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第2話 ヘビースモーカー



「やい、フラウ! 弱虫フラウ! お前の家って貧乏なんだろう? 俺の父上が言ってたぞ。ルイスの家には近付くなって! お前みたいな変な奴が産まれてきてから、ルイスの家は落ちぶれたってさ!」


 あーあ。この年頃の子どもは本当に嫌いだ。小賢しくて、無神経で、そして、驚く程に弱っちくて。


「僕の家は貧乏だけど、父さんも母さんも仲良く暮らしてる。お前の父親みたいに色んな所に子どもを作って悪さをしてる訳じゃない。それが分かったら二度と僕の家の悪口を言わないでくれ」


 そして、そんな僕も小賢しくて、無神経で、とびっきり弱っちい年頃の子どもに育っていた。


「フラウ、お前ぇ、よくもそんな事を俺に言ったな! いや、俺だけじゃない。これはヴァンシエト家への冒涜だ! ミリアに言いつけてやるからな! 覚えておけよ!」


 ヴァンシエト家の次男坊、ヴァンシエト=ロッソはそう言うと、僕の肩を一発殴ってからヴァンシエト家の屋敷の方へ駆けて行った。


 まったく、いつもいつもこの調子だ。ロッソとロッソの双子の姉ミリアは、僕の事がとことん気に食わないらしい。何かにつけてはちょっかいを出してくる。まぁ、原因は分かっているのだけれど、それでも僕にだって僕なりの事情はある訳だしーー。




 あんなロッソ(ばか)の事はとりあえず放っておこう。ミリアが報復に来るとなれば話は変わってくるのだが、あの面倒くさがり屋が自ら動く事も、そうそう無いだろう。


「今日は時間があるし、クレグ爺ちゃんのとこでアルバイトをさせて貰うかな」


 僕がこの世界で再び目を覚ましてから十年以上の時が経っていた。今ではあの草原の出来事が夢だったんじゃないかと思う程にこの世界での暮らしが当たり前の事となっている。

 だけど、僕の中には前世の確かな記憶が残っていた。前世での名前、両親の顔、それに友人との思い出など、十数年経った今でも鮮明に思い出される。思い出せない事と言えば、僕の死因くらいだ。そもそも僕は本当に死んだのだろうか、あんなに元気だったのに――。


「おぉ、おぉ、よぉきたな、フラ坊」


 町の外れにある小さな薬屋の戸を開けると、腰の曲がった老人がえんやえんやと僕の来訪を喜んでくれた。


「こんにちは、クレグ爺ちゃん。良かったら今日も何か仕事を任せて欲しいんだけど」


「あぁ、もちろんだともさ、この歳になると何をしようとしても時間がかかって敵わんからな、今日も頼むよ、フラ坊」


 そう、この腰の曲がった老人こそクレグ爺ちゃんだ。最近はあまり体調が良くないと聞いて、僕は自身の小遣い稼ぎも兼ねてこの薬屋で時々働かせて貰っている。


「ほいじゃあの、フラ坊には今日も薬草を取ってきて貰おうかの。なんたって、明日はこの町に王国の騎士団が立ち寄ると聞いとるからのぉ、商売時じゃて」


「わかったよ。じゃあ今日も沢山取ってくるからさ、楽しみに待っててよ」


 僕は戸の横に置かれていた背負籠を手に持ってすぐさま店を出ようとした。

しかし、何か後ろ髪を引かれる思いがして、僕は再びクレグ爺ちゃんの姿を目視で確認した。何事も無い。爺ちゃんはにこやかに僕を見送ってくれている。


「そうじゃ、フラ坊。お前も、もう12の歳になる頃じゃろう?」


 振り返った僕の顔を見て、爺ちゃんは思い出したように言った。


「そうだよ。三日後に12歳になるんだ。もう一人前の大人だよ」


「ははは、そりゃあお祝いをせんとな。そうじゃ、フラ坊が12の歳になったらパイプ煙草の吸い方でも教えてやろうかの。これが上手く吸えるようになれば、それこそ大人の仲間入りじゃて」


 クレグ爺ちゃんは引き出しから取り出してきたパイプをちらつかせながら言った。

それを見た僕は身震いする。前世での記憶が、感覚が、その瞬間に一挙に押し寄せてきたのだ。


「クレグ爺ちゃん、絶対だよ! 絶対に僕のパイプ煙草を用意しておいてね!」


そう、僕は前世ではヘビーが前に10個付くほどのヘビースモーカーだった。



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