3 お菓子のカツアゲ?
「え、っとぉ……な、何の話でしょうか」
「いや、お前、それは苦しいだろ」
いやーまったく本当に、ごもっとも。私は回遊魚かというくらい目を泳がせたけれど、その隙にずんずんと距離を詰められてしまう。
アベル・カジミール。カジミール伯爵、もとい王立黒鷲騎士団の団長であるカジミール卿の息子。
学園の騎士科で、たしか『誰も近付けさせない』剣技を使うとかで有名……あんまり社交が得意じゃない私でも知っている。
若草色の髪をあちこちに跳ねさせて、制服も着崩している。ちょっと怖い顔と、高い背に大きな体格が恐れられていて……。
恐る恐る見上げたら、深い緑の瞳はじっと私の手元のお菓子袋に向いていた。
(近くで見ると、怖くない、気がする?)
前評判に聞いていたよりも、なんだかとっつきやすそうだ。
口調が少し乱暴だけど、表情も柔らかいし……。
「で、その菓子、食わないならくれよ」
「お菓子って、まったく身に覚えがありませんワ……」
苦しい。どう考えても苦しい。だって私のお菓子が出てくるときって、絶対に『ぽんっ』って何か弾けるような音がするし。この部屋の中にいたなら聞かれていた。
「なぁ」
でも出すところは見られていない、はず。
え、いや、そもそも隠さなきゃいけないわけじゃない……、わけがない。
特異体質だって言ったって、何でもかんでも受け入れられるものじゃない。
「おーい」
得体のしれないお菓子を出す私なんて、噂がたてば一瞬で気持ち悪がられる。
どこからか盗んできたと、そんな風に言われるかもしれない。
(そしたら、ベルノート様にも嫌われちゃう……)
「なぁって!」
「ひゃいっ!」
忘れてたー! 目の前にいるのにすっかり存在を忘れていた。
大きな声にびっくりしたけど、壁を叩いたり腕を掴んだりはしてこない。……意外と、いい人っぽい。
「俺はただお菓子が食いたいの。そんで、お前はそのお菓子、どうするんだ?」
「どうって……、えーっと」
ぎゅっとお菓子回収袋を握る。
私は、タウンハウスの使用人の一部には自分の特異体質を知られている。家の中でまで隠すのは無理だから。
それに、家族もみんな知っている。
だから、食べきれない程溢れたお菓子は、家に帰ってそんな使用人や家族と分ける。
お菓子に罪はないしね。実際美味しい。
「家で、食べるわよ」
「毒じゃないんだろ?」
「あ、あたりまえでしょ!」
反射的に強い言葉で否定してしまった。
びっくりした顔をしているのを見て、気持ちが落ち着いていく。
「ごめんなさい、あの……毒じゃないわ。美味しいお菓子なの。でも、どこから、どうやって出てきているのか、不明なものだから……」
「じゃあ、食っても腹に溜まらないとか?」
「え? いえ、そんなことは無いけど……」
食べたら消えるお菓子? なにそれ欲しい。
今度は私がびっくりして思わず顔を見上げてしまった。
「じゃ、いーじゃん。俺は腹減ってんの、それ、くれよ!」
倉庫の中で、こちらを見下ろしながら、にかっと笑うカジミール様を見ていたら、思わずうなずいていた。
両手をあげて喜ぶ姿にすっかり毒気を抜かれて、お菓子回収袋をそのまま渡す。
「おお、すごい。焼き菓子ばっかじゃん。うまそ~、いただきます」
「め、めしあがれ」
床にどかりと座ると、お菓子回収袋を膝に乗せて、さっそく一つずつ豪快に食べていく。
「うっま! なぁこれめちゃくちゃうまいじゃん!」
いや、食べかすを出さないように食べているから、豪快に繊細? でも、美味しそうに食べてくれている。
私はその場でしゃがんだ。なんだか一人だけ立って見下ろしているのも違和感があるし。
「ねぇ、なんでここにいたの?」
「……んー。俺、いじめられてるから?」
「えぇ?! そうなの?! なんで?!」
「うそうそ、そんなに騒ぐなよ。その話は……あー、また次に会ったらな」
もう予鈴なるぞ、と言ってカジミール様はあっという間に立ち上がり、私に袋を返してくれる。
「知られたくないんだろ? ここで出してくれれば、俺が全部食べてやるよ。内緒にもしとく」
「え……、あ、ありがとう」
「だってタダでうまい菓子が食えるんだもんな」
お礼を言った言葉を返して欲しい。今から思い切り息を吸ったら回収できないかしら。
「じゃあな、えーと……菓子の人!」
「ニナ・カーティーです!」
「おー、じゃあまたな、カーティー嬢」
それだけ言うと、扉の鍵を開けてカジミール様はさっさと去っていった。
一瞬見えた廊下は生徒の数が多くなっていて、少し間を空けてから私は空き教室を出る。
なんだかカツアゲされた気分だ。まぁ、減ってくれた方が助かるからいいんだけどね。
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