059 遭遇、黄玉弓士団
リブラと別れた僕は、事前に教えられていたバームの屋敷へと向かっていた。
足取りは当然の如く、重い。
リブラの奴は心配して手書きの地図を渡してくれたが、道に迷って辿り着けなかったと言った方が、僕としては面倒が無くて嬉しいと思う。
溜息を吐きながら道を歩いていると、豪華な意匠が施された大きな門が見えてきた。
アレが、バームの屋敷か。
広大な敷地に、石造りの巨大な建築物。
あんな目立つ屋敷では「何処にあるか分かりませんでした」と、言った易い言い訳は通用しないだろう。
門へと近付くと、警備の者が二名ほど此方へと近付いてくる。随分と物々しい感じだが――彼等が身に着ける羽帽子。黄色の制服を見て、僕は内心で察しを得る。
――こいつらが、黄玉弓士団か。
腿に差した筒の中には、折り畳み式の弓が一つ。
肩に掛けられた穴空きのベルトには、短い鉄棒のような形状をした矢が数十と収められていた。
見慣れない弓ではあるが、玩具と言う訳では無いだろう。
「失礼。名前を聞いて良いか?」
「ピストンだ。ピストン=セクス……バーム男爵の御息女。エリーゼ=ルマンドに呼ばれてやって来た」
「……へぇ、アンタが? まぁ、良いだろう」
言って、門を警護していた者は、僕を中へと通す。
セクスと名乗るのに若干の抵抗はあったが、通じなかった場合の方が問題だしな。
結果的に、言って良かった。
「エリーゼ嬢から直々に、アンタが来たら案内する様に言われている。大人しく付いて来てくれよ?」
「あぁ」
随分気安い雰囲気の兵士だな。
堅苦しい奴よりはマシかも知れないが――
「そういえば、自己紹介がまだだったな?」
「ん?」
「俺の名はサライ=メンヒィル。何故か知らんが黄玉弓士団の副団長をやらされている男だ。ま、気が向いたら覚えてくれ」
肩を竦めて、気安げにそんな事を言う優男。
帽子を取ったその顔は、端正な顔立ちをしていた。
艶やかな緑色の髪。目元の泣きボクロが特徴のその男は、話し方も相俟って、とても弓士団と言った戦いをする様な男には見えない。
「副団長と言うからには、貴方は強いのか?」
だからつい、思った事を口にしてしまう。
サライと言う男は僕の問いに対し「まさか」と笑う。
「こっちは事務担当だよ。団長のアレクセイの馬鹿野郎が筋肉しか取り柄が無いせいで、書類仕事は全部こっちに回ってきやがる。ま、おかげで戦場には立たないで済んでるけどな」
「ふむ……」
「ピストン=セクス。アンタの噂は聞いてるぜ?」
「僕の噂?」
爵位を貰った帝国人だとか、そんな噂だろうか?
「――飛将軍を、射止めた男」
「へ?」
「あの堅物な鋼鉄処女をどういう風に口説き落としたのやら。正直、その手腕を御教授願いたいくらいだぜ?」
「い、いや、僕とリブラはそんな関係では――」
慌てて弁解する僕だが、サライは「またまた~」と言って、取り合ってはくれない。
成程。こう言った手合いか……。
僕は心中で溜息を吐きながら、どうやってこの男の誤解を解こうかと考えるのであった。
◆
「――遅い!!」
「うひぃ……」
エリーゼ=ルマンドの私室へとやって来た僕達は、彼女に会うなり、開口一番の叱責を喰らう。
「御機嫌、斜めだな?」
こっそりと。此方に向かってそんな事を口にするサライ。コイツは中々に太々しい男なのかも知れない。
「何処で道草を食っていたのかしら!? もうお昼は過ぎているんじゃなくて!?」
「それは――」
続く言葉を言おうとした所、サライの奴が僕の脇腹を肘で突いて中断させる。
此処は任せろと――そう言う事か?
「先に屋敷の案内をしてたんですよ。ほら、お嬢が俺に言ったでしょ? ピストン=セクスを"案内しろ"ってさ? 俺ぁてっきり屋敷の中を隅々まで案内しろって意味だと思ってたんですけど、違ったのかな~~?」
「ハァ!? 貴方……ッ!」
「ままま! そんな怒んないで! ブルボンの女神であるエリーゼ様に、そんな恐ろしい顔は似合いませんよ~! ほら笑顔。にっこりと。スマイル、スマ~イル!!」
「くっ……!」
腰を低くして、必死にヨイショするサライの言葉に、徐々に毒気が抜けていくエリーゼ。
……凄いな。
こんな奴に怒っても時間の無駄だと。
敢えて相手に思わせている。
手腕だ何だと言っていたが、僕の方が学びたい位だ。
そうこうしていると――
「――何を騒いでいる、サライ?」
「おろ?」
扉の奥から、筋骨隆々の金髪の大男がやって来た。
見るからに厳つい男だ。
丸太の様に太い二の腕。癖のある金髪は真ん中で前髪を分けており、そこから除く眉には毛が一切生えていない。
鋭い眼光で僕達へと視線をやった男は、次いでエリーゼ嬢へとその眼を向けた。
「――だ、」
口をパクパクと開き、顔を紅潮させる大男。
「だ、だだだだ、大丈夫ですか、エ、エエリーゼ様っ……!」
「……」
思いっきり吃りを見せる大男の様子に、言われたエリーゼは徐に溜息を吐きながら、髪を掻き上げた。
「大丈夫。大丈夫だから――出て来ないで。アレクセイ……」
「は、はははいぃ……」
言われ、アレクセイと呼ばれた男は、扉の奥へと引っ込んでいく。……一体何だったのやら。
「……アレクセイ=アンドロメドラ。一応説明しておくと、アレがウチらの団長さ」
「――アレが?」
随分と個性的な奴だな、と。
その時、僕は思うのだった。
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