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死神と呼ばれた公爵は転生した元巫女を溺愛する  作者: 冬野月子
第二章

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10

夕食を終えて部屋で休んでいると、内扉がノックされる音が聞こえた。

私が使っているのは王太子妃用の部屋で、フィンの部屋とは中で繋がっている。

その、二つの部屋の間の扉を叩くのはフィンしかいない。


立ち上がって鍵を外す。

扉が開くと案の定フィンが立っていた。

「少しいいか」

「ええ」

部屋に入ってきたフィンがソファへ腰を下ろしたので、その隣へ座ろうとするとすかさず手が伸びてきて抱き上げられ、フィンの膝の上に座らされた。

「サラ」

フィンの唇がわたしのそれに触れた。

最初は軽く触れるだけで、二度三度と啄むように口付けられる。

「――サラ」

離れた唇が、吐息と共に私の名を呼んだ。


「結婚式はいつにするか」

「……え?」

「どうせ王都でも挙げろとうるさいだろうが、公爵領でなら準備もたいしていらない。サラのドレスを作ってさっさと……」

「え、どうしたの突然」

結婚式ってさっさとするものなの? 公爵なのに?!


「エレンは、君を巫女として見ている」

フィンは私の手を握りしめた。

「ここまま君を王宮に残したいと言い出すだろう」

「……エレンは不安なのよ。巫女のいない王として十年間、一人で玉座に座り続けてきたんだもの」

夫のブレイクや補佐する者たち、それに大叔父でもある大司祭が支えになってきただろう。

それでも、王というのは孤独な者だと、私も何代もの王を見てきて知っている。

「だから君が巫女として支えるのか?」

「それはできないわ。私は女神に伺いを立てることができないから巫女としての務めを果たせないもの」

だからそんなに心配しなくてもいいのに。


「――だが、女神は君を認めているのではないか?」

「え?」

「ルナが君に懐き、女神の加護を得た。一昨日だって君は女神から石を授かっただろう。それに今日も、君が祈りを捧げると部屋の空気が変わった。常に君の周囲には女神がいるだろう」

「それは……」

「女神が君を未だ巫女として見ているからではないのか」

――フィンは鋭い。

確かに女神は私のそばにいるけれど、でもそれは巫女だからというよりも、私が女神の娘だからだ。

娘を心配する母親として、そしてエレンのことも気にかけているから女神はその存在を現しているだけなのに……。

私は女神の声が聞こえないことになっているから、それを伝えられないのがもどかしい。


「それはきっと、エレンを気にかけているからだわ」

本来、たとえ巫女がいたとしても女神はそう簡単に向こうから人間に関わってくるものではない。

巫女が伺いを立てなければ言葉を与えることはないし、必ず毎回言葉を与えてくれるものでもない。

二十年ほど前の戦争時は、非常時だったこともあって言葉を授かることも多かったけれど、基本人間の力でどうにかできることは自分たちでしなさいというのが女神の考えだ。


「女神は……多分、エレンが悩んでいるのを見守っていたところに私が現れたから。私なら言葉がなくても意志が伝わるんじゃないかと……」

「それはやはり、女神も君を巫女だと認めているということではないのか」

フィンが言った。

「言葉が聞こえたり伺いを立てられなくとも、君は女神を意志を汲み取りそれを伝えることができる。それは巫女と変わらないだろう」

フィンはもう一度私の手を握りしめた。――彼は、何をそんなに不安になっているのだろう。


「……もしも私がまた巫女になったらあなたと結婚できなくなると思っているの?」

「違うのか」

「そんなに心配しなくても、私はあなたと結婚できるわ」

私は空いている手をフィンの頬へと伸ばした。

「巫女が結婚してはならないのは、その血を利用されないためなの。でもこの身体は巫女ではないから大丈夫よ」

「巫女の血?」

「……巫女の血や魔力は特別だから」

女神の血を引いているとは、フィンにも言えないけれど。

「必要以上にその血を増やさないために、巫女は子を成すことを禁じられているの」

「……今のサラの血は巫女ではないのか」

「違うわ。見た目は変わらないけど、この身体は歳も取るし巫女の血も流れていないもの」


「――それでも、エレンは君を手元に置いておきたがるだろう」

頬に触れた私の手をフィンは握りしめた。

「やはり建国祭が終わったらさっさと帰り結婚式の準備を」

「フィン……そんなに王都にいるのは嫌?」

「ああ」

「どうして」

「ここは人が多すぎる。サラを多くの視線に晒したくないし、それにエレンに渡したくない」

「そんなにエレンを嫌がらなくても……」

ふふ、と思わず笑ってしまったけれど。

「フィン。あなたはお兄さんなのだから、少しは妹のことを気遣ってあげて」

エレンには支えが必要なのだ。

どうも彼女の周囲は男性ばかりで、女性は侍女くらいらしい。

だから私が少しでもエレンの支えになってあげたいと、そう思っているのに。


「あれは気遣わなくても平気だろう」

「ダメよ。あなただって王太子だったのだから、王の大変さは分かっているでしょう」

そう言うと、フィンは不服そうに少し口を尖らせた。

(こういうところは変わらないのね)

フィンは幼い時も、私がエレンと二人でいると邪魔をしようとしてきていた。

今でもエレンに私が取られると思っているのだろうか。


「それに反女王派の問題とかあるのでしょう? だから今はエレンを助けてあげないと」

「――今だけだ。片付けば領地へ帰る」

「もう……」

(本当に、エレンのことになると子供みたいになるんだから)

口にすると更に拗ねそうだから、心の中でそっとため息をついた。


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