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第九話

「たくみくん、お茶どうぞ」

「あ、どうも……」


 温泉旅館についた僕らはまさかの同室だった。

 なんでも大部屋にすると安いからという理由で神宮司さん一家とうちの家族が同じ部屋で寝ることとなったのだ。

 いや、もう何が何やらわからない。


「いやー、同じ部屋でみんなで寝たいと思いましてね」


 というのが神宮司パパの言い分だ。

 母さんも父さんも反対するかと思いきや


「ははは、修学旅行を思い出しますなー」

「みんなで一緒に寝るなんてワクワクしちゃう」


 なんて好意的にとらえているし。

 きぃちゃんにいたっては「たくみくん! 隣同士で寝よう!」なんて言ってきた。


 健全な男子高校生と女子高生を同じ部屋にするってどういう思考回路ですか?


 と思いつつも僕だけ別部屋というわけにもいかないので、部屋の隅で小さくしていた。


 神宮司ママがそんな僕に気を使ってお茶を用意してくれてるし。

 ううう、ほんと申し訳ございません。


「じゃあ染谷さん、ひとっ風呂浴びに行きますか」

「ええ、行きましょう行きましょう」


 神宮寺パパとうちの父さんがそう言って入浴セットを取り出すと、神宮司ママとうちの母さんも入浴セットを取り出した。


「じゃあ私たちも行きましょうか」

「ええ、そうね」


 ひとまずお風呂タイムとなったわけだけど、僕はどうしたものかと迷ってしまった。

 正直、今すぐに温泉に浸かりたいという心境でもないし、まずは部屋でゆったりと横になりたかった。


「父さんたちだけ行ってきなよ。僕はここで荷物番してるから」

「そうか? じゃあ先に行ってるぞ? たくみも来たかったらいつでも来いよ。荷物番なんて部屋に鍵かけときゃいいんだから」

「うん」

「清美はどうする?」


 神宮司ママの問いかけに、きぃちゃんも「私もたくみくんとくつろいでる」と言った。

 一緒に行けばいいのに。


「あらあら、まあまあ」


 神宮司ママは何か勘違いした様子で口に手をあてて笑っていた。

 ううう、この人も変な誤解してる。

 僕ときぃちゃんは全然そんな関係じゃないのに。


「じゃあ私たちは行ってくるわね」

「うん、いってらしゃい」


 ワイワイ出ていく四人を見送ると、部屋の中は僕ときぃちゃんの二人だけになった。


「ようやく二人きりになれたねー!」


 きぃちゃんは笑いながら大きく伸びをして横になった。

 そういえばこうやってくつろいでいる姿は初めて見る気がする。

 いつものきぃちゃんと違うからなんか新鮮な感じだ。


 僕もゴロンと仰向けになって天井を見上げた。


「なんか不思議だね。こうやって二人で横になってのんびりしてるなんて」

「ほんとほんと。夢が叶ったよー」

「夢?」

「いつかこうやってたくみくんと寝っ転がってのんびりした時間を過ごしたかったんだー」


 僕と一緒にというのはリップサービスだとしてもずいぶんしょぼい夢だなと思った。


「早くも叶っちゃったよー」

「よかったね」

「次の夢はたくみくんのお嫁さんかな」

「ぶほっ」


 吹き出した。

 いくらなんでもリップサービスが過ぎる。


「ちょっときぃちゃん。変な冗談はやめてよ」

「えー、冗談じゃないよー」


 キャッキャ、キャッキャと笑うきぃちゃん。

 ああ、神様。ありがとうございます。

 たとえ冗談だとしてもこんな美少女から「夢はたくみくんのお嫁さん」と言われるなんて僕は幸せです。


「たくみくんは?」

「僕は……そうだなー。きぃちゃんの旦那さんになることかな」


 きぃちゃんの冗談に付き合って、僕もそんなことを言ってみた。

 旅行に来てるからだろうか、何を言っても許されそうな変な雰囲気があった。


「ほ、ほんと!?」


 途端にきぃちゃんがガバッと起き上がる。


「え? え? え?」

「ほんとに私をお嫁さんにしてくれるの!?」

「え?」


 なに?

 なんかすっごい目を見開いてるんだけど。


 瞬間、僕は「あーーー!!」と悟った。


「ごごごご、ごめん! ウソです、冗談です!」


 やっちまったー!

 こんな僕が「旦那さんになる」だなんて、きぃちゃんからしたらめっちゃ気持ち悪いセリフじゃん!

 うわ、どうしよう。

 キモッとか思われてたらどうしよう。


「じ、冗談?」

「うん! 冗談冗談!」


 あはは、と笑ってごまかす。


「冗談なの?」

「ごめん、調子乗って変なこと言っちゃって。今の忘れて」

「………」


 手を合わせて懇願する僕に、きぃちゃんはちょっと泣きそうな顔になった。

 そうだよね。

 こんなモヤシみたいなヤツから「旦那さん」なんて言われたら泣きそうになるよね。


「………」


 きぃちゃんはしばらく沈黙した後、「もう知らない!」とそっぽ向いた。


 ほんとごめんなさい。



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