はやくしないと
「お父様!お母様!マリーが!ついに!殿方と結ばれましたの!しかもしかも、お相手は殿下なの!!キャーー!」
馬車から降りてお父様とお母様のいる部屋までダッシュで向かった。
ノックもせずに入り、言いたいことだけ言った。
そしてもちろん父親のジルド・ルヴェータと母親のリリアン・ルヴェータはポカンとしていた。
そんなはずはないと知っていたからだ。
あのシャリアンにしか目がない皇太子がほかの女性を、
ましてやあのいつも喧嘩しているマリアンに心変わりするなどありえない。
妹大好きなシャリーのことだ。
ものすごい早とちりをしているとすぐにわかった。
しかし、なんとも、
皇太子殿下が不憫に思えて仕方がない……。
「こうしては居られないわ!宴の準備をしなければ!
結婚式の日取りはどうしましょう!そうですわ!その前に婚約破棄!婚約破棄をしましょう!
もちろん承諾してくれますよね!ね!お父様!」
2人は頭を抱えていた。
「私はシャリアンをのびのびと育てすぎたのだろうか。
妃教育で少し大人しくなったかと思ったらお転婆は相変わらず……。
マリアンはマリアンで皇太子殿下とはいつもいつも……。」
「あぁ、わたくし、皇太子殿下がお可愛そうで。
少しおっとりしているところがあるとは思っていましたが彼の気持ちがこんなに何も伝わっていないとは思いませんでした。
もう、どうしましょう。」
そんな両親の気持ちなど知る由もなく、彼女は
「早くしなければ!急がなければ!」
と興奮するばかりだった。
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そうよ。早くしないと。早くしないといけないの。
心からマリーと殿下を祝えるように。
早く2人が結婚して、皇帝とその妃になって、手の届かない存在になって貰わないと。
醜い気持ちが出てしまう前に。
苦しい気持ちが誰にも知られないうちに。