表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/10

第四話

「もう、びっくりしたよー」


 お昼休み。

 僕はクラス中から揉みくちゃにされるきぃちゃんを避けて屋上に避難したのだけど、なぜかきぃちゃんが後から追いかけてきた。

 トイレに行くフリをして席を離れたらしい。



 ……そしてなぜか今、僕と一緒にお弁当を食べている。



「まさかたくみくんと同じクラスになるなんてねー」

「あははーそーだねー」


 終わった……。

 こんな美少女と下の名前で呼び合う仲なんて、普通に暗殺要件だわ……。

 明日から、いや今日から背後に注意して生きていかないと。


「もしかして私たち、運命の赤い糸で結ばれてるのかも? なんちゃって」

「げほ! げほ!」


 むせた。

 お弁当のタコさんウィンナーが思いっきり喉につまってしまった。


「げほ、げほ! げほ、げほ!」

「ちょっと、大丈夫!?」


 よりによって、なんでこう絶妙なタイミングで言ってくるんだ。


「しっかりして!」


 するときぃちゃんが背中をさすってきた。


 うっほほおう!

 それ、完全に逆効果ですから!


「げほげほげぼ!!」

「やだ、どうしよう! しっかり!」


 オロオロしながらお茶を用意しようとするきぃちゃんを手で止める。


「ハアハア、ご、ごめん、大丈夫。大丈夫だから」

「はああぁ、よかったあぁ」


 心からホッとするきぃちゃんは、少し涙目になっていた。

 ううう、可愛すぎて僕も泣きそうだわ。


「ご、ごめんね、私が変なこと言ったから……」

「ううん、大丈夫! よく聞こえなかったから! 僕が勝手にのどを詰まらせただけだから!」

「………」


 あ、あれ?

 フォローしたつもりが、なんか悲しそうな顔になった。


「……そっか、聞こえなかったか」

「え?」

「ううん、なんでもない! それにしてもたくみくんのお弁当、おいしそうだねー!」


 悲しそうな顔も一瞬で、すぐにきぃちゃんはとびきりのスマイルで僕の弁当を覗き込んできた。


「まるでお弁当屋さんのお弁当みたい」

「うちの母さん、弁当屋で働いてるから」

「ああ、そっか! たくみくんのお母さん、お弁当屋だったよね!」

「雇われ店長だけどね」

「いいなー、このミートボールとかおいしそう」

「………」

「………」

「………」


 ……これは「くれ」というサインなのか?

 チラチラこっち見てるし。


「私のも見て見て! 自分で作ってるんだよ!」

「へええ」


 きぃちゃんが見せてくれたのは、色とりどりの食材で埋め尽くされた可愛いお弁当だった。

 美少女で料理も上手いって、どんだけだよ。


「美味しそうでしょ?」

「う、うん、まあ」

「この玉子焼きとミートボール、交換しよ?」


 はいきたー!

 ミートボール狙ってたー!

 ううう、僕も好きなんだけど……。

 でもここで断ったら小さい奴だと思われそうだし……。


「……別にいいけど」

「やったやった! 取引成立!」


 きぃちゃんは嬉しそうに自分の弁当箱に入っている玉子焼きをつかむと、僕の弁当箱に優しく入れてくれた。

 きれいな玉子焼きだ。

 見ただけで涎が出てくる。

 代わりにきぃちゃんは僕の弁当からミートボールを奪っていった。


「う、うんまっ!」


 口に入れた玉子焼きは超がつくほど美味しかった。

 マジでビックリだ。

 今まで食べたことがないほど美味しい。

 なんだこれ、本当に玉子焼きか?


「ふふ、美味しい?」

「はひ、ものすごくおいひいでふ……」


 思わず口調が変わってしまう。

 きぃちゃんはそんな僕を見て満足そうにうなずいた。


「じゃあこのミートボールも。あーむ」


 ミートボールを口に入れた瞬間、きぃちゃんは「んー!」と腕をバタバタさせた。


「これもすっごく美味しいよー!」


 ふふ、母さんのミートボールは世界一だからな。

 自分の手柄ではないのに、なぜか誇らしくなった。


「ところでさ、たくみくんって何か部活入ってるの?」

「部活はねえ、入らなかったんだ」

「ええ!? 入ってないの!? 身体動かすの好きだったじゃない!」

「身体動かすのは好きだったけど、それがイコール運動神経じゃかったから……。スポーツ苦手なんだ」

「ええー。あんなに追いかけっこ速かったのにー」



 言われてみれば、きぃちゃんと鬼ごっこをしてあまり負けた記憶がない。

 僕が鬼だとすぐ捕まえられたし、きぃちゃんが鬼だったらいつまでも逃げ回ることができた。


 でも、それは子どもの頃の話だしなぁ……。



「きぃちゃん、いつも泣いたフリして僕を捕まえようとしたよね」

「あはは! そうそう! だってたくみくん、全然捕まらないんだもん! 泣いたフリしたらいつも心配して駆けつけてくれるから、いつもそれで捕まえる瞬間を狙ってたんだ」

「ほんと、ズルかったなあ」


 あははは、とお互い笑いあった。

 なんだか昔のことを思い出すと、この緊張もほぐれてくるようだった。

 やっぱり昔一緒に遊んだ記憶っていうのはすごい。

 どんなきぃちゃんが美少女に変貌をとげていたとしても、昔を思い出すと途端に親しみやすくなってくる。


「今なら私、たくみくんを捕まえられるかもね」

「さあ、どうかな」

「なんなら今からやってみようか?」


 きぃちゃんが手をこねくり回すうちに、チャイムが鳴った。


「ヤバい、午後の授業始まる!」


 僕らは慌てて弁当をしまって屋上を後にしたのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