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089 ヘルゲンの戦 その⑦

冠英貴族一覧↓


グンジェム――弱いもの虐め大好き、ヤバイ

マルガリーテ――元旦那を虐めるの大好き、ヤバイ

フィオナ――虐められるの大好き、ヤバイ

ナーガ――圧倒的小物感、ヤバくない

オルガ――実は常識人、環境がヤバイ


ピストン――主人公、1番ヤバイ


 槍を振るい、剣線を結びつつ、フィオナ=ゼオールムは懐かしきを回想する。それは目の前の愛しき男・ピストン=セクスとの出会いの物語であった。


 約十年前、帝国の建国記念日にて幼いフィオナは父・マルスに連れられ、帝都の城へとやって来た。国の重鎮達が出席する祝賀パーティーは、貴族の彼女をしても目移りする程に豪華なものであった。が、真実彼女が楽しみとしていたのは並ぶ菓子でも料理でもない。この会場へと出席する面々、その姿を拝見する事をこそフィオナは楽しみにしていたのである。


 この時のフィオナ=ゼオールムは十を下回る年齢であったが、その歳の貴族の子息達と比べ、理知的で落ち着いた性格であった。これは一部に槍の当主・マルスの教育の賜物である。修験者の様に常に己を律して生きてきたマルスは、その生活を娘であるフィオナにも強いていた。幼児よりも行われてきた教育は、彼女に一切の疑問を抱かせず、純然たる将の構えを会得させていた。


 故にフィオナは、同年代の子が甘い菓子へと夢中になる様に、今は初めて見える冠英貴族の子息の姿に子供の様な期待を馳せていた。いずれは自身の好敵手ともなるべき相手である。領地にて既に同年代に敵無し。年上すらも打倒する彼女は、自身と同じ境遇である子供達に興味が尽きなかったのである。



『失礼、ご挨拶を……』


『あぁん? んだ、このガキ……?』



 まず初めにフィオナが声を掛けたのは、斧のパルパレア家であった。最近になって当主を受け継いだのは一人息子のグンジェム=パルパレア。気性の荒さ故、あまり良い噂を聞かない男ではあったが、その実力は疑われてはいない。



『槍のゼオールムが長女、フィオナと言います。この度はパルパレア様にご挨拶へと伺いました』


『チッ、槍の方のガキか……気分悪りぃ』


『……? 何か?』


『今の内に言っといてやるよ。俺は冠英貴族が嫌いだ。こんな制度無くして欲しいとも思ってる』


『え……』



 グンジェムの言葉は、幼いフィオナには信じ難いものであった。帝国の英雄である冠英貴族。それを嫌う人間がいようとは……それも、言ってる自身も冠英貴族であるのだから意味が分からない。



『知ってっか? 斧も槍も弓も、結局は剣のお零れで出来た英雄なんだとさ。帝国の英雄・オーラル=セクス……野郎がどれほど強いのかは知らねぇが、それを引き合いに出されて比べられるんだから、冠英貴族ってのは馬鹿馬鹿しいよな。死んじまって故人になって、爺の思い出の中で際限なく美化されていく相手に、どうやって太刀打つっつーんだよ。やってられねぇとは思わねぇか――なぁ?』


『それは――』


『いらねぇんだよ、冠英貴族なんてよ……ケッ!』


『……』



 愚痴を零す様にして、グンジェム=パルパレアはその場から去って行く。彼の右手には開けられた酒瓶が

握られており、酷く酩酊していたのが窺える。



『剣の家、セクスか……』



 グンジェムの言葉を思い出しながら、フィオナは会場内を物憂げに歩いた。途中、何やら弓の当主に話し掛けられた様な気がしたが、考え事をしていたのでどう対応したのかすら朧気だ。少し落ち着いた方が良いのかもと感じたフィオナは、会場横の中庭へと出て行く。時刻は夜だ。煌びやかで明るかった室内とは違い、星の薄い輝きだけが辺りを照らしている。



『――』



 星の光を浴びながら、そこには一人の少年が立っていた。静かに空を見上げたその姿。佇まいに、フィオナは思わず魅入ってしまう。


 ――アレはもしや、剣の?


 自分と同じ年頃の少年。共通点としてはソコしか無かったのだが、フィオナは確信を持って目の前の少年が剣のセクスであると見抜くのだった。父からも言われた自身が目指すべき男。越えるべき壁――セクス。


 その長男。次期当主の名が――



『ピストン=セクス……』


『……』



 気が付けば声に出てしまっていた。此方へ振り返る少年の顔を見詰めながら、フィオナは焦る。冷静になってみれば何故あの時あんな事をと頭を抱える事態である。思い返すも羞恥で耳が熱いが、これが無ければ自身がピストンへと此処まで執着しなかったのだから、これはこれで良かったのだと今では納得している。全ては幼き若さ故の行動であった。




 



「あの時、私は貴方に決闘を挑んだッ!!」


「……」


「素晴らしい、素敵な立ち会いだったなぁ!」



 ピストン=セクスへと槍を振るいながら、私は語る。会話をしながらではあるが、一撃一撃には私の全霊を乗せていた。顔色一つ変えずにコレを防ぐのだから、やはり彼は流石である。


