001 追放と呪いの加護
気分転換に初めてみました。良ければ読んでみて下さい。
※出来るだけ毎日投稿。
「この国から出て行って欲しい……だって!?」
机を挟み、対面の椅子へと腰掛けたまま、貴族である父は重々しく頷いた。その只ならぬ雰囲気に、僕は知らずに息を飲む。
「……あ、新手の冗談か何か? それとも、僕が何か父さんを怒らせる様な事をしたかい?」
「………」
「ねぇ……」
努めて明るく振る舞う僕だが、父の態度が変わる事はない。
あぁ、今日は朝から何という日だ……。
思わず僕は、天を仰ぎたくなってしまう。
「……ッ、黙ってないで何か言ってくれよ!? 何故僕が国から追放されなくちゃ行けないんだ!? 僕はやましい事なんて何も――!」
「――何もしてない? そんな訳ないだろぉ?」
「!?」
部屋の奥より現れたのは、弟のオルガだ。
僕とは正反対の性格で、気性の荒いこの弟を僕は持て余していた。
「ほら、入れよ!」
「は、はい……」
弟に促される形で姿を見せたのは、メイドのアリーシャであった。何かに怯えた様な態度を見せる彼女は、僕からの視線に気が付くと、その目をさっと地面へと下げた。
「オルガ、それにアリーシャ……一体これは何の真似だ?」
「おいおい、惚けるのが上手いなぁアニキ? 何の真似? それはこのアリーシャの様子を見て分からんかねぇ? んん?」
芝居掛かった口調だった。
相変わらず、嫌な奴だ。
弟のオルガは僕の置かれたこの状況を見て、楽しくて仕方が無いのだろう。
「やれやれ……オヤジぃ、どうやらアニキは事の善悪すら判断出来なくなっちまったらしい。弟のオレとしては悲しいやら呆れるやら……」
「馬鹿にしているのか、オルガ!!」
「馬鹿にもするだろう! なぁ"腰振りピストン"」
「……!?」
「巷じゃ有名だぜ? 将来を有望視された貴族の長男が、女神の加護でハズレを引いたってなぁ!」
「そ、それは……!」
「壁に向かって腰振ってるのを見たって連中もいっぱいいるぜ? 何の加護を引いたか知らんが、自暴自棄とは聞いて呆れる!」
「自棄になった訳じゃない! あ、アレにはちゃんと意味があって……!」
「あ・げ・く!! 幼い頃からのメイドにも手を出す始末だ!! 豚の糞を顔に塗りたくる様なこの所業! 貴様何処まで我が家を辱めれば気が済むと言うのだ!? あぁ!?」
「……な、なに?」
メイドに、手を出しただと?
この僕が……?
「待て、おかしい! 僕はそんな事をしていない! 何か行き違いがあるぞ!?」
「ハー? 何がイキ違いだよ、この変態野郎!? だったらアリーシャに聞いてやろうか! なぁ!?」
「……ッ」
オルガに強く肩を掴まれたアリーシャは、息を飲んで僕の前へと出てくる。
――きっと、アリーシャなら僕の身の潔白を証明してくれる筈!
幼い頃より共に育ち、築き上げてきた互いの信頼を僕は信じていた。
けれど。
「……ピストン様が、無理矢理……ッ」
「――」
今にも泣き出しそうな声で、アリーシャは有りもしない事を口に出す。
頭が――真っ白になった。
「もう良い、アリーシャ」
「……ッ」
「と、父さん……?」
今まで黙っていた父が、静かに椅子から立ち上がる。
その顔には、憤怒が見て取れた。
「ピストン……今まで素行の良かったお前が奇行に走ったのは、加護の儀での失敗が原因だろう? 私もソレは察していた。しかし、これまで真面目に修練を行っていたお前だ。誰に何を言われようが、私はお前の奇行を不問にするつもりだった……だが、それは甘かった様だな」
「!」
言いながら父は、腰に差した長剣を抜き放ち、僕の眼前へとその切先を向ける。
「セクス家の恥め!! 即刻館から出て行き、ペタン帝国領土から立ち去るが良い!!」
「……ッ!!」
有無を言わせぬとは、正にこの事だろう。
事実上の廃嫡宣言。
……一度決めた事を翻す父ではない。
様々な感情が混ざり合いながら、僕は自身の視界がぐるぐると回っていくのに気が付く。
怒る父。
悲しむアリーシャ。
……嗤うオルガ。
オルガ――そうだ。
この展開は余りにも弟に都合が良くないか?
セクス家の次期当主の座を狙った犯行……?
そんな考えが頭を過るが、目の前の沸騰しきった父を諌める方法は思い付かない。
何てことはない。
僕はただ、アリーシャが嘘を付いた事に傷付いているだけなのだ。
本当は、彼女も僕の事を疎ましく思っていたのだろうか?
だから、弟と共謀して僕を嵌めた?
