第5話 ルイス家
「おかえり、フラウ。あら、どうしたのその腕」
家に帰ると母さんが台所に立って夕食の準備をしていた。
母さんは息子の自分が言うのもなんだが、間違いなく美人と言えるような女性だった。手入れされた黒髪、整った顔立ち、どこへ行っても年齢以上に若く見られるような人だ。そんな母親の特徴をもう少し受け継ぐ事が出来れば良かったのだが、僕はどちらかと言うと父親似だった。
「ちょっと転んだんだ。でも、クレグ爺ちゃんに薬を貰ったから大丈夫だよ」
「あらあら、薬屋さんにはいつもお世話になりっぱなしね。今度なにか持って行こうかしら、クレグさんはお酒とか飲まれるのかしら」
「さぁ、でも、クレグ爺ちゃんは良く甘い物を食べてるよ。あとはタバコかな。良かったら僕からクレグ爺ちゃんに渡しとくよ」
僕は自分もおこぼれに預かる算段で甘い物とタバコを提案しておいた。
「あらそう? じゃあ、今度買っておくわね」
「ただいま、帰ったぞー」
丁度良いタイミングで父が帰って来た。父に話そうと思っていた事があったのだ。
「おかえり」「おかえりなさい」
母と揃って父を迎えた。父は美形と言えなかったが、どこか愛嬌のある顔をしていた。目元なのか口元なのか、晴れやかな笑顔が印象的だった。髪の毛は短く切り揃えられており、体の所々には生傷が絶えなかった。そう、父は王国に使える兵士の一人だった。残念ながら階級は高くないようだが。
「ねぇ、父さん、明日は王国の騎士団がこの町に来るんでしょ? という事はさ、フレイア様も来るの?」
僕はこの時を待っていた。"騎士団長フレイア"彼女と出会う事を。
「おぉ、フラウ、良く知ってるな。もちろんフレイア様も式典に出席されるはずだぞ。なにせ、アストレア王国とシュトラウス王国の和平式典だからな」
「ねぇ、これで戦いは減るのよね?」
母が不安そうな声で父に訊ねた。
僕達が暮らすアストレア王国とシュトラウス王国は、ここ数年の間小さな争いが続いていた。原因は魔族の侵攻だと言われている。魔族の勢力が増し、人の生活領域が減ったことで資源や領土に関する小競り合いが頻発しているのだとか。
「少なくとも人間同士の争いは減るはずだ」
父さんはそう言うと、僕の頭を優しく撫でた。
「フラウ、お前にはどうか平和な世界を見せてやりたい」
「父さん、僕が父さんに平和な世界を見せてあげるよ」
僕は子どもらしく胸を張って大言を吐いて見せた。
「ははは、期待してるぞフラウ。お前ならフレイア様が率いる白影騎士団に入れるかもな」
そう、僕の目的はこの白影騎士団に入る事だ。僕はなんやかんやで約束は守るタイプなのだ。それが第二の人生を与えてくれた女神様との約束というのなら、全力を尽くさない訳にはいかないだろう。
人と魔族の争いを止める。その為にもまずは人間側でしっかりと立場を作らないといけない。




