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奇襲制圧

「そんなに人はいないようだね」


 列の先頭で、見張り台を偵察したカイルは呟いた。

 幸い、敵に見つかることも離脱者も出すこともなく、部隊は見張り台に近づくことが出来た。

 見張り台は灯台のような形で、石造りの筒型建物の真ん中に少し小さい塔が立っている。

 万が一、戦闘になったとき、建物の上から敵を攻撃できるようにしているのだろう。

 窓から内部が見えるが、人影はまばらで大勢が詰めている様子はない。見張り台に出てきているのも一人か二人。交代要員が居るだろうが、十人に満たないだろう。


「どうやって中に入るんですか?」


 すぐ後ろに居たステファンが尋ねてきた。


「それが問題でね」


 海の上からでは特に入り込めそうな場所は無かった。近くに行けば何とかなると、カイルにしては楽観的に考えて接近したが、甘かったようだ。

 派手に正面から突入したら、町やここから西にある灯台に異変を知られてしまい、敵の救援がやって来る可能性がある。それで無くとも、敵が迎撃準備を始めてしまうかもしれない。

 上陸作戦を成功させるには、この見張り台を他の敵に知られずに制圧する必要があった。


「石積みが乱雑だからそれを足場にして登ろうか」


「そんな暇はありませんぜ」


 怠そうにステファンが答えた。

 上官に意見することは、刑罰の対象になる。だがステファンは、お構いなしだ。それにこの場合はステファンが正しい。間もなく夜が明けるし上陸作戦の決行は間もなくだ。

 ここで時間を浪費する訳にはいかない。


「あの中には何人ほど居ますかね?」


「精々数人、十人以上は居ないと思うが」


「なら大丈夫か。海兵を何人か借りますが良いっすか?」


「? 構わんが」


「では」


 ステファンがそう言うと後ろにいた海兵数人を連れて、あろうことか、真っ直ぐ見張り台の正面扉に歩いて行った。


「おい」


 あまりに無防備に進んで進んで行くので、カイルが声を出して追いかけた。

 だが、ステファンは一回、振り向いて人差し指を口元にあてて、シッとサインするだけでそのまま進んでいった。

 そして、扉の前に着くと、事もあろうにドアを叩いた。

 カイルは大きく目を見開き驚く。

 驚きの余り数瞬、思考不能になったが直ぐにステファンを連れて戻ろうとしたとき、ドアが開いてしまった。

 その瞬間、出てきた相手にステファンは持っていた千枚通しのような先の長い尖ったナイフで腹部を一差しする。

 根本まで入るとナイフを素早く二回転させ傷口を広げ致命傷にしてしまった。

 そして、絶命し力の無くなった見張りを押し退けて中に侵入。一瞬唖然とした海兵も、中に入る。

 遅れてカイルも中に入った。

 そこでは海兵が銃剣を前に突き出して、中にいた敵の見張り要員を刺している。

 ステファンは中心部にあった上への階段に飛び込み、上に向かっていった。

 カイルは何か指示を出そうとしたが、その必要が無いほど彼らは手際よく事を進めている。

 その時、棚の影から何かがカイルに向かって飛び出してきた。


「!」


 咄嗟に腰の刀を抜いて相手のカトラスとぶつかる。


 倒れる


 そう判断したカイルは寧ろ弾き飛ばされる事を利用して横に逃げる。ただ、足だけを残して相手を引っかけて転ばし、刀を突き出した。


「降伏しろ」


 カイルが刀を突き出し迫った。

 相手、ひげ面の日に焼けた二〇代前半ぐらいの異教徒。一瞬、相手はカイルを見て驚くが、直ぐにニヤリと笑うと立ち上がってカイルに突進してきた。


「!」


 カイルは慌てて、迎え撃つ構えを取ったが、体格差がありすぎて今度は押さえつけられてしまった。

 カイルを床に押さえつけた異教徒はカトラスを振り上げカイルに振り下ろす。

 刀身が身体を突き抜ける。

 背後から刺された異教徒は、口から血を吹き出してカイルの脇に倒れた。


