043 狂イ咲キ
若干シリアス気味で申し訳ない……。
「クヒャヒャヒャヒャッ!! アーッ!! ヒャヒャヒャッ! クフフゥックスウププゥッ、ヒヒあひひ、ホホホオホホ、フへへへ、えへっ、クククッアハハ、アーッハッハッハッハ!! ハハハ、はっはっははっははははははァーッ!!!!」
全裸で狂笑を繰り返す目の前の男を見詰めながら、ボクは自分の目を疑っていた。
――狂っている。
――とは、ボク自身が良く誰かに言われていた言葉だった。
それは大凡死の間際。
誰かを殺す際に、畏怖を持って放たれる断末魔だった。
生死の掛かった状況だからこそ、人は人の本質を見抜くのだ。
だからきっと、朧気ながらボクはボク自身が狂っている事を自覚していた。
治そうとは思わない。
だってソレが、ボクなのだから。
黒霊死団幹部が一人。
セネル=アンヴァサダーは狂っている。
それが、自他共に認める己の共通認識であった。
筈だった――
「あ~~~~♪ いひっ、いひっ、いひっ♪」
胡乱な目付きで、明後日の方向を見上げながら、ご機嫌な様子を見せる二足のケモノ。
ソレを見ているだけで、身体は総毛立ち、強い忌避感に襲われる。本物だ。アレが恐らく本物だ。逆立ちしても己では適うまい。"狂う"という言葉が実体化した存在。
――ピストン=セクスに何があった?
否。アレは本当にピストン=セクスなのだろうか?
考えても分からない。
分からないものは恐ろしい。
恐ろしくて狂いそうで狂気は正気を侵食していき――
「あ! あああああああああッ!!!」
気が付けばボクは大鎌を振り被り、奴へと突進していた。
速く、疾く消さなければ。
ボクがボクで無くなってしまう。
異常なまでの生理的嫌悪感。
それらを払拭する為の、全身全霊の一撃であった。
「……リリス」
呟きと同時に、奴は己へと"ナニカ"を掛けた。
補助魔術の一種か?
けれど、総戦力5000のボクに意味は無い。
ピストン=セクスの総戦力は約1200だ。
この差を埋められる補助魔法など、存在はしない。
だと言うのに――何故躱せる?
「オ~・マ~・ツ~・リィ~~~♪」
「ムグゥッ!?」
上体を人間の稼動粋ギリギリにまで逸らし、刃を躱したピストンは、そのままの態勢でボクの顎を掴む。
想像以上の力に驚愕するが、結局はそれだけ。
何の意味もない行動だ。
一体何を考えて――、ッ!?
「くひっ。くひいひひいっひひ!! ……マホウ、ケン……」
「!」
「ヒャハハハハァ――ッ!! アッチ! アッチィィィィ!!」
「あ! ああッ!? が、ぐ……ゥゥあああああァアッ!?」
信じられない。ピストン=セクスは、自身の肉体へと炎の魔術をエンチャントした。
鉱物ならまだしも、肉体にそんな魔術を掛けたら火傷では済まされないだろう。
魔法剣!?
己の身体を剣と見立てて使用した?
馬鹿を言うな!
――そんなの、ただの自殺行為じゃないか!?
顔面を炎で炙られながらも、僕は奴の肘を蹴り、その拘束から抜け出す事に成功する。
安心したのも束の間だ。
火達磨となったピストンは、その炎を刀身へと集中させ、横切りにて放つ。
大熱波の火炎斬り。
己の身体へと火を移す事で、火力が増したのだろう。
後退し直撃こそ免れたが、その威力は凄まじい。
「……ッ!」
燃え盛る火の海から、ピストン=セクスが飛んでくる。
剣による突きを慌てて鎌で防いで見せるが、奴の攻撃はそれで終わりではない。
「きひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ――ッ!!」
爪先立ちをした一本足の独特な構えから、狂った様な剣線の嵐が繰り出される。斬って払って突いて薙いで――変幻自在の舞踊はこのボクでも捌き切れない。
攻撃の間隔が無い。
短いのではなく、無いのだ。
常に連続した行動を取っている。放たれた一撃はもう一撃を繰り出す為の予備動作であり、無呼吸のまま長期間絶えず動きまくるピストンの剣技は異質であり不気味であり脅威であり恐怖であった。
防戦一方の状況に堪らず手を出せば、その一撃を掬い上げては無防備な箇所に斬撃を喰らう。
これが奴の本当の剣技なのだろう。
冠英貴族、四大武尊。剣の家――セクス家。
その恐ろしさを、ボクは今実感した。
しかし、それでも解せない。
この世界に置いてステータスというのは絶対だ。
数値で勝るボクが、此処まで一方的に嬲られるというのはやはりおかしい。
剣による連撃を喰らいながら、僕は目の前のケダモノへと【解析】スキルを使用した。
―――――――――――――――――――――――――
[ピストン=セクス LV.???]
【種族:人間】【クラス:罪罪罪罪罪罪罪罪罪罪罪罪】
総戦力:��x�y
生命力:���/�w�x�y
魔法力:���/��x�
攻撃力:w�x�y渦慨� Ж��
防御力:�y皮ゥカ
素早さ:\�E���
賢 さ:��スゑス�
幸 運:�� 鐚�
スキル:■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
術技:■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
―――――――――――――――――――――――――
「なん……だ……、こいつ……?」
壊れていた。
ピストン=セクスは、完全に壊れていた。
「ばぁっ!!!!」
「――ィッ!」
不意を突かれたボクは、自身の左手首に熱を感じる。
斬られたか!?
視線を向けたその先には、先が無く――
「――」
くるくると宙を舞い、地面へとボトリと落ちた己の左手を目撃しながら、ボクはただ呆ける事しか出来なかった。
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