049 素敵な尋問
「情報を寄越せだって? それはつまり……ボクに仲間を売れと言ってるのかなぁ?」
語気を強めて此方を睨むセネルの態度に、僕は思わず「ほぉ」と、関心してしまう。
「人殺し集団の癖に、仲間意識があるのか? これは何とも面白い」
「……馬鹿にしているのか?」
「いいや? 意外だっただけだ。他意はない」
「……」
いかんな。不愉快にさせてしまったか?
だが、そんな態度をしていられるのも今だけだ。
「しかし、そうなると困ったな。君はこれから一生をその姿で過ごす訳だ。元は男だったのだから、気持ちの整理は中々付かないだろう」
「……ッ」
言いながら、僕は徐に彼女の胸を掴む。
掌に簡単に収まる様なサイズのソレは、小振りだが、確かに男のものでは有り得ない大きさだ。
力強く握ると、セネルは小さく苦悶の声を上げる。
「その声は痛みによるものか? それとも、男である僕には共感出来ない感覚によるものか?」
「ッ、貴様ッ!」
「……怒るという事は答えは後者か? 顔が紅潮しているぞ? 難儀な身体になったものだな?」
「……ッ!!」
腕を噛まれる前に、僕はセネルから距離を取る。
怒りに燃えた形相は、内心の怯えから来ているのだ。
故に、ここで僕が引いて見せれば、彼女は確実に食い付くだろう。
「僕はどちらでも良い。選択するのは君さ。ただ一応言っておくと、今は鞭で打たれるだけで済んでいるけど、その内に"別の尋問方法"へと変わると思うよ。そうした時に、後悔しない様な選択を選ぶ事を勧めておく」
「……ッ!」
「……僕が言えるのは、此処までだ」
それじゃあ、元気で。
言って、牢を後にしようとしたその時。
「………………何が、知りたいんだ……」
苦渋の声で、セネルが呟いた。
振り返った僕は、彼女の表情を観察する。
仲間を裏切る事への後ろめたさはあるが、それ以上に犯される恐怖には耐えられないと言った感じかな。
……不思議だ。
今日の僕は冴えている。
相手の感情が、手に取る様に分かるのだ。
セネル=アンヴァサダーは、完全に堕ちていた。
総戦力5000の強者とは言え、こうなってしまえば形無しだ。
何ら脅威では無い。
「――敵の首魁の名は?」
「……ルーファス」
「ファーストネームは?」
「……知らない」
「……なら、詳しい外見を聞いてみようか」
背後のリブラへと顎で合図をし、メモを取らせる。
セネルは、ポツリポツリと情報を吐いていった。
親の言う事を聞く、子供の様に。
その姿は、実に素直なものだった。
「……荊の鎧に身を包んだ、漆黒の剣士か」
詳しい顔付きなどは画家に模写させるとして、大体の印象は掴めたな。
「お前らの目的は?」
「死を運ぶ事だって、ボクは教えられた」
「死?」
「黒霊死団の構成員は、皆、何かしらこの世界に絶望しているんだ。己の出自・才能・過去とかね。だから――壊したくなった。一緒に壊そうって、ルーファス団長に誘われたんだ……!」
「……その男とは、以前から面識があったのか?」
「……いいや」
「そいつを信用した理由は何だ?」
「ボクと同じ目をしていたから――だから、仲間だと思ったんだ」
「仲間ね……」
敵の首魁に付いては、これ以上の情報は望めないか。
「黒霊死団の構成員の情報が欲しい」
「……主だった幹部は、ボクを入れて四人だ」
四人。
リブラの言う通り、少数精鋭の集団の様だ。
そんな奴等が、二つの国を股に掛けて暗躍しているというのだから、現実と言うのは分からない。
「幹部には、召喚士と死霊使いの双子の女がいる。歳はボクと同じくらいだ。もう一人は……裏方なのでボクはよく知らない。団長は、事ある毎にソイツに"雑用"を頼んでいたよ」
「雑用?」
「内容までは分からない。……本当だ」
「ふむ……」
こんな所で、嘘を吐く理由は無いだろう。
僕は構わずに質問を続ける。
「紅玉騎士団を狙った理由は?」
「詳しくは知らされていない。今言った"雑用"の男に、転移させるから迎え打てと言われただけだ」
階層転移の罠は、その男が張ったと言う事か。
しかし、話を聞いているとコイツ……随分と都合良く使われているな。
本人にまるで自覚がないのが、救えない。
「ッ、そろそろ良いだろう!? 知っている事は大体話した! 早く……早くボクを元の身体に戻してくれよっ!!」
「……そうだなあ」
この様子では、連中の居場所など知る由もないのが容易に分かる。
セネル=アンヴァサダー。
単純に、コイツは頭が悪いのだ。
だから、重要そうな事は何も教えて貰えない。
目を見張るのは戦闘力だけ。
そう思うと、少し哀れに感じてしまうな。
……それでは、注文通り"なんとか"してやるか。
「――リリス」
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