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009 加虐のネーナ


「裏切り者だと……? チェリー貴様、何を言っている!?」


「しらばっくれる気か? その手は通じんぞピストン! 全ては貴様の弟であるオルガから聞いた!!」


「……ッ! オルガ、だと……ッ!?」



 またか。

 また、あの弟の策略か。


 何処までも何処までも、この僕を貶めようとする。



「セクス家を廃嫡されたんだってなぁお前? 聞けば平民のメイドを襲ったとか? 加護の儀での失敗で、やけっぱちになって取る行動がソレとは、堕ちる所まで堕ちたかピストン!!」


「誰が……ッ!」



 謂れのない侮辱に、頭が一瞬で沸騰する。


 この手の拘束が無ければ、今すぐにでも奴の首元に掴み掛ってやるのだが……!



「――ぐッ!?」


「手も足も出ないだろう? あぁ~良い気分だ~♪」


「……ッ!」



 僕の顔面へと靴底を押し付け、ぐりぐりと踏み付ける。

 

 くッ、縄さえ解ければこんな奴……ッ!


 僕は目の前のチェリーに向けて、スキル【解析】を試みる。



―――――――――――――――――――――――――


[チェリー=ビシェット LV.4]

 総戦力:120


 生命力:25/25

 魔法力:13/13


 攻撃力:20

 防御力:10

 素早さ:18

 賢 さ:22

 幸 運:12



スキル:挑発LV.1


―――――――――――――――――――――――――



 思った通りだ。


 どんな加護を受け取ったのかは知らないが、奴のステータスは僕よりも数段低い。


 例え【愛淫の加護】のバフが無かったとしても、この程度の相手ならば一撃で倒せるだろう。


 スキル欄の【挑発】というスキルだが……もしかしてコイツ、今、僕に使用しているのか?


 目の前のチェリーを無性に殴りたい自分がいる。敵の攻撃を引き付けるという意味では使えるスキルなのかも知れないが……使用者がコイツだと、嫌がらせにしか使えないな。



「何を黙ってる! ええ!?」


「……ッ」



 言って、チェリーは俺の腹を蹴り上げる。



「バスティアに行くつもりだったんだろう? 他の国ならいざ知らず、我が国と緊張状態にある王国へと行こうとしたのは、実の家族への復讐の為か!?」


「何ぃ?」


「追放された怨みがあるのだろう!? のこのこと国境付近の我が領土を歩いていたのがその証拠!」



 言いながら、俺への攻撃を続けるチェリー。



「王国に寝返って、帝国を潰す気だったか!?」


「……僕が王国に行ったら、帝国が潰れるのか?」


「馬鹿が! そんな訳ないだろう!!」


「ッ!」


「貴様が裏切ろうがどうしようが、我が帝国には何の問題もない! だが! それでも国には面子というものがある! 廃嫡されたとは言え、帝国貴族が王国へと鞍替えするなど、あってはならぬ事なんだよッ!!」


「――ハッ」


「!」



 そうか。あってはならぬ事か。

 それは良い事を聞いた。



「お前らがソレを嫌がると言うのなら、王国に寝返るのもありかもな? 僕とした事が、王国の存在をセクス家から身を隠す傘代わりにしか考えていなかったよ。目から鱗だ。礼を言うよ、チェリー=ビシェット。君のおかげで僕の方針は定まった」


「貴様ぁ……ッ!」



 顔を歪め、憤怒の表情を浮かべるチェリー。【挑発】スキル持ちが、こんなに【挑発】され易いというのはどうなのだろう?


 疑問に思う僕に対し、拳を振り上げるチェリー。

 来たる衝撃に歯を食い縛っていると、



「――そこまでですよ、お兄様」



 後ろから、やんわりと妹のネーナが制止を掛ける。



「ネーナ……」



 こいつは、兄の方よりも厄介そうだ。



「……僕の思い違いでなければ、君は僕に対し好意を抱いててくれたと思っていたのだが……?」


「ええ、そうですねぇ」



 さらりと、彼女は僕の言葉を肯定する。



「私は"冠英貴族"であるセクス家の次期当主――ピストン=セクス様の事をお慕いしておりましたわぁ……」


「……」



 過去形か。

 貴族でない僕に、興味は無いと。



「勘違いしないで下さいませ。確かに、平民となった貴方を男性として見る事は出来ませんが、それでも私が貴方に好意を持っているのは事実です。それは今でも一緒」


「……?」


「オルガ様からは、貴方を見付けて"始末せよ"と言われました」


「!」



 チェリー達があのタイミングで【シケタ】村へとやって来たのは、盗賊退治が理由では無かったという訳か。


 通報されたにしては速過ぎる到着だったし、まぁ納得だな。



「……嫌いな、セクス家の言う事を聞いたのか?」


「貴族たるもの、頼みとあれば無碍にはしません」



 ……金を積まれたか。弟ならやりかねないな。



「彼が言った"始末"とは、貴方様の存在を消すこと……言い換えればそれは"殺す"という意味ではありません。私はオルガ様の言葉をそう捉えました」


「……」


「要は、鎖に繋いでおけば良いのです♪」


「なに……?」



 鎖? この女は何を言ってるんだ?



「これからピストン様は館の中の陽の当たらぬ地下で一生涯鎖に繋がれて生きていくのです。食事。いいえ、()は毎日は出しません。気が向いた時にだけ少量の餌をあげましょう。餓えた犬の様になった貴方は、飼い主である私を待ち侘びながら舌を出して尻尾を振る毎日を送るのです。どうです? 興奮してきませんか?」


「……」



 興奮してきません。


 何だその地獄は!?


 頭が湧いているのか、この女!?


 横のチェリーに視線をやると、奴の方も若干引いていた。



「衣服は剥ぎ取ってしまいましょう。家畜に服はいりませんから。それと、二足歩行も枷で禁じないと……これからは人の膝より上に頭を置かない様にしましょうね♪」


「――」



 何か具体的な事を言っている!?

 このままでは僕は、本気でネーナの家畜になってしまう。


 下手をすれば、今この場で死ぬよりもかなり過酷な扱いを受ける可能性だってある。


 何とかして逃げなければッ!


 だが、どうすれば良い!?


 ゆっくりと近付いてくるネーナ。

 手も足も出ない自身の不甲斐なさに目を閉じようとしたその時――



「――やっぱり、こんなの間違ってます!!」



 お読み頂きありがとうございます\\٩( 'ω' )و//


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