2人は本当は
「…………婚約破棄…………。 恋愛感情など……なかった……。
デートも……手も…………。」
皇太子は覇気のない声でボソボソと呟いていた。
そしてマリアンは拳を強く握り怒っていた。そして皇太子に勢い良く指を指した。
「だーーーれがあんたなんかと婚約なんてするのよ!
絶対ごめんよ!!」
皇太子に向かってあるまじき言動だが、貴族たちの中ではよく知られた光景である。
いつもならここで皇太子が何か言い返して喧嘩がヒートアップするのだが、彼は今それどころではなかった。
「シャリー……。僕のシャリー……。」
彼は小さい頃からシャリアン一筋のシャリアン大好き人間だった。
「ハンッ!婚約は絶対嫌だけどねぇ様の気持ちがよーくわかったわ!ざまぁみなさい!ヘタレ!」
そしてマリアンは姉大好きのシスコンであり、姉の婚約者である皇太子を目の敵にしていた。
「ただ、どちらがシャリーを好きか言い合っているうちに、気付かず会場に入って来てしまっただけなのに……。
支度が遅くなり遅れると言っていたからエスコートだって渋々出来なかっただけなのに。」
もうこのまま塵になってしまうのでないかと言うほど絶望仕切っている。
「それは嘘よ。あんたがいない間に私がねぇ様をエスコートしたかったのに、あんたがねぇ様の様子知りたさに私を呼びつけたのが悪いのよ!」
腕を組んで縮こまった皇太子をこれでもかというほど見下している。
「嘘を吐いたお前が悪い!お前はいつもいつも僕とシャリーの仲を邪魔する!いい加減離れろ!このシスコン!!」
怒った皇太子がいつもの調子を取り戻しつつあった。
「褒め言葉をありがとう。でも、あんたが10何年もずっと好きだの一言も言えないのが悪いのよ!恋愛感情はなかった。手も繋いだことがない。ですって。今まで一体何をしていたのかしら。陰からコソコソ覗き見ていざ近寄れば緊張で目も合わせられない人に悪者扱いされたくないわ!」
彼女は可愛らしい見た目に反して中身はたくましかった。
そしてあまりの正論に皇太子はもう何も言えない。
そして会場中のみんながクレインとマリアンが犬猿の仲であり、シャリアンを異常なまでに愛していることを知っている。
つまり、シャリアン・ルヴェータ
彼女だけが何も知らない。とても鈍感なのだった。