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photograph

作者: 内藤アルト

 

 大学生になって初めての夏休み、私はミキと肝試しに行くことになった。ミキとは小学校のころからの友達で、夜にどこかに忍び込むことなんて何度もやった。今回も相当危ない噂があるところに行くらしいが、考えてみれば安全そうなところになど今まで一度たりとも行ったことがない。そこまで気にすることもないだろう。こんな風に思ってしまう私は、いつも通りの生活の中にある非日常に依存してしまっているのかもしれない。


 当日になり、私はそわそわしていた。楽しみで楽しみで、もう10回以上は荷物の確認をした。まだ時間がかなりあるけど、もう家を出ても良いだろうか。今日は現地集合だし、もしかしたら道に迷ってしまうかもしれないし、もう行ってしまおう。


 今日はいつも行くところよりも近いところで行うようで、迷わずすぐについた。川だ。向こう側には林が広がっている。バーベキューなどをしたらきっと楽しいのだろう。肝試しの方が楽しいが。1時間ほどすると、ミキが来た。何故か川の向こうの林の中から。

「あれ?早いね?どうしたの」

 それはこちらのセリフである。あちら側から来たということは、おそらく私より先に来ていたのだろう。私が言うのもなんだが、かなり早い。早すぎる。何をしていたのだろうか。服に汚れは目立たないものの、額にはうっすらと汗がにじんでいる。肝試しのルートに仕掛けでも施していたのだろうか。しかし今日は写真を撮るだけであって歩き回る予定はなかったはず。まあ毎回よくわからないことをしているし、深く考えても仕方がない。

 写真を撮るためのカメラはミキが持ってきてくれた。どうやら今日のために新調したらしい。しかし、新しく買ったという割には薄汚れており、中古なのだと思われる。今日のミキはいつもより力が入っていて、撮影場所まで細かく指示してきた。言われた通りの場所に立つと、何かが折れるような音がした。足元を見るとそこには白い何か、骨のようなものが粉々になって落ちていた。ミキのいたずらだろう。そう考えてみるものの、体は火照り、冷静になれない。もしこれが本物の人骨だったら…そう思うとどうしても落ち着かなかった。恐怖だろうか、それとも非日常への歓喜だろうか。どちらにしてもまずは平常心を取り戻さなければならない。私の手が自然と首元にある石に伸びる。母の形見のネックレスについた青い石。それに触れると不思議と冷静になることができた。大丈夫、きっと大丈夫、何故かそう思えた。

「撮るよー」

 そんな私の心情など知らず、ミキは言う。二人でカメラに向かってピースをして笑いかける。写真はミキの知り合いが現像して後日直接渡してくれるらしい。カメラで自撮り…上手く撮れてたらいいのだが。今回の肝試しはこれで解散となった。


 数日後、写真ができたらしいので、ミキと一緒にとある一軒家に受け取りに来ていた。そこは立派な家であったが、周りは木に囲まれており、そこだけ異世界であるかのようだった。表札には『寺崎』と書いてある。ミキはインターホンも押さずに中に入って行く。私もおそるおそる着いて行った。

「望さーん、来ましたよー」

 中に入ってすぐ右にあった部屋に、そう言いながらミキは入って行った。中には一人の髪の長い女性が羽織った黒いローブのフードを深くかぶって椅子に座っていた。よく来たねとミキに言った声と、フードから少し見える顔からその女性は私たちと同じくらいの年齢だと思われた。女性の隣にある机の上には2枚の写真が置いてあった。片方しか見えないが、少なくとも1枚は私たちの写真だ。しかしその写真には3人写っていた。私の隣に、頭を抱えてこちら睨みつけているように見える女性。白いワンピースのような服を着た、ボサボサの長髪の女性。髪が顔にかかっており、よく見えない。

「やあ、初めまして。ボクの名前は寺崎望だ。写真が気になるのもわかるけど、ボクにも多少気を向けてくれると嬉しいかな」

 ローブを羽織った女性、寺崎さんが言葉を発したことで私の意識は現実に戻ってきた。慌てて私も自己紹介をした。フードを被っているせいで表情を読みづらいが、怒ってはいなさそうだった。

