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決着

「洋上にブレイクです!」


 見張りが大声で廃村にいる全員に伝えると、歓声が上がった。

 全員が土手となった石垣の跡に上り、アルビオン海軍旗を掲げて航行するブレイクを見て更に声が上がる。


「私たちを助けに来てくれたのね」


「ああ、それにこちらも位置を伝え続けたからね」


 感動するレナにカイルが答えた。

 置いていった場所とは言え、海賊船が居るところへ真っ直ぐやって来る事はないだろう。数日、付近を哨戒して、海賊船が居ないか確認するか、援軍を呼んでからやって来るはず。

 それにしては、速くやって来ている。


「どういうこと? 何かエルフの魔法でも使ったの?」


「無理だよ。けど、誰にでも使える手段があるからね」


「誰にでもというのは……あっ」


 昨日からの行動を思い出したレナが気が付いた。


「バリケードに火を付けたのは、追い返すためじゃなくて煙を上げるためね」


「その通り」


 そこら辺の木を切って、こしらえたバリケードのため、使われている材料は十分に乾燥していない生木だ。生木を燃やすと、水分が多いせいか白い煙が出やすい。それを利用して、カイルは狼煙代わりに、自分たちの位置と生存を洋上のブレイクに伝えていた。


「それに昨夜の夜襲でも伝えることが出来たしね」


「あの爆発、大きかったしね。あ、それも狙いだったのね」


「火薬の爆発なら、洋上にいてもよく見えるよ。音も大きいしね」


「エロガキって悪知恵が働くの?」


「エロガキじゃ無い。悪知恵じゃ無くて知謀と言って欲しいね」


 カイルがレナに文句を言うが、気にすることも無く聞いてきた。


「で? この後、どうするの?」


「解っているんじゃ?」


「まあね。けど、確認しておかないと」


 紅い目に闘志を燃やしつつ、子供のように好奇心旺盛にレナはカイルに尋ねた。


「連中の大砲を奪って、船に撃ち込む」


「大丈夫なの?」


「今の海賊船は一昨日のブレイクと同じ。出航しなければ陸地で行動を制限され、沖合から大砲を撃たれるだけだ。必ず、出航する。ほら見て」


 カイルがそう言っている間にも、海賊船は帆を広げ、錨は綱を切って捨ててまで洋上に出ようとしている。

 浜にいた海賊達はそれを見て慌ててボートに乗って戻ろうとしていた。


「連中、慌てているな。浜に装備を残して慌てて逃げている。これは、大砲に釘も打っていないだろうな」


 撤退時に重い大砲を持って逃げることは出来ない。そのためそのまま放棄するのだが、敵に奪われて使用されるのを防ぐ為に火門に釘を打ち込む。だが、急激な撤退の最中にはそれを行えずに逃げることもある。

