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5 戸惑い

 ベルノート様が私の隣の席に移動したことで、私はピンチを迎えていた。


(お菓子出てきそう……っ!!)


 口の中を噛んで目を閉じて我慢する。

 授業中に目を閉じているなんて全くもって不真面目な態度だが私の今後の学園生活がかかってるので見逃してほしい。


 なんせ、ずーーーーーーーーーーっとこっちを微笑みながら眺めているのだ。ベルノート様が。あの輝くご尊顔で。

 それを見とがめられて教師に指名されても、はっきり明確に答えて正解を出している。かっこよすぎ。惚れる。いえもうずっと惚れてるけど……。


(めちゃくちゃ嬉しいけどなんで急に!)


 そうだ、そこだ。


 なんで急に? 朝からものすごく振り回されてしまったけど、ベルノート様の突然の豹変は何きっかけ?


 いよいよ私のおっかけ行為がバレたのだろうか。


 婚約者がおっかけをしているなんて外聞が悪いから、そうならないように近付いてきた、とか……?


 それにしても、ベルノート様だって私が避けはじめたら無理に近付いてくることはなかったのに、どんな気まぐれだろう。困る。産まれてしまいます(お菓子が)。


 私は小さな頃、ベルノート様に一目惚れした。

 くりっくりの紫の瞳に、肩まで伸ばした銀の髪。風になびくと光の輪がきらめいて、天使みたいだった。バラ色のほっぺにはにかんだ笑みを浮かべた全人類で一番可愛い子供だった。最初から張り合う気など起きない。

 今やその頃の面影は薄くなり、切れ長の目にしゅっとした頬、さらさらの銀髪はそのままだし、光源は100倍になった。でも成長するベルノート様も本当に素敵。


 物腰の柔らかさはそのままだし、いつでもにこやかで人を嫌な気分にさせたりしない。

 時々ちょっとワガママで強引なところがあるけど、そこも素敵だと思う。


 とはいえ。とはいえ、なんですよ。15歳からこっち、ほとんど挨拶以外の会話をしてこなかったのに、どうして私に構ってくるんだろうか。


 私はいつでもベルノート様を見ていたから分かるけど、昨日だって何もおかしなところはなかったはず。


「……ティーさん! ニナ・カーティー!」

「ニナ、呼ばれてる」

「は、はいっ!」


 考え事にふけっている間に、どうやら私は先生の指名を無視し続けてしまったらしい。

 怒った顔で「次の問題の答えは?」と聞かれてしまい、次どころか今現在どこの問題かも分かっていない私は、教科書に思い切り顔を近づけた。うん、近寄ってもわからない。


「a4だよ」

「……a4、です」

「よろしい。座りなさい。それと、授業はちゃんと聞くように」

「はい、すみません……」


 こっそりとベルノート様が教えてくれたので、一言の注意で済んだ。

 お礼を言おうとそちらを向くと、蕩けるような笑顔がこちらに向けられている。


 ――息って、どうやってするんだっけ。


 そのタイミングで終了の鐘がなった。

 私は教師の「今日はここまで」という声と同時に教室を飛び出し、朝も使った空き教室に飛び込んだ。


 瞬間、ぽぽぽぽんっと何かがはじけてお菓子がいっぱい出てきてしまう。

 おめでとうございます、元気なチョコスコーンとクッキーです……じゃなくて。


「なに、あれぇ……」


 さっきの、陽射しに溶けそうな眩しい笑顔。

 顔がぼっと熱くなる。

 私は両手で顔を覆ったまま、床にへたりこんでしまった。

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