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冴えない俺と異世界の召喚術士  作者: sumiman
序章 やってきたのは金髪ロング
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第4話「魔法大戦」

「「ご馳走様でした。」」


クレアがこの世界で始めて作った食事はとても美味かった。彼女の物覚えの良さも改まってか、あっという間に台所にある物の使い方を覚え、てきぱきと調理をこなしていた。向こうの世界とこちらの世界では食べ物については大きな差は無いらしく、じゃがいもの芽に毒がある事や、玉葱の皮を向き終わるタイミングなど、料理の基本的な知識は一緒の様だ。


俺は食べ終えた皿を洗い終えると、ビシッと正座で座るクレアの前にドスッと座った。


「それじゃ、聞かせてくれるか。...魔法大戦について。」


「...はい。」





この世界とは違う、クレア達が元々暮らしていた世界での話。なんでもクレアの曽祖父の曽祖父世代の話だそうで、あまりにも残虐な物事が多く、先祖から話を聞いていない者が多数いたため、完全に歴史から抹殺されてしまった血どろみの戦い。それが魔法大戦。クレアはなんでも特別な家系だそうで、たまたま祖先からその話を聞いていたという。


まだ人類が魔法を発見してすぐの頃。人々は魔法の力に溺れ、互いにこの世の全てを手に入れようと貪欲な争いを繰り返していた。クレアの祖先達住んでいた王国の当時の王、ティーラス一世は『このままでは人類が全滅する』と争いを危惧した。どうにか争いを鎮められないか。彼はその世界に存在する精霊や神霊などを尋ね、それぞれの案を聞いて行った。


その中の一案である『魔法を封じる』案を王は採用した。王は神々に祈り、一つの剣に全ての魔法を集約して封じる事に成功した。王はその剣を『集約せし魔法の剣』と名付け、城の地下深くに封印した。魔法が使えなくなった事で人々の争いも止み、つかの間の平和が訪れた。


しかしある時、とある魔法が原因で再び争いの種が撒かれた。それが召喚魔法である。何故か召喚魔法は『集約せし魔法の剣』には封じられずに世界に残っていたのだ。やがて魔物を呼び出して暴れさせる者『魔物使い』が現れ、多くの街や村を制圧して行った。これを不審に思ったティーラス一世は『集約せし魔法の剣』を手に『魔物使い』をどんどん征伐して行った。やがて本当の元凶は『魔物使い』に召喚魔法を教えた魔物の王、『魔王』だという事がわかった。


「あ、ちょっと。」


話を止めて彼女に質問する。


「その『魔物使い』の子孫がクレアちゃん?」


「いえ、私は別口です。召喚魔法が得意なだけの一般人です。」


わりかし即答。まぁ仮にそうだったとしても悪者の子孫だと自分から口にする者はいないだろう。多分。それに彼女は本来有り得ない程正直な娘なので嘘はついていないと思う。多分。


「そうか。止めて悪かった。続けてくれ。」


「はい。」


そして王は征伐軍を自国内で整え、他の王国に悟られないようこっそりと魔王の元へ向かった。最大にして最高の戦力『集約せし魔法の剣』が無く、兵力を出来るだけ討伐軍に注いだので城は手薄になっていた。そこを他の国につけ狙われないようにそっと出撃したのだ。


魔王の城の前に来た時、王は部下達にこう言った。『まず交渉。次に説得。最後に武力。』と。この言葉は向こうの世界では結構有名らしく、クレアの座右の銘もこれだと言う。その割には昨日怒った際に真っ先にジャージの袖でペチペチ叩かれた気がするが。


王は魔王の城の門を開け、魔王に迫った。魔王は交渉する気など端から無く、王を倒そうと全軍を上げて迎え撃った。魔王は前もって用意した作戦で見事に王をおびき寄せる事に成功し、王の部下達を吹き飛ばし王だけを自身の部屋に残して一対一の決闘を行った。凄まじい激闘の末に魔王は『集約せし魔法の剣』を破壊する事に成功した。その影響で、再び世界に魔法が広がった。しかし、魔王は王から受けた傷が多く、剣を破壊した後に死亡してしまう。


「これでめでたしめでたしか?」


「これだけだったらただの英雄譚ですけどね...」


まぁそれもそうか。


「あ、俺は英雄譚よりクレアたんの方が好きだぞ。」


なぜそのタイミングで言う。クレアは俺の渾身のボケを華麗にスルーすると、そのまま話を続けた。



それから三年後。ティーラス一世は魔王を打ち倒した英雄として世界中から奉られた。しかし魔法が人々の手に戻って来たので、人々は再び思い思いに魔法を使い始める。このままでは悪しき歴史が再び繰り返されてしまう。そう思ったティーラス一世の弟、ティーラス二世は、再び『集約せし魔法の剣』に代わるものを探さなければと思った。しかし困った事に、二世は一斉のように精霊や神霊と会話する力を持っていなかった。そこで国の王である立場を利用して『魔法全面禁止令』を出した。