 過去の決闘――その結果は私の惨敗である。天才と称された子供の自信が木っ端微塵に打ち砕かれた忌むべき日。新しき感情を得られた祝福の日。


 そう、あの日を境に私は目覚めたのだ。己の根幹。恥ずべき()()を自覚した。



「どうしたどうした!? 反撃をしろッ! あの日と同じ様に、私に打ち込んで来い!! 痛みを! あの時と同じ痛みをもっと!! この私にぃ――!!!」


「う――ざぃ……ッ!」


「――ッ」



 剣で槍を弾き、地を這う様に上体を落としてフィオナへと間合いを詰めるピストン。瞬時にして懐に入ったピストンは、そのままフィオナの胴を切り上げる。危険を察したフィオナは後方へと飛ぶ事でその斬撃を回避しようするが、左の肩を掠めてしまう。飛び散る肩当て。感じる熱と共に、傷口からは血が滴る。



「――今っ!!」



 後退するフィオナと入れ替わる様に、マルガリーテがピストンへと襲い掛かる。虚を突いた一撃であったが、対するピストンは超反応で剣の腹を蹴り上げ、マルガリーテを押し返す。



「くっ!?」


「マルガリーテ殿!? 邪魔をするなっ!!」


「弁えなさい、ゼオールム! 貴方一人ではあの子には絶対に勝てないわ!! 今は共闘するべきよ!?」


「言っていろ……!!」



 マルガリーテの忠告には耳を貸さず、フィオナは再びピストンへと突進して行ってしまう。



「小娘が……ッ!」



 親指の爪を齧りながら、マルガリーテは苛立ちを抑える。彼方が協調しないのであれば、此方が勝手に合わせるだけだ。思いながら、マルガリーテはフィオナの攻撃、その間隙を埋める様な立ち回りを実行する。



「――」



 二体一と不利な状況で、さしものピストンも身動きが取れない。攻撃を捨て防御に振った彼の顔からは、表情が消えていた。


 戦いには相性がある。その殆どの相手を切り刻んできたピストンだが、フィオナ=ゼオールムには苦手意識を持っているのだろう。彼女が参戦してすぐに、ピストンからは笑顔が消えていた。


 ――いける!!


 剣を振るいつつ、マルガリーテは確信する。我が子、ピストンの技量の高さには舌を巻いたが、槍の当主との連携であれば子を打倒出来ると考えた。


 一対一であれば敗れていただろう。それ故に惜しい。だが此処は戦場であり、時の勝負運が無ければ真に強者と言えぬとマルガリーテは考えていた。



「ッ!」



 マルガリーテの剣が、ピストン=セクスの肩を切り裂く。負傷により出来た一瞬の隙。彼女はこれを見逃さない。一切の躊躇無く、加減なく、息子を屠る為に剣を振り翳し――



「させぬッ!!」



 その必殺の一撃を、老兵により弾かれた。



「くっ!? 邪魔を――ッ!」


「うが!!」



 飛び込んできた老兵――ヨルガ=ディン=カードへと空かさず一撃を見舞うマルガリーテ。斬られた老兵が倒れる頃には、ピストン=セクスからは隙が消えていた。



「ヨルガ殿!!」


「ッ、……ヨルガ?」


 リブラ=トレーサーの悲鳴から、マルガリーテは自身が斬り倒した男の正体を知る。


 ……ヨルガ=ディン=カード。


 ……その名は確か、紅玉騎士団の……?


 ……シェイク=セクスは、赫灼葬剣にて葬られた。


 ……仕立て人は、紅玉騎士団……。


 ……団長は――ヨルガ。



「――ッ!!! 貴様かァッ――ッ!!!」


「――ッ」


「死ね! 死ね! 死ね! 死ねぇッ!!!」


「……ご……ぷっ」


「――ッ!? よ、ヨルガ殿ぉッ!!」



 狂乱したマルガリーテは、倒れたヨルガへと剣を突き刺し続けた。生命力が0になろうとも、その衝動は止まらず、ヨルガの喉からは濃い血溜まりが吐き出された。



「――ッ!」



 しかし、それは大きな()であった。



「ピストン――ッ!! ぐ、ぅ――ッ!!」



 襲い掛かるフィオナの腹へと強烈な蹴りを喰らわせたピストンは、彼女を集団の外、数百メイル先まで吹き飛ばす。骨を砕いた一撃だ。ピクリとも動かぬフィオナは、此れにて完全に戦闘不能となってしまう。


 無防備となったマルガリーテの背へと疾駆するピストン。彼女が振り返った時には、もう遅い。ピストンの剣がマルガリーテを袈裟斬りにする。肉体から迸る燐光は彼女の生命力が0になった事を示していた。



「あぁ――」



 意識を失う前に、マルガリーテは自身への悔しさに顔を歪めた。何の事はない。無敗だと思っていたのは彼女の中だけなのだ。数十年前――シェイク=セクスを愛した時より、彼女は敗北を喫していた。


 認めたくないから、遠避けた。


 子供の様なやり口に悔恨の念を抱きながら、マルガリーテは失ったモノへと想いを馳せ、意識を無くした。



 お読み頂きありがとうございます\\٩( 'ω' )و//


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