愚かな私
初めてクレイン皇太子殿下に会ったのはお互い7歳の頃だった。
「初めまして。シャリアン・ルヴェータと申します。
お会いできて光栄です。」
貴族の子供らしくない挨拶をして、子供らしくない振る舞いをする。
窮屈だったのを覚えている。
親同士が決めた婚約者の顔合わせ。
そうは言われても小さな私にはピンとこなくて歳の近い男の子と友達になりたかっただけだった。
彼はあまり私と目を合わせてくれず、少し寂しかった。
最初は私が彼のお城に行くことが多かったけど、少ししてからはクレイン様の方からルヴェータ公爵家に来ることも多くなった。
そこで初めてクレイン様とマリーは出会う。
私と殿下はもう9歳になっていて、マリーは8歳だった。
マリーは実は養子で、昔から父様と交流の深かった商人の娘で、実の両親が事故でなくなった時引き取ったのだ。
傷付いたマリーとずっと一緒にいたからか、彼女は私にとても懐いてくれて私も可愛くて仕方なかった。
そんなマリーと殿下は、始めは会話もあまり無かったが、いつもお互いを意識しあっているようだった。
2人とも、私といても見ているのはお互いのことばかり。
しばらくしたら私のいない所で笑いあっていた。
クレイン様は私の前であんなふうに笑ってくれたことも話してくれたこともない。
目すら合うことが珍しいほどだった。
2人はどんどんかっこよく、美しくなっていった。
とてもお似合いだった。
私は胸の中に生まれたモヤモヤには気づかないふりをしてふたりといた。
マリーはよく、「クレイン様が剣の指導を受けているようですよ。見に行きましょう!」
そう言って彼の様子を熱心にみていた。手作りのお菓子を作っていたこともあった。私は味見もさせて貰えなかったけど。
それにクレイン様も「マリアンのヴァイオリンの発表会に僕も一緒に行っていい?」
そう言って2人で何度か見に行った。
もちろん私の発表会にも来てくれたけど、きっと婚約者という肩書きがあったから。
私を本当の意味で見てくれることはないと知っていても、
マリーと無邪気に笑うあなたの笑顔に、舞踏会で包んでくれた優しい指先に、惹かれてしまった私はなんて愚かなんだろう。