邂逅だよ
馬車から降りた彼女は深く頭を下げた。
「私を助け、爺の仇を取って下さったことに感謝いたします。
ですが、申し訳ありませんが私には報酬をお支払いすることが出来ません。
この身ですらここまで育み守ってくれた領民と家族のために差し出すことが出来ません。」
彼女は自分が何もできない事を心底悔しそうにそう言った。
「あー、いや。
別に謝礼を欲しがってるわけじゃないんだ。
声が聞こえて、ちょっと助けてほしくて近づいたら切り殺されるのが見えて気づいたら勝手に動いたんだ。
だけどもし、少しでも感謝してくれるなら服と少々の情報をくれないか?
知らない土地で何も持ってないのは割と心細いものだからさ。」
今のおれは赤の斑模様の全裸だ。
そんなに遭遇したらきっとやばい奴だと思って全力で逃げるし。
切実に服が欲しいな…
この葉っぱ、どうやら合わなかったみたいでものすごく痒いんだけど!
御者の爺さんを丁寧に埋葬して襲撃者の中からまともな服と装備品を剥ぎ取ると後は邪魔にならないように道の端の方へ捨てて、御者なんてやったことも無いがとりあえずその場で練習させてもらいノロノロ運転だがなんとか動かせるようになった後、近場の村へお嬢様を送ることになった。
「すると、貴方は別の世界から来たというのですか?
そんなことってあるんですね。」
「あれ?
信じちゃうの??
嘘じゃないけど荒唐無稽過ぎてきっとバカにされると思ってたんだけどな。」
そんなとりとめのない話をしながらユルユルと馬車が進む中でおれは一つだけ気がかりがあった。
走っているときは気のせいだと思っていたけど、戦って理解した。おれの体の異常性に…。
普通ではありえないスピードや打撃力、いくら武道を幼いころからやっていても絶対たどり着けないであろう領域での戦闘。原因は分からず、かと言って特に異常もないから余計に不気味だ。
「っと、着いたな。」
気が付くと村の門がすぐそこにあった。
「何から何まで本当に申し訳ありません。
つきましてはせめて、恩人として領館までいらしてもらえませんか?
そこでなら、服などもそれなりにありますし
…どうですか?」
チラチラとこちらを見てるのがなんだか微笑ましくてついぼんやりと見惚れていた。
「え? あ、はい。
お願いします。」
お嬢様ことリアの家は貴族でもかなり貧乏で領内の特産品が無く外から人が来ないうえに若い衆は外へ出てしまうという悪循環に陥ってる限界集落のような現状らしい。
なので、貴族の子供と言っても領民に交じって畑仕事などを行っているそうだ。
リアは女で体も強くないので領内での揉め事などを調停したり要望や領主からの連絡を伝える役を担っているそうだ。
これを聞いてようやく得心がいった。
いくら貧乏でも貴族が乗った馬車が護衛もつけないで移動とかおかしいと思っていたんだが、ここは領館からさほど離れていないし連絡を伝えたらすぐ戻るつもりでいたとこに運悪く遭遇したということが真相らしい。
なんとも運が無いな…
用事を済ませてまたノロノロと来た道を引き返した。
「ここは植物が豊富だけど、特産になりそうなのは無いの?
さっきの村でも見たけど、小麦しかないよね?」
「じつは、領内に自生してる植物のほとんどが未知の植物なんですよ。
御爺様の代で拝領されたんですが、前任の領主は外国と密通してまして資料を全部破棄されていて完全に手探りで始めるしかなかったんです。
それでも、20年も立つと安定して生活が送れていたのですが蝗害が発生したせいで食べるものが無くなり外から買ってそれにより借金が膨らみと悪い循環で最近、ようやく借金が無くなったのですが経営が不安定なままでとても他のことに目を向けてる余裕がないんです。」
ふぅと憂いをおびた溜息を漏らしてリアは締めくくった。
しかし、未知でも前任の時代は回せていたんだからそれなりの植物や果物があってもおかしくないってことだよな。
たとえ外国でも出荷先は人になるんだから。
「なら、ちょっと留まって調べても構わない?
こっちと元いたとことそんなに差があるようには見えないからもしかしたら良いモノ見つかるかもしれない。
あくまで可能性の話だからね!?
むしろ、見つからない方が高いから!」
見つかるかも、と口走ったところで曇りのない目を此方に向けて全身で喜んでいたので釘を刺しておく。
これで見つかんなかったときはどれだけ落ち込むのか怖くてしょうがないよ。
ようやく、領館が見えてゴールとなった。