 特に訓練を受けていない連中だと、特に顕著だ。


「総員、浜に走れ!」


 カイルは水兵と海兵隊員に命じて、浜に向かって行く。

 昨日爆発した跡の近くに捨てられた大砲がある。砲座が破壊されているが、火門に釘は打たれておらず、砲撃可能だ。


「よし、砲撃するぞ! 砲身を海賊船に向けた後、弾を込めろ!」


『おお!』


 これまで海賊に追い回されていた水兵と海兵達が、喜々としてカイルの命令に従って砲身を向ける。


「あの、ミスタ・クロフォード」


 ただ一人、冷静なマイルズだけがカイルに尋ねてくる。


「砲座が無いので、大砲の砲口が上がってしまうのですが……」


 大砲の発射時の反動は凄く、砲身が上に跳ね上がる。通常は砲座で受け止めるのだが、それが無い。


「解ってる。その辺の丸太を砲身とロープで結び反動を抑えるんだ」


 丸太の重さと地面への踏ん張りで砲身が上がるのを防ぐ。


「準備出来ました。しかし、照準が大雑把ですが」


「構わない。撃てることが重要なんだ」


 カイルは、マイルズにそう言い聞かせると海賊船の方を向いて命じた。


「目標! 前方の海賊船! 砲撃開始! 撃て!」


 カイルの号令と共にマイルズが砲撃した。

 即席の砲架のため、跳ね上がって照準がぶれて海賊船の頭上を通過して外洋に着弾した。


「あーやっぱり外れた」


「いや、十分だ。装薬を減らして砲撃を続けろ」


「はい、装薬を減らせば反動が抑えられますが、威力が」


 歯切れ悪く、マイルズが伝える。

 爆発によって砲弾を押し出すのが装薬だ。これを減らせば確かに反動は減るが、砲弾に与える運動量が減り、威力も減る。


「構わない。こちらが撃てることが重要なんだ」


 そう言って、装薬を減らして再び撃たせる。

 今度は海賊船の近くに落ちる。

 すると、海賊船はこちらに大砲を向けようと旋回した。


「総員、一旦退避せよ!」


 カイルが命じると、全員が廃村に逃げて行く。

 そして海賊船から砲撃が来るが長くは続かなかった。無理な旋回を行ったために、風をおかしな方向に受けてしまい、漂流を始めてしまった。

 今の時間は上げ潮、干潮から満潮に移る時間で外洋から陸へ潮が流れるため、海賊船は陸地へ流される。

 そして、近くの岩場に衝突、座礁した。

 そこへ洋上からブレイクが砲撃を始める。

 動けず、大砲も向けられなくなった海賊船は撃たれるだけだった。

 一部の海賊が海岸めがけて逃げ出し始めたが、素早く海兵と水兵を展開させたカイルによって、殺傷されるか捕らえられた。

 キャプテンのフジールは最後まで船で指揮し、逃げる者を斬り殺していたが部下に殺されて死亡した。




「諸君らが無事で良かった」


 戦闘が一段落した後、ブレイクは一昨日の位置に錨を降ろしカイル達をボートで回収した。

 二日ぶりにブレイクに戻ったカイル達は安堵感に包まれつつ、サクリング艦長をはじめ乗組員の歓待を受けた。


「君らが上陸後、三隻の海賊船を確認して、緊急出航した。直ちに出航しなければ、危険だったからな」


 サクリングが申し訳なさそうに、カイル達に説明した。下手にへりくだった態度では無く、真にやむを得ず決断した男として、その決断を堂々と伝えた。

 間違ってはいないが、だからといって相手が納得出来ないかもしれない。そのことで非難を浴びる事も覚悟していた男の顔だ。

 だが、カイルは非難をする事は無かった。


「はい、こちらでも状況を確認しておりました。やむを得ないと考えております」


 もし、カイル達を収容して出航したら、三隻に囲まれていた可能性は高い。そうなると、三対一の不利な戦闘となり、敗北していた可能性も有る。当然、乗ったカイル達も戦死か捕虜になる。

 だが、ブレイクが緊急出航して逃げたお陰で反撃し、勝利することが出来た。

 そのことに感謝することはあっても、非難する理由は無い。


「ですが、昨日の夕方頃、一隻の出航を確認しましたが、三隻の内の一隻が見当たりません」


「ああ、それなら昨日の明け方、奇襲して奪ったよ」


 まるで町中のケンカを報告するようにサクリングが話した。

 それを聞いてよく見るとあちらこちらに戦闘の跡があった。


「二隻が引き返したが、一隻が妙にしつこくて夜になって撒いて、明け方奇襲を掛けて返り討ちにしてやったよ。ミスタ・ホーキングがザ・ロックへ回航中だ」


「ああ、それでいなかったんですね」


 最先任の士官候補生エドモント・ホーキングがいないことに気が付いたカイルは、最悪戦死も覚悟していたが、無事であるのならそれで良かった。


「それで、飲み水の補給は完了しております」


「よかった。しかし、問題は海賊船の方だ。下手くそな連中のお陰で座礁してしまった」


 捕獲出来なくなった事をサクリングが嘆いた。

 捕らえた船は海軍の港に送り、引き渡すことで初めて賞金が貰える。

 だが、座礁してしまっては、無理だ。

 損傷の程度によっては、離礁して運ぶ事が出来るが、見た限り浸水が激しそうで一度浮かべても、直ぐに浸水して沈みそうだ。


「あの、艦長」


「なんだ?」


「そのことで一つ提案があるのですが」


 カイルが、出した提案は、海賊船を一度離礁させ、避難させた村人の近くの浜まで回航させる事だった。

 海賊船に乗っている財貨や火薬大砲類をブレイクへ移送し、軽くなった海賊船を離礁させ、回航。損傷が激しく浸水しているだろうが、短距離なら持つだろう。そして村近くの浜に再び座礁させる。そして、そこで解体させ、破壊された村の再建資材にしようというのだ。

 その代わり村人には補給物資と労力、主に飲み水の補給や海賊船の物資をブレイクへ移す為に活躍して貰う。

 その提案をサクリング艦長は了承し、村長も了承して実行された。

 再び満潮になる前に出来るだけ物資を運び出して軽くし、穴の開いた部分を補修。満潮になるにつれ浸水が多くなったが海賊達にポンプを回させ続けて排水させ、何とか離礁に成功。そのまま、村の近くまで回航して村の再建資材にするべく、解体作業を始めた。

 村まで海岸から距離があったが村人と捕虜になった海賊が分担して運ぶ事により、迅速に進み、三日ほどで作業は終わった。

 それらの作業を終えたブレイクは、悠々とザ・ロックへ帰投していった。 

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