041 死の予感
「ピストン……? ピストン? ピストン……ピストン、ピストンピストンピストンピストン……」
「……」
ダラリと舌を垂らし、オウム返しの様に僕の名を連呼する大鎌使い。
その様子はまるで白痴だった。
凶器を振りかざす狂気の死神。
黒霊死団というのは、こういった輩なのだろう。
気味が悪いにも程がある。
「ああー!!」
「!?」
突如上がった叫び声に、驚かされる。
「アンタ、ピストン=セクスだぁ~! 冠英貴族の一人だろう? なぁ、そうだろう? 正解? 正解!?」
「……正解」
「うっしゃ~~~~!! えへへぇ! 当たったぁッ!」
「……」
本当に、何なんだコイツ。
頭が悪いというか。
幼稚というか。
会話をするという行動が、こんなにも嫌になったのは初めての経験だった。
「セクス家じゃと……? お主……ッ」
「黙って回復に専念し給え。ヒールが使えるのだろ?」
「ぬっ……かたじけない」
「……ふぅ」
大きく息を吐きながら、僕は目の前の鎌使いに注目する。
否、片時も目は離していなかった。
コイツから発する、死のオーラは凄まじい……。
老騎士と会話する間でも、目を離せば殺されてしまう気がして、背後へと視線をやる事が出来なかった。
間違いなく、今まで出会った中で最凶の敵だ。
念の為、解析をしてみるか……。
大鎌使いを対象に、スキルを使用――
「!?」
――が、返ってきた反応は何も無し。
スキルは間違いなく発動した筈。
それなのに、何故?
「あ~? もしかして【解析】使った?」
あっけらかんとした様子で、鎌使いは僕へと問う。
「弾かれちゃったんでしょ~? 解析防止の法衣を着てるからね~。残念だけど、ボクのステータスは見せられないよ。一応、規則で決まってる事だからね。破ると"リンド"が恐いんだ」
リンド。……人名か?
上手く誘導すれば、情報を引き出せるかも知れないな。
心情的には御免だが、今は我慢して奴に話し掛けよう。
「……規則とは?」
「規則は規則さ。なるべく秘密主義で行きましょうって、口酸っぱく言われてるんだ」
「それは――誰に?」
「誰にって。そんなの団長のルー……」
そこまで言って、鎌使いは口を噤む。
「……あっぶないなぁ~? 今君、僕から情報を聞き出そうとしてたでしょ? ふ~ん。そんな手を使っちゃうんだぁ……君ぃ」
「ほぅ? バレたか。思ったよりも頭が良いんだな?」
「それ――ボクのこと、馬鹿にしてるでしょ?」
返答の代わりに、薄くニヤリと哂ってやる。
「……ピストン=セクスかぁ。良いよねぇ、別に。ボク何も言われてないし、イレギュラーな事には現場で対応しろって前に団長も言ってたしね。大丈夫。きっと大丈夫だ」
「何をブツブツと――」
「殺しても――大丈夫な奴だッ!!」
「!?」
銀線一閃。
煌めくと同時に、僕の胸元が浅くパックリと横に割れる。
攻撃を、受けた!?
目の前にすると、こんなにも速いのか!?
「……総戦力1270ぅ~~? 良くそんなんでボクの前に立てたねぇ、キミィ~~~?……舐めてんの?」
「ッ! 勝手に覗くな!!」
「はは! お返しだよぉッ!!」
剣を振るうも、簡単に躱されてしまう。
空いた間合いから、僕はファイアー・ボールを奴へと飛ばす。
「無駄無駄♪」
飛んでくる火球を回転させた鎌で防ぎ、余裕の態度で此方を見下ろす鎌使い。
「――ボクの総戦力は5300」
「なっ!?」
「君が勝てる道理なんて、何処にもありはしないのさッ!」
出鱈目では――無いのだろう。
現に僕は、奴相手に手も足も出なかった。
振るう剣は空振り、防がれ。
振るわれる刃は、確実に此方の生命力を削っていった。
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[ピストン=セクス LV.28]
生命力:32/310
魔法力:85/130
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此処まで――此処まで敵わないものなのか?
技術ではない。
これはステータス値による、数字の暴力だ。
今まで、僕が敵対する相手に押し付けてきた戦い。
「相手にやられると、こんなにも嫌な気持ちになるんだな……」
朦朧とした意識で、僕は呟く。
いかん。
血を流し過ぎた。
視界まで霞んでしまう。
「――何か、言い残す事は~?」
「――」
鎌口を首元に押し付けながら、そんな事を問うてくる。
きっと、奴にとっては遊びだったのだろう。
余裕の態度が、癪に障る。
何も出来ない自分は、もっと――許せない。
だからだろう。
僕は最後の足掻きで、こんな事を口にする。
「……腰を」
「んん?」
「腰を、振らせてくれ……」
「………………はい?」
困惑する鎌使い。
小さな事だが、その瞬間は少しだけ勝った様な気がした。
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