7 校舎裏にドナドナされています
誤字報告ありがとうございます、助かります…!
ドナドナド~ナ~……と脳内でこの国で有名な動揺が頭の中に響いている。確か、出荷されるメゥエゥの話だったかな。出荷されながらも故郷を恋しく思うメゥエゥの切ない歌。
ちなみにメゥエゥの毛は最高級の毛糸として人気、肉は高級レストランでメインによく使われている。革は薄くてなめすと丈夫で染色しやすく、骨は熱を加えると固く白くなるので入れ歯や印章によく加工される。
メゥエゥに捨てるとこなし、と言わしめる優秀な家畜だ。
でも私はメゥエゥではないので捨て置いて欲しい。
昼休みに入ると同時、フィーネさんが私の席まできてベルノート様に向かい「女同士大事なお話がございますの、少々ニナさんをお借りしますわね」と言って私の腕を引っ張っつかみ、校舎裏に連れてきたのだ。
フィーネさんのお友達も一緒。なんだかもうイヤな予感しかしない。
「で、ニナさん。あなたがベルノート様を唆したのでしょう?」
「何のことかさっぱりなんですけど……」
正直に言ってみる物の、校舎の壁を背に周囲をぐるりと囲んだご令嬢がたに聞く耳は無さそうだ。
私も、なんでこんなことに? と朝から疑問でいっぱいなんです。でも下手なことを言って今の状況をやめられるのも嫌で。これが婚約者同士の正しい姿なんじゃないかな~、って思いこんで頑張ろうと思ってるところです。
と、いうことまで素直に口にできる雰囲気ではない。
「とぼけないでくださいませ!」
「どうせ卒業後は婚約者のあなたとばかり過ごされるはずなのよ!」
「学園に在籍している間くらい、私達のアイドルでいて欲しいってだけじゃない!」
「なのに、まだ独り占めしようっていうの!?」
険悪な顔でどんどん距離を詰めてくるフィーネさんとそのお友達たち。
でも、今のはちょっとかちんときた。
こういうのは初めてじゃない。
婚約してすぐから数年、一緒にお茶会や社交の場に出ることはあった。
そういう場で、なんであんたみたいな、と詰られる。
見た目も淑女らしさも少しでも隙があればそこをつつく。隙がないように頑張れば頑張るほど、今度は作り笑いでなんでもこなして気持ち悪い、周囲を見下して調子に乗ってる、とはじまる。
おかげで私の性格は家に居るときのお父様お母様と、見かねてラフに接してくれた使用人たちによって作られた。うん、だいぶね、淑女らしくは無いと思う。そういう素振りもできるけど。
「あなた、婚約者だからって調子にのってるんじゃなくて? ベルノート様は皆のアイドルですのよ!」
だから私のことを言われるのは慣れてるし、受け流すし馬鹿にし返す準備もある。
でも大好きなベルノート様をお慕いする気持ちはわかるけど、それで都合よく、ベルノート様が動いてくれるように仕向けようなんてするのは……許せない。
だから私は同担拒否なのだ。純粋にベルノート様を本気で奪いにこよう、とされるのも嫌だけど。
「あのさ……」
「なによ」
私が怒りのあまり俯いてしまい、そのまま低い声を発するも、フィーネさんたちは気付いていない。
「ベルノート様が優しいからって、なんでベルノート様の行動をあんたたちが変えようとしてんの? いうこと聞くお人形じゃないのよ」
まっすぐ睨みつけて言い返すと、ぐ、と一瞬言葉に詰まって怯む素振りを見せた。
「う、うるさい! 違うでしょ!? あんたがベルノート様をそういう風に仕向けたんでしょ!?」
そんなことできるわけない。
だって、学園に入ってから避けていたのは私だけど、それまで必要な時にしか会ってくれなかったのはベルノート様だもの。
私が全くフィーネさんの言葉にひるまないので、いよいよ彼女は激昂した。
「この……!」
思いっきり腕を振り上げる。
あぁ久しぶりにぶたれるのか、と思って、目はつぶらずにまっすぐフィーネさんを見た。
負けない。ベルノート様の意志を無視するような言葉になんて、負けないんだから。
「おい、何やってんだ!」
「だ、誰っ!?」
すぐにその正体は分かった。
大きな身体をフィーネさんと私の間に飛び込ませたのは、お菓子のカツアゲ、もとい引き取りをしてくれた、アベル・カジミール様だった。
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