「大丈夫! カイル!」


 異教徒を始末したレナが尋ねてきた。

 カイル達が入った後、続いて来たようだ。


「ああ、大丈夫だ」


 そう言ってカイルは立ち上がり、血を拭って周りを見た。

 他の海兵も自分の相手を始末し終えた所だ。


「上に居たのは二人だけでしたあ。大人しくさせています」


 いきなり後ろから声を掛けられ、カイルはビクッとして後ろを振り向いた。

 螺旋階段を降りてきたステファンが、不敵に報告して来た。


「あ、ああ、ご苦労だった。艦に帰ったら特配を二杯追加するよう艦長に頼んでおく」


「やったぜ」


 そう言うとステファンは血の滴った自分のナイフの刀身を拭き取って、鞘に収める。

 カイルは動揺を隠すように姿勢を正し、海兵達に内部を片づけるよう命令した。


「何なんだあれは?」


 一通り後始末を終えてから、カイルはマイルズの隣に行き尋ねた。


「へえ、奴の一寸した特技で。上陸したとき敵兵を音も無く殺す術に長けているんでさあ」


「……艦内で使っていないだろうな」


「本人は笑うだけでさあ」


 マイルズの返答にカイルは渋い顔を作ったが、成功したので叱る訳にもいかず放っておく。これからやる事は一杯ある。


「ランタンを用意しろ。艦隊に通信を送り制圧完了を伝えるんだ」


「へい」


 マイルズは、カイルの指示通りランタンを用意した。窓辺にランタンを置いて出てくる光を布で遮ったり送ったりして、外洋の艦隊に合図した。

 そして、部屋の灯りを点けたままにして目印にする。

 一時間後、艦隊から送り出された上陸部隊数千が浜に殺到した。

 いずれも各国の海兵や上陸専門部隊でボートから飛び降りると隊列を整えて、内陸に向かって前進を始めた。


「任務ご苦労」


「お疲れ様です!」


 カイル達の元にもブレイクニー海尉率いるブレイク派遣の海兵隊がやって来て、守備配置に入った。


「作戦は成功だ。各国の部隊の上陸は成功し、これから戦闘に入る。ここは俺たちにまかせて君らはブレイクに帰って良いぞ」


「解りました。と言う訳でレナ、希望者を募り、戻るんだ」


「なんで?」


「疲れているだろう」


 闇夜に海を泳いで体力を消耗。樽に捕まっていたが、何も出来ないと言う恐怖のどん底に落とされ、更に消耗。しかも上陸しての戦闘だ。

 疲れているだろう、と思ったカイルなりの気配りだ。事実、レナは疲れていたが、首を横に振った。


「そうだけど、これから面白いものが見れるんでしょう」


 そう言ってごねた。

 自分達が行った作戦がどのような結末を迎えるか、見てみたいのが人情だろう。

 カイルだって、自分の行った作戦が上手く行くところを見てみたい。


「誰か、ブレイクに戻りたい奴はいるか?」


 改めてカイルが聞くが、全員首を横に振った。


「と言う訳で、ここで見させて貰います」


「解ったよ」


 そういってブレイクニーはカイル達が残る事を認めた。




 作戦は結論から言うと成功だった。

 町から隠れた浜へ合同艦隊の上陸部隊は攻撃を受けること無く上陸する。

 本来なら見張り台からの通報を聞いて迎撃に出て行く作戦だったが、カイル達が占領したことによりイコシウムの太守――江戸時代の大名みたいな存在――は完全に隙を突かれた。

 町の手前に自らの軍勢を展開させて迎撃しようとしたが、大砲も上陸させた合同艦隊上陸部隊に敵うはずもなく、敗退。

 町も城壁を利用して防衛しようとしたが、碌に城壁の手入れもして居らず、町への侵入を許した。

 町に居た海賊達は我先にと自分の船へ逃げだし、夕方までにイコシウムは合同艦隊によって占領された。

 イコシウムの太守は、海賊と共にどこかに逃げだし、町は完全に制圧された。

 その間、レナは冷めた目でカイルを見ていた。

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