002 旅立ちと地面の味
一夜経った昼の刻。ペタン帝国領土・辺境のドゴダ村を追い出された僕は、そのまま真っ直ぐと街道を進んで国境を目指していた。
目的地は隣国のバスティア。
彼の国は宗教上の違いからペタン帝国とは仲が悪いのだが、だからこそ亡命先としては申し分ない。
今は出来るだけ遠く、セクス家の目が届かぬ場所へと行きたかった。
渡された100万エーロは共通通貨だ。換金せずに使えるので、暫くはお金の心配をする必要は無い。
昨日は結局、野宿となってしまったからな。
今日くらいはちゃんとした宿に泊まりたいものだ。
改めて思うけれど、そうか……もう、自由なんだな。
父に連れられて領地の外に出た事はあったけれど、自分の意思で世界を旅した事は一度も無かった。
座学、剣術、軍術、魔術……。
館では色々な事を学んだけれど、それは結局、セクス家の次期当主に必要な事だけであった。
本当の意味で大事な事を、僕はこれから学んでいかなければいけないのだろう。
「差し当たっては、ステータスの強化か……」
歩きながら、僕は己のステータスを眼前に表示させる。
―――――――――――――――――――――――――
[ピストン=セクス LV.2(+1)]
総戦力:178(+20)
生命力:77/77(+5)
魔法力:18/18(+3)
攻撃力:26(+4)
防御力:17(+3)
素早さ:22(+3)
賢 さ:15(+2)
幸 運:3(+-0)
―――――――――――――――――――――――――
ステータス画面は呼び出した本人にしか確認出来ない。
更に自分自身で閉じない限りは目の前に追尾して現れるので、歩きながらでも確認は出来るみたいだ。
……レベルアップしているな。
昨日の夜、草むらから出て来た【チビモグラ】を倒したおかげだろうか?
数値上では合計20の値がパラメーターに加算されている。
成長率から見るに、僕は【戦士型】の様だ。
予想通りの結果ではあるが、僕の場合は此処に【愛淫の加護】の成長補正が加わっていく。どのパラメーターが上昇するのか完全にランダムな加護だから、振り幅によっては【術師型】のステータスになってしまう場合もあるかも知れない。
とはいえ、ソレは些細なデメリットだ。
僕が聞いた事のある最もポピュラーな加護は【食育の加護】
此方の効果は、
◇朝・昼・晩、食事をした際に生命力が1上がる◇
――という、ものである。
つまり、一日最高でもステータスは3しか上昇しないのだ。
確定で生命力が上がるのが、この加護の強味かも知れないけれど、それでも正直"微妙"だと言わざるを得ない。
神の加護の情報は余り出回らないので、一概には言えないけれど、皆がこの基準程度の加護を授かっているのであれば、僕の【愛淫の加護】は破格の性能だと言えるだろう。
外聞さえ気にしなければ――であるが。
合計100回、壁に向かって腰を振らなければ、ステータスの値は永続上昇しない。
一時的には1腰振りで1の数値が上がるけれど、差し迫った状況以外では意味が無いだろう。
いや、そもそも差し迫った状況で壁に腰を振っている暇があるのかは疑問だが……今は気にしない。
問題なのは今日。
朝、起床してから一度も腰振りが出来ていないという、この状況だろう。
国境までの街道はだだっ広い草原だ。
通る人は殆どが馬車での移動なので、人目は無いと言えば無いのだが……腰を打ち付ける為の壁が無いとは、何たる皮肉!
先程挙げた【食育の加護】は上昇する数値は低いが、殆ど確定で生命力を3上げられるという強みがある。
しかし、僕の【愛淫の加護】は自分で行動しない限り、1の数値も上昇しないのだ。
成人の儀を終えてから二週間。加護を授かった時から僕はドゴダ村で夜な夜な腰を振っていた。
人目を気にし、且つ怪しまれない様に短時間での運動だった為、その回数は一日約1,000回と言った程度。
……廃嫡された以上、僕にだって意地はある。
今までが1,000回だったとしたら、これからは一日10,000回は腰を振らなければ気が済まない!
「だと言うのに、くそッ!!」
思う様にいかない! その場で頭を抱え、地団駄を踏む僕。
その時――ふと、僕の頭に天啓が舞い降りた。
「……地面って、壁……だよな?」
ごくりと、唾を飲み込む僕。
恐る恐るといった風に、ゆっくりとその場で四つん這いになり、大地に身体を横たわらせてみる。
ステータス画面は目の前に表示させたままだ。
この状態で――腰を、こうッ!!
カクッ!
「!!」
ピコンと言った、神聖擬音と共にステータスの値が上昇する。
攻撃力が26→27に変動している!!
これだ!! これしかない!!
暗雲に閉ざされた道は、今拓かれた!!
「いいぞ! これならイける!!」
地面か! その発想は無かった!!
気付いたら僕は、地面に向かって夢中で腰を振っていた。
カクカクカクカクカク……ッ!!
ピコンピコンと、腰を振る度に面白い具合に擬音が鳴る。
これだよ、これが癖になるんだ……ッ!
上昇していく己のステータスを眺めながら、僕は腰を振り続ける。誰に憚る必要は無い。
――僕はもう、自由なんだから!
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