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第五話

「たくみくん、一緒に帰ってもいい?」


 今日の授業が終わって、開口一番きぃちゃんが隣の席から言ってきた。


 うわあぁぁぁ……。


 瞬時に教室中が殺気立つ。

 ほんと、彼女は自分が美少女だっていう自覚はあるのだろうか。


 いや、まあ自覚がないからこうして普通に僕に話しかけてくるのだろうけど。


「なんであんな奴にあんな美少女が……」

「あり得ん。絶対あり得ん」

「死ねばいいのに」


 穏やかではないセリフも飛び交っている中、きぃちゃんは自分のことだとは露知らず、僕に微笑みかけている。

 くっ、やっぱり可愛すぎてまともに見れん!


「い、いやあ、どうかな。僕、忙しいし……」

「え? でも部活やってないんでしょ?」


 う……。

 まさかの反論。

 なるほど、それでお昼休みに部活やってるか聞いてきたのか。


「ま、まあ、そうなんだけど……」

「久しぶりにたくみくんと遊んだあの公園とか行ってみたいよー」

「う、うーん、でもなぁ。どうしようかなぁ……」


 これ以上、仲いいアピールが続くとマジで怖い。

 本気で明日から机とか無くなってそうなんだけど……。


 うだうだと断る理由を考えていると、クラス中の殺気がさらに増してきた。


「おい、あいつ神宮司さんの誘い断ろうとしてるぞ」

「あり得ん。絶対あり得ん」

「死ねばいいのに」


 ひいっ!

 どっちみちダメじゃん!

 なんなんだよ、もう。


「わかったわかった、一緒に帰ろう」

「わーい。ね、ね、あの公園連れてって!」


 心から嬉しそうに笑うきぃちゃんの姿に、僕だけでなくクラス中の男子の膝が崩れ落ちたのだった。



    ※



「うわあ、懐かしい!」


 放課後、僕は昔遊んだ公園にきぃちゃんを連れて行った。


 遊具の危険性が指摘されてる昨今。

 かつてあったジャングルジムや大きな鉄棒は撤去されているものの、それ以外は当時のまま残されていた。

 僕も立ち寄るのは10年ぶりくらいか。


 背中を押し合ったブランコ。

 二人でお城を作ったお砂場。

 並んで滑ったすべり台。


 昔のままの遊具たちを見ていると、まるで昨日のことのように記憶がよみがえる。


「すごいよねー。私たち、毎日ここで遊んでたんだよねー」


 何がすごいのかわからないけれど、確かにこんな僕がこんな美少女とこの公園で一緒に遊んでいたというのはすごいことかもしれない。


「ね、ね。ブランコ乗ろ!」


 きぃちゃんは弾む足取りでブランコに突撃していった。


「おーい、コケんなよー」

「あたっ!」


 ええー……。

 マジでー……。


 言ってるそばからコケた。

 盛大に頭からズッコケた。


「だ、大丈夫?」


 慌てて駆け寄って手を差し伸べる。

 言わんこっちゃない。

 彼女は昔からどんくさくてよく転んでいた。


「あははー、転んじゃったー」


 笑いながらきぃちゃんは僕の手をつかんだ。

 自分で差し出しておきながら、その手をつかんだことにドキッとする。


 う、うわぁ、柔らけぇ……。

 肌スベスベ。


 高校生になって初めて触れる異性の感触にドキドキしてしまう。

 女の子の手って、こんなにも柔らかいんだ。


 クラスの男子が知ったら絶対ナイフで刺されるだろうな、と思いながらも力を込めて勢いよく立ち上がらせた。

 瞬間、勢いがつきすぎて目の前にきぃちゃんの顔が迫った。


「ふおおおぉぉぉーーーー!!!!!」

「え? え? なに!?」


 慌てて手を離して飛びのくと、きぃちゃんも驚きの声をあげた。

 ヤバい、完全に変な人になってる。


「ど、どうしたの?」

「……い、いや、虫がいたから」

「むむむ、虫ッ!? きゃあああぁぁぁッ!!!!」


 僕の言葉に、あろうことかきぃちゃんが抱き着いてきた。


「〇@%&#*ーーーーーーッッッ!!!!!!」


 あかーん。

 これはあかーん。


「どこどこ!? とってー」


 抱き着きながら涙目で訴えるきぃちゃん。

 そういえば、虫苦手だったっけ。


「ご、ごめん。うそ」


 かろうじて声を出すと、「いやいや」と泣いていたきぃちゃんがピタッと泣き止んだ。


「……へ?」

「ごめん……うそ……」

「う、うそ?」

「……うん、うそ」


 するときぃちゃんは胸の中で「プッ」と吹き出した。


「あはははー! だまされたー!」


 いや、笑うんかい。


「ひどーい! たくみくんのいぢわるー」


 いぢわるー、じゃなくて!

 早く離れてくれないかな!

 理性が吹き飛びそうです!



 やがてきぃちゃんはスッと身体を離し、

「でも、助け起こしてくれてありがと」

 と恥ずかしそうにお礼を言った。


 可愛すぎて死ぬかと思った。



 結局、その日はブランコに乗るのはやめてそのまま家に帰った。


「じゃあ、また明日ね」


 玄関のドアを開けてきぃちゃんが手を振る。

 僕も手を振ってこたえた。


「う、うん。また明日」


 ヒョイ、といなくなった後、また玄関から顔を出してきぃちゃんが言ってきた。


「電話、かけてきてね!」

「……うん」



 その日、僕は生まれて初めて家族以外の人にスマホから電話をかけたのだった。



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