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回顧だよ

 

 気絶してどうやら半日以上はたってるらしいな。

 空が赤く染まってる。

 しかし、なんというかとんでもない話だよな…

 ずっと昔の英雄と呼ばれた存在の生まれ変わりとか異世界ですでに胃もたれ起こしそうなんだけど。


「あ、起きた?」

 件の魔女さんはまだいたらしい。

 ひょっこりと顔を覗かして此方を確認していた。


「元気になったなら良かったよ。

 まだ、全部伝えてないからさ。

 本当は知ってること全部教えるつもりでいたんだけど先にそっちの許容範囲を超えちゃったみたいでね。

 さて、寝起きで悪いけど覚悟は良いかい?

 これは『魔女』が持つシンボルの力で癒しや回復を持ってるんだ。」

 魔女はそう言って手袋をしていた左手の甲を見せてくれた。

 そこには白い刺青のように不思議な紋様があった。

 紋様は一本の縦線に這うように左右に曲線を描いた変なものだった。


「これとは違うけどキミにも体のどこかにもシンボルが出てると思う。

 さて、ワタシの能力は癒しや回復と言ったのはね。

 これでキミの魂に刻まれた記憶を回復させて記憶の旅してもらおうと思うんだよ。

 そうすれば、何があってどんな終わりを迎えたわかるだろうし

 どうかな?」

 覗き込むようにこちらに訪ねてくる魔女は何となく躊躇っているようにも悪戯を行っているようにも見えた。


「どちらにしろ、見ないと進まないんだろ?

 なら早くしてくれ。」

 誰かに語られた歴史より自分で体感した方が早いのは当たり前のことだったからさっさと受けるつもりだ。


「わかったよ。

 なら、『いってらっしゃい』」

 いってらっしゃいと言われた瞬間、魔女がおれの頭に手を置いた。

 それだけで自分が何処かへ引っ張られる感覚がきて、周りの景色から色が消えて歪んでいった。










「おい!

 おいってば!!

 なにぼんやりしてんだよ!」

 目の前に知らない青年がいた。

 いや、おれは知ってる…

 こいつはファミリアのまとめ役であり、『盾』を冠するセレイス・オルバーンだ。

 女性ともとれる中性的な外見と金髪天パが特徴的なおれ達の母親ポジションの男だ。


 そうだ、おれはアグニ。

 ファミリアの創設者でセレの親友。

 忘れていた…。


「あ、あぁ。

 すまん。

 ちょっと考え事してたみたいだ。」

 軽く誤魔化して周りを見渡すとファミリアのメンバーが思い思いのところで寛いでいた。

『癒し』の魔女エレナが『天真』のレイズと『夢』のカリアと三人で川の字で寝ていて、『知性』のオルガと『律』のアクスが酒を飲んで誰か知らない黒髪の人物に絡んでいた。


「なぁ、セレ。

 あそこの黒髪誰だ??」

 おれの記憶に思い当たる人物がいない。

「は?

 寝ぼけてんのか??

 アイツはエージだろうが!」


「いや、わからん…」


「お前、ほんとどうしたんだ?

 どっかで頭打った?」

 セレがおれの頭を触ってケガが無いかと確かめているのがとてもくすぐったい。


「ちょっと、エージと話したいから二人きりにしてくれ。

 エージ!

 ちょっと話があるんだ!

 来てくれ。」


「はい?

 どうかしたんですか?

 アグニさん。」

 きょとんとした顔をしながらこちらに来たエージを座らせて話を切り出す。


「なぁ、エージ。

 お前、地球人だったりするか…?」

 おれは疑問をぶつけた。

 エージは黒髪黒目で日本刀のような反りのある武器を携えておりどう見ても日本人にしか見えなかったのだ。


「…なぜ、知ってる?

 お前は誰だ…?」

 エージは鋭利な雰囲気を出して抜刀術のような姿勢を取った。


「落ち着いてくれ。


 …おれも戸惑ってるんだけど、『癒し』の力で過去を回復してるアグニの生まれ変わりなんだ。

 信じられないかもしれないけどおれ達は死んでおれだけが地球へ流れた。

 そのあと、こっちの世界に戻って魔女の生まれ変わりに会って記憶の旅をしてこいって言われて今に至るんだ。」

 簡潔に説明するとエージは信じてくれたのか元の雰囲気を出して座ってくれた。


「記憶がないのですか…

 全部の記憶が無いんですか?

 それとも虫食いのように抜けがあるんですか?」


「抜けだな。

 現にメンバーの生い立ちや加わった経緯は思い出したよ。

 ただ、エージだけ思い出せないんだ…。」


「そうですか。

 でもそういうことなら安心しましたよ。

 いきなり、知らないはずのことを言われて緊張しました。

 この力は未知なる部分が多いので力絡みならそういうこともあり得るんでしょうね。」

 エージはそう言ってはにかんだ。


「なら、自己紹介ですね。

 ボクは瀧宮瑛士(たつみやえいじ)

 シンボルは『闇』です。」

 エージはそう言って右肩をまくり上げるとそこには三日月のような曲線とその下に二つの星のマークがあった。


「ぜんぜん、覚えてないんですね。

 ボクのシンボルを見てもなんにも反応しないなんて…

 ちょっと寂しいです。」

 困ったような泣きそうな顔されてもおれには意味が分からない。


「このシンボルは邪神教団のマークでもあるんですよ。

 だから、いつもアグニさんはこのマークを笑い飛ばしてくれてたんですけど」


「いや、悪いけど全然思い出せな…あ?