これは単純なモノで、『魔法の使用を禁止する』モノである。これによって国には見張りが敷かれ、街では魔法が使えないようになった。しかし当然裏ルートをなどで魔法を使用する者が現れたので、国は更に警戒を強めた。ただあまりにも束縛が多すぎたのか、やがて民衆の中にも国に反感を持つ者が多数現れ始めた。遂には魔法の使える民衆が暴徒と化し、『魔法全面禁止』を取り消せと城に押し寄せた。


ティーラス二世は暴徒を抑えようと出兵した。これは『前哨戦』と呼ばれ、『魔法大戦』のきっかけになった戦いとも言われている。魔法を全面禁止にしていた王は魔法を使える暴徒相手に手も足も出ず、最後はある者の魔法の流れ弾に当たって死亡した。


その後暴徒の中から王が選出され、国名も『ティーラス王国』から『クレイナス合衆国』となり、魔法と文化を合わせてどんどん発展して行った。元々ティーラス王国の臣下だった者達は別の地に移り、そこに再びティーラス王国を建国した。クレイナス合衆国は大きく発展し、やがて世界の全てを支配できるのでは無いかと考え始めた。


暫くしてから、クレイナス合衆国の王『クレイナス一世』は全世界支配を目的として全世界相手に侵攻を始めた。これが後の『魔法大戦』である。本来なら一瞬で治まるぐらいの兵力の差があったが、強力な魔法は一瞬で多くの兵士を薙ぎ払い、凄まじい勢いで多くの国を降伏させて行った。しかしやがてクレイナス合衆国以外の者も魔法を使える様になり、魔法対魔法の激しい攻防が繰り広げられた。


殺して、殺して、殺し尽くし、奪って、奪って、奪い尽くした。場所によっては何もかも消し飛ぶ位激しい戦いが起こった。その戦いはもはやに誰にとっても生き地獄そのものであった。どの国の兵士も疲労困憊を極め、民も不安や絶望に押しつぶされそうになった。やがて人々は争いの元凶たるクレイナス合衆国に牙を向き、クレイナス合衆国が落とされる事でようやく初陣は終了した。しかし、戦争が終わっても人々の生活は続いて行く。


今度は互いに物を奪い合う為に人々は争いを始めた。そこに秩序は無く、あらゆる武器、魔法、戦術が駆使されて行った。戦火は老若男女問わず全てのものに降り注ぎ、何もかもを破壊していった。こうして一つの大陸の国は全て滅び、人類も居なくなった。大陸から逃げて生き残ったクレアの祖先達が一から再び人類史を始めたという。






「...これが魔法大戦です。」


クレアは哀しそうな顔で語り終えた。俺はなかなか面白かったなと思うと同時に、これが実際に起きたとすれば末恐ろしい事だなと思った。


「なるほど...全ての文明を滅ぼした大戦争...それがこの世界でも起きようとしてるって訳か。」


俺は考察家っぽくううむと顔を歪ませながら言う。鏡で見たら刑事ドラマの真似の顔芸でもやってるんじゃないかって顔だが。


「あ、あの...あくまでも私の予想なので...本気にしないで下さいね...」


彼女は少し恥ずかしそうに言う。俺はクレアの方を向いて軽く笑うと、ビッと親指を立てた。


「大丈夫だ。仮にそんな戦争が起こったとしても俺が止めてやる。俺とクレアちゃんのコンビなら、戦争の一つぐらい軽く止められるさ。」


何処からそんな自身が湧いてくるのか判らない発言。クレアも一瞬ぽかんとした顔をしてから、フフッと笑い始める。


「...そうですよね。私達なら、きっと止められますよね。」




話を終えると、俺は風呂にお湯を張り、その間に明日店長にどうやって言い訳しようか考えていた。謝るつもりが毛頭ないのはクレアを守る為に行動を起こしたからであろうか。正直バイトを解雇されれば俺は初めて会った時のクレアと同じ様になってしまう。どうにか店長にしがみついて許してもらおう。まぁ普通に駄目な可能性の方が高いので俺は次のバイトを探そうとハローワークを開いていた。ふとクレアがトテトテと俺の方に近寄り、話しかけてくる。