前後不覚のままフラフラとした足取りで館から出て行こうとする僕に、父は懐から取り出した小さな包みを投げて寄越した。
中身はぎっしりと詰まった、エーロ通貨である。
「100万エーロある。持って行きなさい」
「……」
手切れ金という奴だろうか?
親子の縁をコレで切ると? そう思えば何と安い……。
床に叩き付けてやっても良かったのだが、これから先の生活を思うと、受け取った方が得策だろうと意地汚くも考えてしまう。
「結局――」
「?」
「何の加護を授かったのか、お前は誰にも明かさなかったな……」
「……」
何処か寂しそうな声で、呟く父。
――堪えられなくなった僕は、その場から駆け出した。
館から出ると、村の住民が道の真ん中を空けて列を成していた。構わずに走り抜けようとする僕に、彼等は手に持った果実を一斉に投げ付ける。
「この色情魔!!」
「アリーシャちゃんをよくもッ!」
「二度と帰ってくるな!!」
「村の恥め!」
「女の敵ッ!!」
「金返せ!!」
「ぐ、ぐぐぐ……ぐぅ……ッ」
思い思いの罵詈雑言を浴びせられながら、僕はその場を駆け抜ける。
何を吹聴されたのかは知らないが、どうやら村の皆は僕の敵らしい。
恐らくは、これもオルガの仕業だろう。
確かな事はただ一つ。
僕にはもう、帰る場所はないという事だ。
◆
「ステータス、オープン!!」
黄昏時の村の郊外は、人気がない。その場に一人きりとなった僕は、聖なる呪文を唱え、空中より出現した文字の羅列に指を添える。
「くそ、くそぉ……ッ!! 何の加護を授かったか、だってぇ……ッ!?」
――――――――――――――――――――――――――
[ピストン=セクス LV.1 ]
総戦力:158
生命力:72/72
魔法力:15/15
攻撃力:22
防御力:14
素早さ:19
賢 さ:13
幸 運:3
――――――――――――――――――――――――――
現れた文字は、神の目を通した己の実力。
俗に"パラメーター"と呼ばれるものであった。
18歳に成人し、加護の儀を迎えたその日より、この数値は確認する事が出来る様になる。
しかし、僕が見たいのはソコじゃない。
その下――神の加護の欄にある項目だ。
[愛淫の加護:性なる女神エメロス]
◇壁に向かって腰を振った回数分、ステータスを上昇させる事が出来る(上限無し)◇
……聖なる神ではなく"性"なる神と表記されていたり、エメロスという聞き慣れない神の名に引っ掛かりは覚えるが、そこは些細な問題。
――壁に向かって、腰を振る?
――それってつまり、前後運動?
――それって――それって――
「――言える訳が無いだろうがッ!!」
神はふざけているのか!?
試してみたらやはり、前後運動!!
犬が交尾で良くやるアレである。
横方向では何の反応もしなかったわ!
「犬の発情期じゃあるまいし……!」
何故、この様な屈辱を僕が!?
……いや、分かっている。
例え加護の内容がどうであれ、実行しなければ済む話であるのは重々承知していた。
しかし、だ。
「人には話せない恥知らずな加護なのは確かだけれど、内容自体はぶっ壊れなんだよなぁ……」
色々、試してみて分かった。
腰を一回振った際のパラメーターの上昇数は制限有りで1である。何が上がるのかはランダムだけれど、約10分間はパラメーターの上昇は持続し、回数の上乗せも可能ときている。
更に言えば100回の腰振りで永続に1、自身のパラメーターが上がる事も確認している。LV.1でありながら、僕の生命力の数値が高いのはその所為だ。レベルアップで上昇する数値は、加護抜きで平均20と言われている事から考えると、破格の性能だと思われる。
「1秒間に1回腰を振るとして、10分……つまり600の数値を瞬間的に上乗せ出来るって訳だ」
1LVUPの上昇量=20
600÷20=30で、LV.1でありながらLV.30と同等の実力を得る事が出来るのだ。
「それなら――使わない手は無いだろうッ!?」
仮にも武家の名門セクス家に産まれた者が、自己の研鑽と一時の恥を天秤に載せ、前者を選択せぬ訳がない!!
誰だってそーする!!
僕だってそーする!!
「それなのに廃嫡だって!? 僕がどんな思いで木の幹に腰を振ってきたのか、父やアリーシャには分からないだろうなぁッ!! 通り掛かりの住民に見られたらどうしようだとか、力を得る為とは言え一体僕は何をやっているのかと自問自答したあの時間ッ! あの時の思いを! 彼等は何にも理解していない!!」
だからオルガにも騙される。
あの弟……いや、もはや弟とは思わない!
アイツに踊らされる村の連中も同罪だ!!
「いいさ……僕だってこんなド田舎の辺鄙村、願い下げだ! 望み通り国からも出て行ってやる!!」
僕を変態と呼びたいのなら、そう呼べば良い。
もう構わんさ。
世間体なんて、木っ端微塵に砕かれた。僕は僕のやり方で、此処から這い上がってやる!!
「――戻れと言われても、もう遅いからな!!」
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