「ではさっそく写真の解説をしようか」

 寺崎さんはそう言って私たちに1枚ずつ写真を渡してくれた。

「君たちに渡した写真は同じだが少し違う。それぞれに1人ずつ、この世のものではない人物が写り込んでいる」

 手元の写真を見ると先程見た女性が写っていた。ミキの写真を見ると、ミキの隣には30代後半程の優しそうな男性がにこやかに笑って立っている。

「君たちの写真に写っているのは片方は守護霊だが、もう片方はそこにいた浮遊霊…いや、もうすでに悪霊になってるね。これほどのものを引き当てるとは流石だよ」

 話によると、ミキが使ったカメラはその人に今一番影響を与えている霊を写すもので、寺崎さんがミキに売ったのだという。素人が霊を見分けるには目を見ればいいらしい。良い霊は青、悪い霊は赤い目をしているらしい…のだが、女性の目は隠れて見えないし、男性は目を閉じていて見分けがつかない。まあ、見た目的に私の方が悪霊なのは察しがつく。どうするべきか寺崎さんに聞く。しかし答えは「無理」だそうだ。このカメラを使った段階で一緒に写った霊の影響を受け入れることになるらしく、それから逃れることはできないそうだ。より強い霊の影響を受ければあるいは…どうにかできるのか。いや、時間がない。

「まあ安心しなよ」

 安心できるわけがない。どうするんだ…どうすれば…。寺崎さんに部屋に残るように言われ、1人部屋に残る。ミキは寺崎さんと別の部屋に行った。今回の霊はかなり危ないらしいから逃がしたのだろう。巻き込まないために。


 2人が出て行ってから5分程経った。少し肌寒い。何かが這いずる音がする。近づいてくる。いつの間にか彼女はいた。速くはないが、それでも確実に、少しずつこちらに近寄ってくる。逃げたいけど体が動かない。足首を掴まれる。冷たい。腰を掴まれる。痛い。体を抱かれる。怖い。名前を呼ばれた。…名前…を、呼ばれた。その声は懐かしいもので、今まで怖くて見れていなかった女性の顔を反射的に見てしまう。青色の目と目が合った。その顔は、声は、母のものであった。

「…ィ…ゲ…」

 母が何かを言おうとした時、絶叫が響き渡った。ミキの声だ。叫び声が止むと、母は消えていた。写真を見ると、私の隣には静かに微笑んだ母がいた。5年前に死んだ母。一緒に写った写真はほとんどなかった。この写真は宝物にしよう。ただ、代わりにミキの姿が消えていた。どうしてだろう。

「やあお待たせ。ちゃんと待っててくれたんだね」

 寺崎さんが戻って来たが、ミキの姿は見当たらない。

「あ、お察しの通り、あの子は死んだよ」

 自業自得だね、と笑う寺崎さん。薄々分かってはいた。母は良い霊だったのだから、ミキの方の男性が悪霊だったのだろう。

「じゃあ、改めて自己紹介をしようか。ボクはアルテナ。アルテナ・ホープライト。ただのしがない呪具屋さ」

 ミキは私を憎んでいたらしい。理由はわからないが、私を殺そうとした。骨を私に折らせ、呪わせようとした。寺崎さんが私に別れを告げる。写真を捨てるように言われた。燃やせと言われた。私は適当に返事をして去った。


 1週間が経ち、私は写真を眺めていた。燃やすわけなんてない。これは私の宝物だ。母の微笑みを眺めるのが最近の習慣になっている。すると母が急に苦しげな顔になり、消えた。同時に私の意識も消えた。最後に見たのは赤い目。





恒例のアルテナちゃんですね。恒例ってほどでもないか…?

私の書いてる話は全部短編ですが、全部裏には彼女がいたりして…

時間ができたらアルテナちゃん視点の長編も書きたいなぁ

クトゥルフ神話trpgのシナリオ借りて…


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