里香。そして、僕が紙切れを取ろうと伸ばした手よりも早くテーブルの上から紙切れを拾って紙切れを見つめた。
「あ、…それは」
「お兄ちゃん……これどうしたの?」
「どうしたって言われても……電車の中で拾ったとしか…」
そう言うしかないだろう…
「それがどうかしたのか?…何かのアドレスみたいだけど…」
「これ、アドレスじゃなくてURLだよ」
「URL?」
「うん。インターネットのサイトにアクセスできるやつ。―――まぁ…サイトのアドレスみたいなもんだよ」
「サイト…ねぇ…」
なんだか…と言うより確実に怪しく見える。如何わしいサイトではないと思うが、アクセスする必要もないだろう。
「何でURLを電車の中なんかで拾ったの?アクセスするつもり?」「いや、ただ単に拾っちゃっただけだよ。アクセスするつもりもない」
へぇ〜…と、紙を覗き込む瑛里香。
「じゃあ私がアクセスしてみるよ」
自分のポケットから携帯電話を取り出す瑛里香。
「ま、待った!……僕がやってみるよ。僕が拾ってきたんだし……」
「そんなこと言って、実は興味あるんじゃないの?」
ニヤニヤと僕を見る瑛里香。
「違う。 変なサイトだったら困るだろ?」
「あぁ!…じゃあ私に見られたら困るとか?」
「違うって言ってるだろ!…じゃあ、ここでアクセスしてやるよ」僕は瑛里香の携帯を無理矢理引ったくり、テーブルの上に置いた。そして自分の携帯をポケットから出してインターネットに接続した。
URLコード入力の欄に紙に書かれているアルファベットを的確に入力した。
画面は接続中の画面になった。
その後、画面が切り替わり黒い背景のサイトになった。
「な、何だ…これ」
「明らかに怪しいサイトじゃん。……でも、如何わしいって感じではないね……なになに?……ジ〜…あらんと?」
サイト最上部の中央には「GRANT」の文字。
「たぶんグラントって読むんだと思う」
「グラント?」
「……叶えるって意味だ…」
口が勝手に言うかのごとく言葉が出てきた。正直自分でも驚いた。
「へぇ、お兄ちゃんよく知ってるね」
「……何でだか知らないけど…読めて意味がわかった…」
わけもまからないままサイトの下に向かっていく。
「えっ……」
僕は目を丸くしたことだろう。
「これ…どういう…」
瑛里香もそれを見てかすれるような声で呟いた。
サイト中央にあった登録者名簿の一番上に「蒼井一哉」の名前があった。
「何で……僕の名前が……」
メールアドレスが表示されるならまだしも、僕の名前そのものが表示されていたのだ。
しかも、登録者名簿って…。
「やっぱり危ないサイトだったんだよ!ほら…あの…そう!ワンクリック詐欺ってやつだよ!」
不安を隠せない様子で叫びを投げ掛けてくる瑛里香。
「ま、待った…まだ詐欺とは――」 自分ではよく覚えていないが恐らく何かを言おうとしていたその時、携帯の画面が急に黒かった画面から白い画面に切り替わった。
その画面には「サーバーよりデータをインストール中」の文字だけが表示されていた。
「イ、インストール!? ―――くそっ!!」
わけがわからずガチャガチャとボタンを適当に連打した。
すると、表示されている文字の上に重なるように、「只今、他の操作は受け付けられません」の文字が表示された。
「な、何なんだよ本当に!!」
「お兄ちゃん!バッテリーを抜いたら?」
「あ、そうか!」
僕は携帯のバッテリーカバーを開き、そこからバッテリーを引きずり出した。が、画面の明かりは消えることなく白い画面を映し続けている。
「な、何でまだついてんだよ!?」
バッテリーを抜いても電気が供給される携帯なんて聞いたことないぞ! 充電中ならまだしも。
「………仕方ない……」
僕はバッテリーをもとの場所に戻し、カバーをかぶせた。
「ど…どうするの?」
心配そうな顔をして瑛里香が訊いてきた。
「何かをインストールしてるってことはそれが終わってから何かを確かめてみればいいんだ。……んで、何か問題があったら携帯のショップかなんかに行ってなんとかするさ」と言いながら携帯をポケットにしまった。
「なんとかって……」
「どっちにしろ今はどうすることもできない。バッテリーを抜いても電源が入っているなんて異常だし。……とりあえずこのまま明日まで待ってみよう。――携帯が無くても1日ぐらい困ることはないしね」
そんな上っ面だけの発言を残して自分の部屋へと戻った。
不安じゃないと言えば嘘になる。――そりゃ、想像もしてなかった状況になったんだから不安になるのもおかしくはないと思う。
