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最終話

 夕暮れ、城へ帰ってきた人魚姫は、姉姫達の髪がバッサリ切られていることに驚いた。そして、その理由を知って、涙を流して何度もお礼を言った。


「きっと、幸せになってね」


 姉姫達は人魚姫を抱きしめた。


 人魚姫はお父様のところへ行き、薬を受け取った。


「幸せになるのだよ」


「ありがとうございます。お父様」


 人魚姫はお父様を強く抱きしめた。


 次の日を待ちかねて、人魚姫は薬を持って王子様の待つ浜に行った。


 人魚姫のくれた薬を飲んだ王子は、海をスイスイ泳ぐことができた。息もできるし、目も見えるし、耳も聞こえるしで、海の水が塩辛くもなくなり、深いところもなんなく潜れた。


 珊瑚の間から真珠を取った王子は、浅瀬で待ち構える人魚の王様の元へ持っていった。


「間違いなく、私の投げた真珠だ」


 真珠を受け取った王様は、王子に笑いかけて抱きしめた。


「そなたは、娘に相応しい王子だ。娘を幸せにしておくれ」


「はい」


 力強く返事をして、人魚姫の元に泳いでいく王子を見送った王様は、浜辺に立っている王子の父上に近づいた。


 王様も人魚の王に近づいていき、ふたりは初めて挨拶を交わした。


 王様達は、先祖代々、お互いに深く関わらないようにお互いを魔物と言って遠ざけてきたことを、見直さなければならないと話し合った。そして、抱き合って喜び合う王子と人魚姫を見守った。


 今度は人魚姫が薬を飲む番になり、浜に座る人魚姫に、王子は軽いモスリンの白いドレスを着せた。

 人魚姫が薬を飲み干すと、スカートの中から可愛い足が出てきた。


 人魚姫は王子様に掴まって立ち上がると、踏みしめた砂の感触に、しばし足先を動かして楽しんだ。


 人間になれたと教えてくれるのは、足だけでなかった。人魚には熱すぎた王子様の体温が、心地いいものに変わっていたからだった。

 王子にも人魚姫の冷えていた体が、自分と同じくらい温かくなっているのがわかった。


 ふたりのそばへ王子の父上と母上が来て、人魚姫に微笑んだ。


「人魚姫、息子を助けてくれてありがとう」


 王様と王妃様は感謝を込めて、人魚姫の手にキスをした。

 王妃様は人魚姫を本当の娘のように思って、優しく抱きしめた。王様も優しく人魚姫に言った。


「さぁ、あなたの部屋を用意しているから、いらっしゃるといい、可愛い花嫁さん」


「ありがとうございます」


 人魚姫は王様と王妃様の手にキスを返した。


 王子は人魚姫を大事に抱えて城に帰り、人魚姫は靴を履いて歩く訓練をした。王子様に手を引いてもらい、靴に慣れると足の痛みも消えて、人魚姫はすぐにスイスイ歩けるようになった。数日も経つと、王子様と踊ることもできるようになった。


 まもなく、ふたりの婚礼が開かれた。まずは、船の上で結婚式が行われ、真っ白い絹のドレスを着た人魚姫は、王子様と永遠の愛を誓った。


 人魚姫は胸に手を当てて王子様を見つめ、王子様にも人魚姫に魂が宿ったのがわかった。ふたりは喜びを分かち合い、誓いのキスをした。


 祝福のラッパが鳴り響き、楽団が音楽を奏で、煌々(こうこう)と華やいだ船の上で、王子と人魚姫はいつまでも飽きずに踊り、一緒のベッドで眠った。


 船旅から帰ると、次は人魚の国で結婚式が開かれた。

 初めて人魚の国へ来た王子は、見るもの全てに驚いた。


「海の底がこんなに明るく、こんなに美しい城があるなんて」


 巻き貝の塔がそびえる白亜の結婚式場、王子は色とりどりの貝殻で飾られた天井を見上げた。


 王子は玉座の王様の手にキスをして、姉姫達の手にもキスしていった。


 姉姫達は王子様をぐるぐると取り巻き、満足そうに眺めた。

 結婚式場には人魚が集まっていて、王子と人魚姫を興味津々で見ていた。やがて、王子のそばに人魚の子供達が来て、王子の白い絹のズボンを穿いた足を眺めたり触ったりした。


「王子様、お姫様、ふたりに子供が生まれたら、一緒に遊んでもいいですか?」


「もちろんですよ」


 王子と人魚姫は、優しく子供達の頭を撫でた。


「子供の前に、結婚式ですよ」


 姉姫達はふたりを、誓いの場に連れて行った。


 光り輝く真珠貝の台に乗った人魚姫は、綺麗な貝の胸当てをして、白く光る絹のスカートを穿き、髪には王子様の贈った髪飾りをつけていた。

 可愛らしくも美しい人魚姫を、王子はいつまでも見ていたかった。

 ふたりが微笑み合って誓いのキスをすると、人魚達が踊りだし、姉姫達は美しいハーモニーでお祝いの歌を歌った。


 この夢のような結婚式を水晶玉で見ていた魔女は、あまりの眩しさに射抜かれたように目をおさえ、その瞬間に寿命がきて泡になった。

 魔女が最後に、美しい心を取り戻したかは誰にもわからないが、王子と人魚姫が末永く幸せに暮らしたことは、長い長い間、海と陸が繋がっている限り、誰もが知っているのだった。

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