 うぐっ…!

 痛ってぇ~!

 なんだ?

 すげぇ、鈍痛がしたぞ。

 …あれ?

 思い出した!

 エージ!

 そうだ!

 人工英雄計画!

 そうだ!そうだ!

 全部思い出したぞ!」

 なぜ、鈍痛がしたのかわからんが全部思い出した。






 エージはファミリアと敵対した組織『邪神教団』で生み出された人工的な超人だった。

 儀式により何十人もの魂を一人の体に詰め込んで作り上げられた存在しないはずの存在。

 おれ達がその情報を掴んで儀式を止めようとしたが間に合わず生まれてしまったんだ。



 あれはまだ、ファミリアを作って間もなくだった頃…


「あの狂人どもなんてことをっ!!」

 セレが珍しく激怒していた。

「セレ、落ち着け。

 なんとか止めるためにおれ達が向かってるんだ。

 エレナの力があれば惨劇もなんとか回避できるはずだ。」


「アグニぃ

 ワタシは生きてる存在しか癒せないからね?

 そこ間違えないでよ??」

 エレナが後ろから文句を言ってくる。


「わかってるつーの。

 そんなことより、そろそろ情報の施設だから気ぃ引き締めろ!」



 たどり着いた施設は孤児院だった。

 しかし、寂れていて人が住んでるような雰囲気が無かった。

 いや、夜だからそう感じるだけかもしれないな…。


「とりあえず、入るぞ!」

 静かに告げて孤児院の中へ入るとヌルリとした空気が不快だった。

 纏わりつくようなそんな粘度を帯びた空気だ。


「セレ。

 この匂いは…」

 おれは二の句を告げられなかった。

 この匂いを知っていたから…

 これは腐臭だ。

 何かが腐り、それが施設内に充満していた…


「アグニぃ

 下の方からなんか聞こえるよ。」

 エレナが意識を下に向けて伝えてくる。

 確かに何かの声のようなものが聞こえてきた。

 獣のようなそれでいて慟哭しているようなそんな物悲しいものだった。


「行くぞ、二人とも。

 セレは上を見てくれ。

 エレナは周辺の索敵をしてきてくれ。」

 セレは感情が制御できないのか無表情のまま上に向かっていった。


「さて、ここからは引き締めないとな…」

 廊下を奥に進むと不自然な行き止まりに出た。

 部屋のドアも無く数メートルだけの廊下で床には埃が無く人が通った形跡があるそんな不自然なところだ。

 壁を調べていくと、一か所だけ開く隠し扉を見つけ覗くと地下への入り口らしきドアがあった。

 おれはゆっくりとそこを開くと途端に蠅が大群で飛び出した。

 顔を覆いつつ近くの部屋で見つけたランタンに火をつけて下へ降りる。

 どうやら、地下は人工的に掘られた洞窟のようなものらしい。


「おいおい、これは…。」

 降りた先にあったのは死体、死体、死体。

 数十人分の死体の山だった。

 それも邪神教団のもので全員恐怖の表情のまま死んでいた。


「いったい、何が起きたんだ?

 こいつらはいつも死ぬときは邪神様万歳とかいって喜んで死ぬのに。

 まるで予期しない何かで苦しんで死んだみたいだな。」

 調べてみるとほとんどのやつは自分で喉を裂いたり短剣で心臓を刺していた。


 ーーーオオオォォォォォォォ---

 また、聞こえてきた。

 その声は洞窟に反響していたが確かに人のものだ。

 そして、なぜかとても揺さぶられる…

 一体何がいるんだ。



 広い部屋に出た。

 そこには最悪の光景が広がっていた。

 部屋の中央には鎖でがんじがらめにされて檻に入れられた黒髪の人。

 そして、部屋の隅には…血まみれの子供の遺体がまるでゴミのように積み上げられていた。


「くそっ!!!

 遅かったのか!!!!!」

 彼らは一様に喉を切り裂かれており生贄にされたのが一目でわかった。

 光を宿していない虚ろな目が此方を向いており、まるでなぜ助けに来てくれないのかと言われている気分になった。


「遅れてすまない…

 キミたちの体だけでも丁寧に埋葬するからっ…

 頼む…

 次は幸せな人生を歩んでくれ。」

 言わずにはいられなかった。

 この子たちの大半はスラムや孤児のハズだがそれでも、仲間や家族がいたハズなんだ。

 こんなふうにゴミのように捨てられていいわけがない…。


 黒髪の人に近づくと何かをぶつぶつと言っていた。

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」

 同じ言葉を呟き続けており、ほとんど意識がないようだった。


「おい!

 しっかりしろ!」

 おれが声を掛けると彼は顔を上げた。

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