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戦闘配置

「総員戦闘配置! 砲撃用意!」


「え?」


 突然の命令にマイルズは驚いた。冗談かと思ったがカイルは本気だった。


「どうした。伝えろ」


「は、はい」


 カイルの声に押されて、マイルズは号笛を吹き鳴らし戦闘配置を命じた。

 海兵隊の鼓手がドラムを叩き、水兵達が配置に付くべく甲板を駆け回る音が響く。


「操舵手、風下、艦尾方向からゆっくりと接近しろ。マイルズ、手旗信号で船名と目的地、積み荷を申告するよう伝達しろ」


 カイルは、艦長のように次々と命令を下して行く。

 当直員として認められている権限だが、ここまで矢継ぎ早に独自に命令を下せる候補生はいない。だがカイルに迷いは無かった。

 そして淀みなく命令を出し続ける。


「海兵隊は臨検隊準備。残りはマストに上げて援護させろ。あと艦長に前甲板に来て貰うよう、伝令を出してくれ」


「カイル!」


 掌帆長に細かい指示を出しているとき、レナの声が甲板に響いた。


「レナ、戦闘配置に……」


 と言ったところでカイルは絶句した。

 服ははだけ、シャツはボタンがズレて胸元が大胆に開いている。ズボンも半分だけ履いた状態で今にもずり落ちそうだ。

 普段でもスタイルの良さは知っていたが、この姿はより強調される。

 というかエロい。

 まるでストリップか、火事で逃げ出してきたような半裸の格好だ。


「どうしたんだよ。てっ」


 レナはカイルの元に来ると拳を思いっきり握り殴りつけた。


「何するんだよ」


「こうなったのは、あなたのせいでしょうが!」


「どうして?」


「部屋で着替えているとき戦闘配置が掛かって、壁を取り外されたのよ!」


 レナの言葉でカイルは納得した。

 現在、レナはクリフォード海尉の部屋に住まわせて貰っている。現在、正規の女性乗組員で士官待遇なのはレナとクリフォード海尉だけなので、一緒にいた方が便利だ。

 そのためクリフォード海尉の部屋を使わせて貰っているのだが、その士官の個室が問題だった。

 帆船は基本的に余裕が無い。風を受けて進むために軽量、スリムなため容量がない。

 そのため居住区なども制限される。

 大砲を積み込み、大勢が乗り込む軍艦はより酷い。

 士官個室が設けられるのは砲甲板の一角。大砲が置いてある周りを帆布などで作った仕切り板で囲むだけだ。ガンルームのガンを大砲と勘違いした人がいるほど、士官個室にはほぼ必ず大砲がある。艦長室も例外では無く、大砲がある。記念艦のヴィクトリーは司令官の部屋にも大砲がある。三笠の長官室に大砲があるのも、帆船時代の延長で取り付けられているからだ。

 で、その大砲は戦闘時に使用されるが、仕切り壁があると大砲の操作に邪魔になるので戦闘配置が掛かると撤去される。

 レナは、運悪く着替えているときに戦闘配置が掛かってしまい、仕切りの壁が撤去されてしまったのだろう。一昔前のテレビのドッキリのように、楽屋で休んでいた芸能人に壁を外して公衆の面前に曝して、からかうというアレだ。レナの場合はストリップショーになってしまったが。 

 取り外した水兵達もさぞ眼福、もとい驚いたことだろう。


「で、どういう事? つまらない理由で戦闘配置掛けているなら裸にひんむいて吊すわよ」


「夫婦げんかならよそでやってくれないか?」


 据わった目で睨み付けるレナを抑えたのはサクリング艦長だった。


「か、艦長。その夫婦げんかって」


「どうでもいい、服を直したまえ。それより状況を報告しろ」


 赤くなったレナを放っておき、促されたカイルは報告した。


「本艦の南方を航行中のアルビオン商船を発見。これを停船させ目的地と積み荷を申告させ、臨検を行おうと思います」


「自国の商船を臨検するの?」


 服装の乱れを直しながらレナが尋ねてきた。

 水兵達がレナを見ているが、カイルが睨み付けると視線を逸らした。


「怪しい所でもあるの?」


「ミスタ・クロフォード、商船から返答がありました」


 そう言って手旗信号で受けた申告をマイルズが報告した。


「インディア貿易のオールドマン号です。エトルリアのアマルフィへ綿織物を輸送する最中だそうです」


 エトルリアは、航平のいた世界でいうイタリアに当たり、アマルフィはその港町だ。

 ここからなら北東へ向けて航行すれば着く。

 アマルフィは昔からアルビオンの織物を購入してくれるお得意様で、貿易のためにインディア貿易公社が船を良く出しているので怪しくは無い。


「普通の商船みたいだけど?」


 レナが言ったがカイルは納得していなかった。


「停船させ、臨検を行います。臨検隊準備。大砲も発砲用意。ただし当てるな」


「って、何闘争心満々なのよ」


 レナがカイルを抑えようとしたとき、マイルズがマストの旗に気が付いた。


「ミスタ・クロフォード! マストに黄旗が上がっています」


「げっ」


 カイルから信号旗の種類と意味をたたき込まれたレナが、揚がった旗の意味を思い出して絶句した。

 黄色の旗は、疫病発生中。危険な伝染病患者、コレラ、ペストなどの患者が船内にいることを現す旗だ。

 病人が発生するとこれを掲げて他の船に感染しないよう、離れるように警告する。

 周りの船も感染を避けて離れるのが基本だ。


「何か病気が発生したようね。離れないと」


「砲撃用意! 目標オールドマンの前方! 当てるなよ!」


 逆にカイルは確信したかのようにより強い口調で命令した。


「って何撃とうとしているの!」


 黄色い旗を見て寧ろ攻撃精神が高まったカイルにレナは驚いて、止めようとしたが遅かった。


「撃てっ!」


 激しいカイルの号令と共に、大砲の引き金が引かれ巨大な火炎と共に弾を撃ち出した。

 小型のフリゲート艦とはいえ、大砲は一二ポンド、約六キロの鉄の塊を高速で撃ち出す。

 商船の装備している大砲よりも大きめで威力がある。

 その砲弾は海上を勢いよく飛んで行き、オールドマンのボウ・スプリット、船首から斜めに伸びる柱に命中した。

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