イコシウム上陸作戦
海賊船一隻を捕獲して、カイル達上陸部隊を収容したブレイクは情報収集のために一旦、ザ・ロックに戻ることにした。
ザ・ロックの西側、大蒼洋はともかく、東側の滄海で海賊船の活動が活発になっており、沿岸部への襲撃が多発している。
カイルの上陸戦闘もその一つであり、イスパニア各地のみならず、東のエトルリアでも被害が出ている。
これ以上の被害の拡大は各国共に望む所ではなく、マグリブへの侵攻を決定。攻略艦隊を編成して上陸占領する事となった。
そのために上陸専門の海兵隊の部隊、海兵旅団がアルビオン本国から呼び寄せられ、輸送船団に乗ってやって来た。各国も上陸戦闘の得意な海兵隊や陸軍部隊を送り込み、大部隊の編成を終えた。
それに伴いブレイクにも新たな命令が下った。
サクリング艦長は司令部からブレイクに戻ると、候補生を含む士官全員を艦長室に集合させた。
「合同艦隊司令部からの命令だ。マグリブの港、イコシウムへの上陸攻略命令が下った」
イコシウムは、航平のいた世界で言えばアフリカのアルジェ付近の町だ。
天然の良港で、貿易の為の港がある。
だが現在は異教徒の支配下であり、積極的に入港するエウロパ大陸の商船は少ない。精々政府から保証された公社の商船と一攫千金を狙った個人商船ぐらいだ。
これまでも海賊船の取り締まりを通じて、マグリブ諸国に圧力をかけていたが、不充分と判断して上陸占領することになった。
「ブレイクは先遣隊として先行し、上陸予定地点の偵察および、上陸本隊に先立ち上陸予定地点を確保。内陸への攻撃を援護する」
それを聞いたカイルは、少し顔をゆがめた。
敵の軍艦の迎撃は何とかなるにしても、上陸地点の偵察と確保は難しい。
ブレイクの海兵隊と水兵による陸戦隊を編制して上陸する必要がある。その指揮を取る必要があり、また陸上戦闘となりかねない。
「上陸部隊の編成は到着までに発表する。何時でも上陸できるように準備を進めておくように」
「また上陸戦闘か」
この前イスパニアの一角で海賊相手に上陸戦闘をしたカイルとしては、もう一度というのは勘弁願いたかった。
「何言っているの。折角の白兵戦でしょうが」
一方のレナは元気だ。先の上陸戦闘で思う存分剣を振るう事が出来て、心なしか肌の艶が良いように見える。
「今度はもっと暴れまくるぞ」
「そうなるとは限らないけどね」
「水を差さないでよ」
レナの抗議にカイルは肩を竦めて、出港準備の指揮に戻った。
数日後、イコシウム沖合に到着したブレイク他数隻のフリゲートは偵察を開始した。
大陸の北岸から南に向かって半月状にえぐれた湾で、その西側から南に掛けて町と港が広がっている。
そして、西の端には灯台と要塞があり、外洋のブレイク達を大砲の砲口が睨んでいた。
「どうだねミスタ・クロフォード」
マストに登って陸上を見ていたカイルが甲板に戻ると、サクリング艦長が尋ねてきた。
ブレイクに与えられた任務は、イコシウムの偵察及び上陸地点の選定だ。
上陸には幾つか条件がある。
1.上陸部隊を載せた船団が安全に停泊できること
2.上陸部隊を安全に素早く上陸させることが出来ること。
3.攻略目標に近いこと
大体上の条件が必要になる。
攻略部隊を載せるとそれを運ぶ船が必要だし、部隊の人数が多いと船の数も必要だ。そして彼らを下ろすのに安全な港、泊地。波が荒くなく、ボートが途中で着底する事無く、直ぐに浜に乗り上げられる場所が必要だ。
転生前ならグーグルアースなどで確認できただろうが、そんなものない。海図や地図も精密な物は無く、あっても誤差が大きかったり、出鱈目な物が多い。
なので実際に目で見て確認するしかないので、カイルがマストに登って見ていた。
それらを纏めてメモに記しており、カイルは内容を見ながら艦長に報告した。
「町の北側、半島に要塞があり、湾内に侵入するのは難しいでしょう。東側も測量が出来ないため何処に浅瀬があるか解りません。河口もあり、見えない浅瀬が多数有ると思われ、座礁の危険があります」
川は水だけで無く、土石も川の流れに乗ってやって来る。
そうして、河口に溜まり中州などが形成される。丁度広島やエジプトのアレクサンドリアのように。
見たところ川筋が分かれるような中州は見当たらないが、中州が形成されつつある可能性が高く、急激に浅くなっている可能性がある。
なので航行するのは危険だ。戦闘中に座礁すれば、離礁する前に敵の集中砲撃を喰らう可能性が高い。
「君ならどうするかね」
「町の西側、湾では無く滄海に面した浜があります。ここは外洋に面しているので浅瀬の可能性は少ないです。ここに停泊して上陸部隊を上陸させ、町の背後から攻撃するしかないでしょう。どこか上陸可能な湾に上陸して陸沿いに移動する方法もありますが。時間が掛かります」
「そうだな。だが連中も、この浜も警戒して見張り台があるが」
「ここは潰す必要があるでしょう」
浜全体を見渡すことの出来る見張り台であり、幾ら未明で視界が悪くても見つかってしまう。
逆に、この見張り台を占拠すれば他から見られること無く上陸することが可能だ。
「制圧すれば、かなりの時間が稼げます」
「どうやって制圧するの?」
横からレナが口を出してきた。
艦長と話している間に割り込むのは、不躾だが、戦闘の予感がして居ても立っても居られず、口を挟んできたのだ。
「海から接近して潜入して乗り込むしか無いな」
海図を見ながらカイルは判断した。
内陸から侵入するにしても、内陸の様子が分からないのでは危険すぎる。海から真っ直ぐ向かうしか無い。
「浜から上陸するのね」
「いや、浜から上陸したら丸見えだよ」
夜間でもボートが見つかってしまう可能性があり、それは避けたい。
「見張り台の真下は岩場だが小さいけど砂地がある。そこから上陸して見張り台まで行く」
「真下だと見張り台からボートが見つからない? それに岩場近くだと暗礁があってボートで航行するのは難しくない?」
岩場の近くなので海流が複雑な上、闇夜なのでボートが打ちつけられる可能性がある。かといって慎重に行こうとすると、時間が掛かり敵にボートが見つかる可能性が有る。
「近くまでボートで接近した後、泳いで上陸するんだ。潮の流れを計算して最適な時間に泳ぎ出せば、無事に上陸できるよ」
カイルがこともなげに、計画を話すとレナは硬直した。




