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死神と呼ばれた公爵は転生した元巫女を溺愛する  作者: 冬野月子
第一章

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「旦那様。お客様です」

屋敷へ戻ると出迎えたアーネストがそう告げた。


「客? 聞いていないが」

「悪いな、先触れもなしで」

フィンより少し年上くらいだろうか、背の高い男性が現れた。

「……ブルーノか」

「久しぶりだな、将軍。って今は公爵様か」

「どうしてこんな所に」

「任務帰りなんだ。ここの城下で面白い噂を聞いたからさ、お前にとうとう婚約者ができたって。こちらのお嬢さんか?」

男性はサラの目の前にやってくると、胸に手をあてて礼をとった。

「ブルーノ・オールディスと申します。王都の騎士団に所属していて、昔は閣下の下で働いていました」

「……サラです」

「いやあ、噂通りの美人ですねえ」

「わざわざサラを見るためだけに来たのか?」

「大事件だろう。王家には報告したのか?」

「いや」

「きっと大騒ぎになるぞ、いい意味でも悪い意味でも」

「どういうことだ」


「少しいいか」

「――執務室へ」

ブルーノと視線を交わすとフィンは促した。



「王都の状況は耳に届いているか」

二人きりになるとブルーノは切り出した。

「特に問題はないと聞いているが」

「表向きはな」

用意されたお茶を一口飲んで、ブルーノはフィンを見た。

「女王が結婚して五年。未だ子ができないことが問題になりつつある」

「ああ……」

「それでだ。どうも貴族の一部に、女王を降ろしてお前を王にさせようという動きがあるという噂が届いたんだ」

「何だと」

フィンは眉をひそめた。


「お前が公爵になって十年。昔は死神なんて言われたが、今は領民に慕われるいい領主だという評判は王都にも伝わってきているからな」

即位した当初、女性が王となることに反発の声はあった。

だが女王の政務手腕は確かだったし、他に相応しい者もいなかったため即位後は表立って反対する者はいなかったのだ。


けれど女王も二十六歳となり、跡継ぎ問題が出てきた。

これが男の王ならば、側室を増やすなど対策も出来るだろう。

そこで王太子であったフィンを王に、と目論む勢力が出てきたというのだ。


「譲位は別にしても、お前に娘を嫁がせてあわよくば産まれた子を次の王にと考える貴族はいるだろうな」

ブルーノは言った。

「そういう連中が、既に婚約者がいると知ったらどう思うかだな。彼女は貴族なのか?」

「……いや」

「そうか、じゃああの子は妾にして正妻は別にとか言いそうだな」

「私の結婚相手はサラだけだ」

「戦場で出会ったんだって? ずっと副官として付いていた俺は初耳なんだが」

鋭い視線がフィンを見た。


「それは城下の噂だろう」

「真実ではないと?」

「戦場で出会ったわけではない。噂に色々と脚色が加わっているようだな」

「ふうん。王都で出会ったのか」

「――そんなところだ」

「そうか。まあ何にせよそういう相手がいたのはいいことだ」

お茶を飲み干すとブルーノは立ち上がった。


「もう一つ、女王にまつわる悪い噂を知っているか」

「なんだ」

「この十三年間、『巫女』が現れないのは女神が女王を祝福していないからだってさ」

そう言い残してブルーノは帰っていった。



  *****


「そんなことあるわけないわ!」

フィンから話を聞いて思わず声を上げた。

「女神はエレンのことを可愛がっていたし、それに祝福されないなら魔力を失っているはずよ」

「そういうものなのか」

「では……何故新たな巫女が現れないのでしょう」

アーネストが口を開いた。


「――巫女になれる、特別な魔力を持った者がいないからよ。それはエレンには関係ないことだわ」

もしも、エレンが男だったら巫女の父親になったかもしれない。

それほどエレンの魔力は強いものだが、そんなことを言ったら彼女が女であることを否定してしまうことになりそうだと思い口にはしなかった。

「……それに、巫女が何十年も現れないこともあると聞いたわ。焦らなくてもそのうち生まれるわよ」

巫女がいなくて困っていると女神が言ったのは、このことだったのだろうか。


女神によれば、人間の持つ魔力量を神が変えることはできないのだという。

『神だからといってなんでも出来るわけではないのよ』と女神は言っていた。

巫女が産まれるのも、その巫女の父親になれる人間が産まれるのも、女神の意志だけではどうにもならないのだ。



「しかし旦那様、困りましたね。そのような王都のごたごたに巻き込まれるかもしれないとは」

「全く。私は王都に戻る気はないし、王位などもごめんだ」

アーネストに答えて、フィンは私の手を取った。

「私の望みは、サラとこの地で生きていくことだからな」


「しかし……ブルーノ様のおっしゃる通りならば、そのうち誰かが旦那様に接触してこようとするかもしれませんね」

アーネストの言葉にフィンはため息をついた。

「一度王都に行ったほうがいいんじゃないですか」

ラルフが言った。

「大勢の貴族の前で、ガツンと宣言しておかないと」

「そういえば、建国祭の招待状が届いておりましたね」


「――本当に面倒だな」

フィンはもう一度ため息をついた。


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