012 良い日、旅立ち
ネーナとチェリーの二人を成敗した僕は、シケタ村を出発して隣国バスティアへと旅立った。
謝罪を繰り返す村長や村の人間には一言嫌味でも言ってやりたかったが、アメル君の手前、止めておく。
平民は貴族には逆らえない。
状況が状況であったのだ。
ただ一人でも味方をしてくれた人間が居た事に感謝をして、今は心を宥めよう。
――それにしても、だ。
「本当に良かったのかい? 生まれ育った村を出て……」
僕は隣を歩く少女へと向きながら、声を上げる。
困った様に笑いながら、少女は頬を搔いた。
「あのまま村に居ても、迷惑にしかなりませんから……」
少女――アメル君はそう言って、少し寂しそうに後ろを振り返った。後ろ髪を引かれる物は当然ある。けれど、言葉の節には彼女なりの決意が感じられた。
前言を撤回する気は無いのだろう。
「チェリー達には、村に手を出させない様にしたが?」
僕の言葉に、アメル君は静かに首を振る。
「可能性を生んでしまうのが駄目なんです。頭では分かっていても、皆からは貴族様の報復の恐怖が消える事はない……」
「……」
「子供達を、怯えさせたくは無いんです」
「怖がりなんだな。平民というのは……」
「かも、知れませんね。けど、誰もが強い訳じゃありませんよ。それはきっと、貴族様だって一緒だと思います。立場や、その時の役割が人を変えるのかも……」
「――今の君の様にか?」
「私? 私は――どうでしょう。変わりたいと。強くなりたいとは思っていますよ」
言って、アメル君はじっと僕の顔を覗き込む。
「……何だ?」
「い、いえ!」
問い掛けると、アメル君はハッとした顔をしてそっぽを向いてしまう。此方側からは彼女の表情は見えないが、何だか耳が赤くなっている様な……?
「……ピストンさんみたいに……強く……」
「……何か言ったか?」
「な! 何も!!」
「むぅ……」
突然黙り込んだり、ぼそぼそと何かを呟いたり……。
何だか情緒が不安定な子だな。
まぁ、故郷を去った間も無いのだから、それも仕方ないか。
――それはそれとして、今日もルーティン・ワークは熟さないとな!!
「よし! アメル君! 少し待っていてくれ!!」
「え……? も、もしかして……また……ですか?」
「なぁに! すぐに終わらせる!」
「あ、あはは……」
言いながら僕は地面に両手を突き、大地に向けてマウント・スタイルを取り始める。
不思議だな……この態勢を取ると、体内に存在する全細胞が、条件反射で喜び始める様だ。
胸の高鳴りを抑えつつ、僕は大地に向けて腰を打ち付ける。
――ピコン!
脳内で鳴る、祝福の神聖擬音。
「キタキタァ――ッ!!!」
思わず、興奮に叫び声が出てしまう。
「……これが無ければなぁ……」
元気の無いアメル君の呟きが頭上に聞こえたが、その意味までは理解できない。
今はただ――僕は腰振りに集中するのだった。
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