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第三話

 案の定。

 というか、なんというか。


 登校してきた僕らに、学校中の生徒の目が釘付けになっていた。

 僕ら、というか主にきぃちゃんにだけど。



「おい、誰だあれ」

「美少女だ……美少女すぎるほどの美少女だ……」

「あんな子、うちの高校にいたか?」

「隣にいんのは……誰だありゃ。長ナスみたいなヤツだな」


 長ナスはひどい!

 まあ、きぃちゃんの隣にいたら長ナスに見えなくもないけど。

 一応、染谷そめやたくみという名前がありますです。



「なんか、すごい見られてるね……」


 オドオドしながらきぃちゃんがささやいてくる。


「う、うん、そうだね」

「私、変かな?」

「転校生が珍しいんだよ、きっと」

「ちょっと緊張する……。たくみくん、離れないでね」


 言いながら僕の制服のすそをつかんできた。


 って、うおおおおおおぉおぉぉぉいッッッ!!!!!!


 全校生徒の目の前ですそをつかむって、何考えてんのこの子ッ!

 僕を殺す気ですかッ!?


「おいおい、あれマジ?」

「あの二人、付き合ってんの?」

「やっべ、なんか殺意抱いたわ」


 ヒシヒシとまわりの生徒たちから悪意の塊が投げかけられる。


 ああ、もう。

 きぃちゃんは美少女なんだから美少女らしい自覚というものを持ってほしい。

 そしてできれば僕のようなモヤシの気持ちもわかってほしい。


「おい、誰かあの長ナスを呪い殺せ」


 どこからともなく聞こえた声に、思わず「やめて!」と心の中で叫んでしまった。




 結局、僕はそのままきぃちゃんを職員室まで送り届けることになって、その間、ここでは言い表せられないほどの罵詈雑言が僕を襲った。


「ごめんね、たくみくん。職員室にまで連いてきてもらって」

「あはははーだいじょぶさーぜんぜんへいきだよー(棒)」


 もはや心を殺さないと潰される勢いだった。

 とりあえず、ここまでくれば大丈夫だろう。

 きぃちゃんのことだ。

 編入される新しいクラスで新しい友達を作って和気あいあいとやっていけるに違いない。


「じゃあ、僕は教室に戻るから」

「うん。ここまでありがとう」


 地獄のような(でも少しは夢のような)登校イベントが終わって僕はホッとしながら教室へと戻った。



     ※



「はじめまして。N県から転校してきました神宮司じんぐうじ清美きよみと言います。よろしくお願いします」

「………」


 きぃちゃんが来た。

 あろうことか、きぃちゃんが僕のクラスに編入されてきた。



「うおおおおぉぉぉッ!!!!」と盛り上がる男子たち。

「きゃあああぁぁぁッ!!!!」と奇声をあげる女子たち。

「まぢかああぁぁぁッ!!!!!」と(心の中で)叫ぶ僕。



「美少女だ」

「美少女だ」

「美少女だ」

「美少女だ」



 まわりから呪文のようにボソボソとつぶやく声が聞こえる。

 あまりの美少女っぷりと、うちのクラスに編入された嬉しさとで本音が漏れてるらしい。


 それを思うと、久しぶりに再会した時、僕もつぶやいていたのかと不安になってくる。



「一日も早くみなさんと仲良くできたらいいなと思います」



 極めて普通のことを言っているのに、美少女が言うと崇高なセリフのように聞こえるのはなぜだろう。

 どこかで誰かがポツリと「神の言葉だ」とつぶやいていた。

 どうやら、一人は壊れてしまったらしい。



「そういうことで、神宮司さんの席は……」


 はいっ! はいっ! はいっ! と一斉に手を挙げる男子たち。

 わかりやすすぎるな、おい。


「オレの隣がいいと思います」

「僕の隣がいいと思います」

「絶対オレの隣がいいと思います」

「はあ? オレの隣がお似合いだろうが」

「おっと、私も忘れてもらっては困るな」

「僕が一生幸せにします」


 まるで隣の席争奪戦のごとく喧嘩が始まった。

 っていうか、一人関係ないこと言ってません?



 教室中が騒がしくなってきたところで、担任の先生(♀)がバンッ! と教卓を叩いた。


「全員却下だ! 第一席が空いてないだろう! 転校生が来てテンション上がる気持ちはわかるが、少しおとなしくしろ!」


 さすがは校内一の女豹と恐れられている先生だ。一発で静かになった。

 ある意味、このクラスに編入された理由もわかる気がする。


「古来から、転校生は一番後ろの席と決まっている」


 古来からって……。

 この先生もちょっと変わってるなあ。


 ……。


 ん?


 一番後ろの席って……。



「神宮司さんは一番後ろ、染谷さんの隣に座りなさい」

「はい」



 うそおおおぉぉぉぉんッ!?!?!?

 僕の隣に来たあああぁぁぁぁッッッ!!!!!

 確かに隣の席空いてるけどおおぉぉぉぉ!!!


 ヤバい、普通に考えたら僕の隣だったわ。


 きぃちゃんは新品の教科書やカバンを持ちながら僕のそばに近づいてきて頭を下げた。



「はじめまして。これからよろしく……あれ?」

「ど、どうも……」

「た、た、た、たくみくんッ!?」



 瞬間、教室の温度が10度くらい下がった。……気がする。



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