未事記 正しい金の掘り出しかた
さあさあ、よってらっしゃい、見てみてらっしゃい。
この不思議小屋は、正しい金の掘りかたの過去、現在、未来を見せる不思議小屋だよ。
お代?
そうそう、お代は、5文 二束三文よりは、ちょっと高いが、お安いもんだ。
お入り、お入り。じゃ、そこの席に座りなさい。では、照明を消しますよ。
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ここは、二千年前のスペイン。
スペイン・カスティーリャ・イ・レオン州レオン県ポンフェラーダの山です。
この山の中から金が発見されたのです。ローマ帝国を維持するためには、大量の金が必要だったのです。
少しづつ少しづつ掘り出してキリがありません。もっと、大量の金が必要だったのです。
「おい、この山に中にある金を一挙に掘り出す方法はないか?」
「そんな方法はありません。」
「何か、考えろ。考えないと死刑にするぞ。」
「死刑にしても、いい知恵は出てきません。」
「じゃ。三日間だけ時間をやるから考えてみろ。」
そして、3日後
「考えました。」
「どうすんだね。」
「1案。真面目にコツコツ掘る。」
「それじゃ、全ての金を掘り出すのに、どのくらいかかるか、わからんじゃないか。」
「2案、山ごと爆破します。」
「おい、今はローマ時代だぞ。そんな火薬がどこにある。ダイナマイトが発明されるのは、1900年代になってからだぞ。」
「え!、爆破する方法がない。」
「当たり前だ。そんなものあるか?」
「象に使って掘りますか。」
「象を使って、どうやって掘るんだよ。」
「じゃ。少し無謀ですが、水で押し流す。」
「なんだよ。その水で押し流すというのは。」
「水攻めです。砦を襲うときに、上流に川があれば、堰き止めて、そのダムを壊すと、一挙に水が流れて、その町を破壊してしまう方法があるでしょ。あれです。」
「でも、ここは、山だぞ。山の上に、川が流れているわけがないだろう。」
「あれ。ローマの水道技術を知らないんですか?どんなところにも、水を持ってくることができるんですよ。何キロ先でも、何十キロ先でも。水を引いてくることはできるんです。ちょっと、大変ですが、不可能なことはありません。」
「おいおい。この山を押し流すほどの水を、引いてくることができるというのか?」
「ローマ人に不可能の文字はありません。どんなことも可能です。この山ごと、押し流すなんて、簡単です。ただし、時間とお金がかかりますが。でも、この山の下に埋まっている、金は、全部掘り出せますよ。」
「この山の中の金を全部掘り出すことができるのか。それはすごいぞ。」
「そうですよ。山をコツコツ、ポツポツ掘り出すなんて、そんなことをしなくてもいいんです。一挙に山を押し流すので、あとは、金を拾い放題です。」
「何、金を拾い放題。すごいじゃないか。」
「でも、その為に、遠くの山から水を持ってくる必要がありますので、その建設資金とお時間を、いただきたいのですが。」
「この山の下にある金を全部、一挙に掘り出す為だ、いいだろう。やってくれ。」
何年もの月日とお金をかけて、ローマ人お得意の水道施設を作り出し、その水の力で、山を崩壊させてしまったのです。金の埋まっている山が、崩壊して、その山の金は、全て、掘り尽くされてしまったのです。
今は、その残骸が残るばかりです。あんなにたくさんの金が、掘り尽くされてしまったのです。
そして、金が掘り尽くされたその瓦礫の山は、ユネスコ文化遺産になりました。
あまりにも大胆なローマ人の活躍の記録として。
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これこそ、ローマ人の真骨頂だね。
金鉱山を山ごと崩してしまったんだよ。ローマ人の得意の水道技術で。
びっくりだね。どんでもないやつだね。大帝国を作り上げることもあるねえ。
驚いたかい。
忘れ物がないようにお帰りよ。