ベッドの上で寝転がりながら半開きになった携帯の画面を見ながら考えていた。
いまだに携帯の画面は白い画面のままだ。
まぁ…どっちにしろなんとかなるさ――なんて心の奥では考えている。誰かがなんとかしてくれるとかいうわけじゃなくて、ただ単に自分でなんとかできるんじゃないかと思っているだけだ。
そんなどうでもいいことに頭を使っているうちになんだか激しい眠気が襲ってきた。
「な……」
考える暇もなく僕の意識は深い闇の中に堕ちていった。
なんだか……顔が痛い……。
堅いものにぶつけた……というより押し付けている感じだ。
よくよく考えると体のところどころが痛む。打ち付けるような痛さが身体を包んでいる。
さっきまではベットで寝ていたと思うのだが、地面を手で探るに堅いコンクリートのようなものの上にいるようだ。
「う、……うぅ〜…ん」
目を開いて確認してみる。
見える景色は、よく見る住宅街の何の変てつもないコンクリート道路だった。
僕はそこに顔を擦り付けるようにして寝ていた。
「……ここ……どこだ?」
寝ていた体を起こし、本来の目線の高さで周りの景色を確認した。
予測通り、閑静な住宅街の中だったが見覚えのある場所ではなかった。
寝ぼけてここまで来たのだろうか…。
自分の身体についている砂ぼこりをはたいて落とした。
本当に…ここは…。
あっ!―――そうか!ここは夢か。それだったら辻褄が合う。知らない場所なのも説明がつく。
……でも、…痛みは感じたよな?…呼吸もしてるし…風が肌に当たっている感覚もある。
その時、着ている服のポケットの中に入っている何かが聞いたことのない音を発しだした。
「な、何だ!?」
慌ててポケットに手を突っ込み、それを引きずり出した。
どうやら音を発していたのは携帯電話だったようだ。
だけど……
「あれ?…これ僕の携帯…」
でも、こんな着信音にした覚えはない。
まぁ、夢なら関係ないけどね。
携帯を開き画面を確認する。
電話だ。誰が……。
「エルベイン?……こんな人知らないぞ」
とりあえずと通話ボタンを押し、電話を耳に当てた。
「も、もしもし……?」
「もしもし」
奥から聞こえてきたのは透き通るような女性の声だった。
「あ、あの〜……あなたは…?」
「私ですか?私はあなた様専用のオペレーターのエルベインと申します。以後お見知りおきを…」
「は、はぁ……」
姿は見えないんだがな……。
「何か、お訊きになりたい事はありますか?」
「へ?…えぇと……じゃあ……ここは…夢…なんですか?」
「はい、そうですね。夢といえば夢です。でも、夢なだけで現実とは何分変わりません」
「そ、そうですか…」
夢なのか現実なのかわからないじゃないか。
「他にはありますでしょうか?」「あぁ…じゃあ…僕はここで何をすれば…」
「はい。――これからあなた方アンジェント候補者の方々には予選に参加していただきま」
「よ、予選?…何の予選なんですか?」
「何をおっしゃいます。もちろんヒーローゲームでこざいます」
「ヒ、ヒーローゲーム!?……それって…」
「あら?蒼井様はこのゲームの規約をお読みになっておられないのですか?」
何でこの人僕の名前を知ってるんだ?まぁ、夢か。
「はい……えへへ…」
「さすれば、簡単に私からご説明致しましょうか?」
「じゃあお願いします…」
「はい。――今回、蒼井様がご参加なさることになったこのゲームはトーナメント制のサバイバルゲームです。今回は予選なので選抜者限界数はありません。予選におきましてのルールは本戦とは違い、討伐でなく逃走が選抜条件となっております」
「逃走?討伐?」
「本戦ではそれぞれの目標を討伐していただきます。しかし、この予選では迫り来るアルベルから一定時間内の間逃げ続けていただきます」
「ようするに…鬼ごっこですか?」
「はい。ヒーローになる方はこの程度のミッションで死ぬことはありません」
死ぬ…?
「あ、あの…そのアルベルっていうのに捕まると……どうなるんですか…?」
「へ?もちろん死亡しますよ。夢だと思って手を抜かないように。この世界で死ねば現実の世界でも死にます」
「うそ…ですよね…これは…夢で…」
「なら実際にアルベルと遭遇してみることです。その際に私どもから戦闘及びゲームのルールを説明させていただきます。―――それでは、その時まで。貴方の活躍を願っております」
「あっ!ちょっ!――!」
止める声も虚しく電話は切られてしまった。ポケットに携帯をしまった。
わけがわからない僕は自分の置かれている状況を一刻も早く確かめるため、冷たい風が吹く夜の町を歩き出した。