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いつだって人の死は痛ましいものだよ

 

 ーー遥かなる古代、この世界にはとある集団がいた。

 彼らは性別も年齢もバラバラであったが不思議と惹かれ、出逢いそして旅をした。

 旅の中で彼らに同調するもの達も現れた結果、彼らはそれぞれが集団の長になったり国を興したりしていった。

 時が流れ、それぞれの国や集団は険悪でも彼らの繋がりは出逢った頃と変わらず仲が良かった。

 しかし、時は彼らを歪めた。

 彼らは悪逆を尽くし罪なき者達を殺め、血に塗られた世界へ変えてしまったのだ。

 これに反抗した各集団や国が彼らを追い、追い詰めて彼らは一人、また一人と捕まり処刑され最後の処刑の時、残した言葉は「友よ。 いつかまた…」だった。

 そして、全員が歴史の表舞台から消えた時、世界は生まれ変わった。ーー英雄達の末路より抜粋




「ふぅ、何度読んでも世界が生まれ変わったってこれ絶対腐った世界にってことだよねー。

 そもそも世界を平和にしたはずの英雄がそんな悪逆尽くすなんて話が強引すぎる!」

 読んでいた本をパタンと閉じる。

 私は辺境に居を領地とする男爵家の次女、カーネリア・オルス。

 オルス男爵家は自分で言うのもなんだけどまともな貴族の部類だ。

 この国の貴族達は庶民は草や石ころと同等と見るものが普通であり放っておけばそのうち増えると思っている者が大半を占めている。

 私の家は辺境にあるが故に政権と離れ、領民との距離が近い生活をしてきた。

 おかげで農業のイロハや庶民の知恵を教えられ領地経営は安定しているが辺境は外敵が多いのも事実だったりする。

 盗賊や夜盗は出るし動物もたくさんいる。



「お嬢様!!

 盗賊です!

 出ないでくださいっ!!」

 御者をしている爺が叫んだ。


 そんな!?

 ここは村のすぐ近くなのに盗賊が出るなんて!

 大変だわ!

 もしかしたら、村が襲われたかもしれない!!


「うぐッ!」

 爺が短く叫んだ後、べちゃっと生々しい音が乗っていた馬車の扉の前で聞こえた。


「おい!

 馬車を汚すんじゃねぇーよ!!

 中身ごと売っぱらうんだからよ!」

 扉を挟んだすぐそばで下卑た声と共にそんな言葉が聞こえた。


「もう助かる道はなさそうね。

 なら、穢される前に自決しないと…

 下手に生きていれば家にも領民にも迷惑がかかっちゃうから。」

 そう呟いてツラいけど一息にやってしまおうと自決用の短剣を喉に当てた時、外で叫び声が聞こえた。


「ぎゃあぁぁぁ!?」

「囲め!

 相手はひと…いっ!?」

「敵だぁー!

 武器を構えろ…ぉ?」

 物語のように助けが来たのかもしれないと淡い期待を持ちそっと窓の隙間から外を覗いた。 


 惨殺や一方的という言葉は普通使うことはない。

 しかし、目の前にあった景色はまさしくそれだ。

 紅い、何処までも紅い景色。

『彼』が動くたびに馬車を囲んでいた者達の手や足がちぎれ、顎を失い最後の言葉も残せないまま盗賊だったものに変わっていく。

 ものの数分で馬車を囲んでいた者は物言えぬ骸へと変容した。

 白と赤の斑に染まったその男は裸だった。


「…まさか、死ぬ寸前で変態に会うとは思わなかったな~。

 でも助けてくれたから正義の変態だよね?

 爺はどうなったのかな…」

 ごちゃごちゃと考えたが不思議ともう大丈夫だという確信と安心感が胸の中を満たしていた。

 だから、私はゆっくりと扉を開けて彼と向かい合った。




 夜斗視点

 声を頼りに走ると普段より妙に力強く動いてる気がした。

 走っていると前方に馬車と浮浪者みたいな恰好の集団を見つけて、変な雰囲気だなと思いつつも声を掛けようとしたら、御者席にいた爺さんがいきなり切り捨てられた。



 切られた爺さんと浮浪者を見た時、変な記憶が蘇った・・・。



 それは、背後の地面に剣を刺して前に立ったおれが大勢の敵を殴り蹴り殺している記憶だった。

 不思議と気持ち悪さや不快感を感じず、感じ取れたのはたった一つのこと…

『剣より後ろには誰一人通さない。』

 何処までも強く、まるでどんな災害でも折れない大樹のようなイメージを受けた。

 わからない。

 わからないけど、おれの中で誰かが言った。

『戦え。

 おれはそうやって守ったぞ?』

 誰の声だろうか?

 酷く懐かして切なくなる…。


 つらつらと考えながらも体は別人のように動いている。

 近くにいた一人の腕を力任せに引きちぎり、横にいた奴の顔面に投げつけ、真ん中にいた奴は指示を出していたからその声が邪魔だと思い顎を殴る。

 下あごに当たり、白い歯を散弾のようにまき散らして下あごを無くした奇妙な造形の生物がうまれた。

 惨劇を見て混乱した残りの連中も剣を上段に構えて向かってきた。

 おれが剣の柄を殴り、弾くと剣が後方へ飛ぶ衝撃で肩の関節が外れて剣が半円を描いて背中へ刺さりそのまま胸から飛び出し絶命した。

 彼らの死に顔は驚愕や疑問に満ちており、何処までも滑稽な感じの顔だった。


 周囲に鉄錆の匂いと生の終わりの呻きが残り、やがてそれも治まった頃。

 ゆっくりと馬車の扉が開きそこから茶髪を低くサイドポニーでまとめた女の子が顔を覗かせた。

 歳は高校生位に見えるが髪型のおかげか深窓の令嬢という落ち着いた雰囲気を見せている。

 彼女は周りを見渡し、御者をしていた老人の遺体を見つけると泣くのを堪えるように眉間に眉を寄せた表情を作って少しの間そうしていたがやがて、落ち着いたのか此方にゆっくりと警戒しながら向かってきた。

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