015 国境を越えて~バスティア王国~
「ピストンさん!」
検問所を抜けると、一足先に審査をパスしていたアメル君が、僕を出迎えてくれる。
「大丈夫だったんですね!」
「あぁ。少し、ヒヤヒヤしたけどな」
「良かったぁ……」
僕の身を案じてくれていたのだろう。
アメル君は、ホッとした顔で安堵の息を吐いた。
……前から思っていたが、本当にこの娘は良い子だな。
二人の旅が何処まで続くかは分からないが、共にいる時は彼女の事を出来るだけ気に掛けてあげよう。
「それで――これから、どうしますか?」
問われ、僕は商人より購入した王国の地図を懐から取り出す。
「僕もアメル君も帝国に帰れない以上、暫くは王国領土で生活を送らなければいけない。その上で、僕達が今必要としているものが何なのか分かるかい?」
「えっと、お金ですか?」
「うん。半分正解」
確かにお金は必要だけど、最もという点では無いな。
「正解は、拠点だよ」
「拠点……」
「そう。まずは僕らが生活し、活動する為の居場所を確保しなければいけない。お金稼ぎはそれからさ」
言いながら、僕は地図上の一つの都市を指差した。
「商業都市二プル。此処なら検問所からでも徒歩で行ける。商業を謳っているのだから職にあぶれる事も無いだろうし、暫くの拠点にするならば打って付けだろう」
入国審査のお姉さんも冒険者ギルドに入るなら、二プルの街が良いと推していたしな。
現地の人が言うのなら、間違いは無いだろう。
僕の提案を、アメル君は顎に手を当てて吟味する。
何か、気になる点でもあったのだろうか?
少しばかり心配になった、その時。
「――少し、帝国領に近すぎませんか?」
此方を窺う様に、彼女は小さくそう言った。
村娘である彼女が帝国を意識する理由は余りない。
つまり、この言葉は僕を心配しての事なのだろう。
国境を越えたとはいえ、そのすぐ近くの都市を拠点とするのは余りにも不用心ではないかと彼女は言っているのだ。
「確かに、言わんとする事は分かるよ」
「また、ビシェット家の様な方達が現れるかも知れません。そうなったら、ピストンさんの身が危ないのでは?」
「……まぁ、ね」
否定は出来ない。
故郷を追い出された僕に対し、弟のオルガは追撃の手を打ってきた。その容赦の無さは帝国を出たから安心と言えるレベルでは無い様な気がする。
「しかし、その先の都市は余りに遠い。徒歩では無理だから、馬車が必要になってくるだろう。手持ちの金も残り少ないし、どっちにせよ二プルに滞在する必要は出て来るよ?」
「なら、一旦の拠点という事にしましょう!」
「え?」
「商業都市二プルでお金を稼いで、馬車に乗る。遠くの街に行けば、ピストンさんも安心しますよね? そうです! そうしましょう!!」
「ちょ、ちょっと待ったアメル君!」
「はい?」
「それってつまり――アメル君も一緒に着いて来てくれるという事かい?」
繰り返すが――
僕と違い、彼女は帝国の人間に追われている訳ではない。
王国の都市部に来れたなら、目標は達成。
それなのに、何故?
「……だって、心配じゃないですか」
照れ臭そうに頬を掻きながら、アメル君は言葉を続ける。
「折角知り合ったんですよ? それがどんな出会いだったとしても、見知った人の無事ぐらいは確認したいですよ……」
「アメル君……」
「それとも、ピストンさんは私のこと、お邪魔だって思いますか?」
「まさか!」
彼女の言葉に、僕は慌てて首を横に振った。
今までの道中でも、彼女が邪魔になった事などは無い。
「――なら、決まりです!」
「あ、あぁ……」
「一緒に行きましょう、ピストンさん」
言って、アメル君は僕の手を取って歩き出す。
……やばい。
不覚にも、心が幸せになってしまった。
微笑むアメル君に先導されながら、僕はこれから向かう商業都市二プルでの生活を心待ちにするのだった。
◆
商業都市二プル。
その冒険者ギルドにて――
「――失格だ!! 帰れ帰れ、この無能!!」
「えぇ……」
辿り着いた先で、ギルド長から門前払いを食らう僕。
どうやら、そう簡単には上手くはいかないらしい。
人生とはままならない、波のようなものなのかも――
脳内で現実逃避のポエムを綴りながら、僕はこの場をどう押し切るか考えるのだった。
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