「直樹さん、今日もお風呂一緒に入りましょう?」


「...いや、今日は一人で入れ。」


「な、なんでですか...」


彼女は涙目になりながら俺に質問する。「当たり前だろ!」とまた言いたくなったが、いきなり怒鳴っては男として...いや、人として情けない。


「いいか。俺は男でクレアちゃんは女。普通男と女は一緒に風呂には入らないの。大体、俺に裸とか見られて恥ずかしくないのか?」


彼女は少し考えると、かあっと顔を赤らめた。どうやら、昨日はマジの方で『一緒に入る=裸を見られる』という事に気付いていなかった様だ。


「わ、わ、私は...そ、その...」


そして昨日、何故俺がタオルを身体に巻かせたのかようやく気付いた様だ。彼女の顔はますます赤くなり、風呂に入る前だってのに湯気が立っている様にも見える。


「ふひぇ〜...」


一緒に風呂に入ってた事を思い出して恥ずかしくなったのか、くらくらと目を回し始める。俺はふらふらと崩れ落ちるクレアを支えると、ベランダに連れて行って、夜風に当たらせて休ませる。


「...落ち着いたら戻って来い。」


俺はそう言うとこれ以上彼女が恥ずかしがらないように部屋に戻る。当分戻ってくる気配が無さそうなので俺は風呂場に向かい、服を脱いで一人で湯船に浸かる。


「...ふぅ。しかし、魔法大戦か...」


先程は彼女を励ます為にあんな事を言ったが、実際どうすればいいのかまるで検討がつかない。あらゆる分野において浅い知識しか持っていない俺はこの世界の事を彼女に説明する事しかできない。当たり前だが魔法を使う事もできない。そんな俺がどうやって彼女の力になってやれると言うのだ。


「そんな事にならなけらばいいが...」


俺はザバッと湯船から上がると、タオルを取り出して体を拭く。体を拭き終えると寝巻きに着替え、クレアの様子を見に行く。


彼女は星を見上げていた。都会の汚い空でも見える一等星をじっと見ていた。その目はまるで何か願い事をするかのように真っ直ぐに、真剣に一つの星を見つめていた。


「...落ち着いたか?」


ちらっとベランダに顔を出す。彼女は落ち着いた様子でふっと笑う。


「はい。なんだか凄く落ち着きました。」


「それは良かった。風呂空いてるから、いつでも入っていいぞ。」


「わかりました。早速お借りしますね。」


彼女はそう言うと部屋の中に入り、風呂場に向かう。俺はベランダの安全柵に軽く腕を乗せ、彼女が見ていた星をじっと見つめる。冬の大三角形の一つ、プロキオンだ。和名は確か...二つ星だったか。これといって深い意味も無い普通の一等星だ。


俺はその星をじっと見つめながら、明日の予定を考える。明日はとりあえず店長に謝りに行く。それで許されようが許されまいが構わないが、その他にどうしても避けられない事がある。『クレアに留守番を任せなくてはいけない』のだ。許されればバイトしている時間、許されなければ次のバイトを探したり面接をしている時間、家に彼女を一人で待たせなくてはならない。流石にバイト先や面接先に彼女を連れていく訳にはいかない。俺は風呂場で楽しそうに鼻唄を歌う彼女の綺麗な歌声を聞きながら彼女に『留守番を任せる際に何を教えるべきか』考えた。


大方教えるべき事を決め終えると、部屋に戻った。既にクレアが風呂から上がっていた。彼女はいつものコスプレっぽい金と白のワンピースの様な物に着替えると、俺を急かすように話しかけてきた。


「直樹さん!は、はやく!ドライヤーをかけて下さい!嫌なら自分でやりますから...!何処にあるか教えて下さい!」


...あーそうか。クレアは「髪が痛む」のが怖いのか。俺は台所の上の棚からドライヤーを取り出し、コンセントを繋ぐ。思えばドライヤーに回すコンセントなど無かった筈なのに今ではドライヤーを付けても沢山コンセント穴が余っている。俺はドライヤーのスイッチを入れると、櫛を取り出して彼女の髪を乾かし始める。


「えへへ...ありがとうございます。」


彼女は嬉しそうに俺に髪を預ける。相変わらず女性の髪のとかし方などわからないので、前の様に自然体に寄せながら俺好みにならない様に櫛で丁寧に整えていく。ふわふわした髪は正直整えにくいが、彼女の動きに合わせて髪が動く為、向きは合わせやすい。そう言えば風呂に入った直後はストレートなのに、乾かすと再び毛先が小さく内側に上向きのカールを取り戻すのは何故であろうか...。




俺とクレアはやる事も無くなったので、明日に備えて寝る事にした。そう言えば布団をもう一つ買うのを忘れていたが...


「直樹さん、今日も一緒に寝ていいですか?」


「...風呂は駄目だが...寝るならギリギリ許容範囲...なはず...」


...これはこれで悪くないのかもしれない。









ただ翌日、俺は彼女の寝相にボコボコにされるのはまた別の話。

閲覧ありがとうございます。質問意見感想等があれば、ぜひお寄せ下さい!

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