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科学者

主人公はいつ真面目に戦ってくれるのでしょうか?


あともう少しだと思います。


現在時刻は朝の8時ほど。


当然約束の時間まで公園で待つわけには行かないので、家へ帰ってゲームをするつもりだ。


最近のマイブームはアクションゲームだ。置きや立ち回りを理解してくるとどんどんと深みにハマっていってついつい止め時を忘れてしまう。



そんなふうに予定を立てながらマンションに帰ろうとすると見知った奴が道の真ん中でぽつんと座っていた。


「ニャー」


毛並みは質のいい絨毯のように滑らかで、吸い込まれるような黒い瞳と同色のそれは朝のこの場所にはとても不釣り合いだった。


「なんでお前がいるんだよ」


そこには素知らぬ顔で毛繕いをしているメシアがいた。


「にゃあー」


しかし、猫には人間の事情など関係ないのか、さも当然のように俺の肩に飛び移ってきた。


相変わらず肩に爪がくい込んで痛い…


「ええい! うっとおしい!」


堪らず肩を揺さぶって乱暴にメシアを落とす。

猫なのでこのぐらいの高さから落ちても大丈夫だろう。


「にゃあ〜」


メシアは予想通りしなやかに着地をするとジトっとした目でこちらを見る。


「なんだ文句あんのか? 俺の肩に乗りたければ、まずその爪をどうにかしろ」


言ってマイホームへと足を急がせる。


……スタスタスタ


……ペタペタペタ


チラッ


……ピタッ


……スタスタスタ


……ペタペタペタ


チラッ


「当然のように着いてくんじゃねよ!」


大人気なく喚く俺にメシアは首をかしげて愛嬌を振りまく。


っく、そんな可愛い仕草したって騙されないぞ。


「しょうがない、このまま家までついてこられても困るし外で時間でも潰すか」


時間になったら公園にあのふたりも来るだろうしその時にソニアに擦りつければこの猫も着いてこれないだろう。




とはいったものの外ですることなど全くないわけで、自然と公園で茫然自失に時間を過ごす。


スマホのゲームはやらない派なので本当にすることがない。


今こうやって約束の公園のベンチで時計を眺めながら砂山で遊ぶ子供たちの声を聞くだけの時の過ごし方にリストラされたサラリーマンに近い心情を抱きかけている。


公園にいるのは同じくベンチに座っているランニング後の暑苦しいオッサン、砂山で遊んでいる子供たちとそこから少し離れて一人で砂遊びをしている子供。


メシアはランニングのオッサンと知り合いなのか、俺から離れてオッサンに甘えている。


猫は浮気性だな。やっぱり犬だ、うん。




しばらくするとランニングのオッサンはまたランニングのために走り出した。


甘える相手がいなくなったメシアは何事も無かったかのようにこっちへと帰ってくる。


これで公園にいるのは子供だけになった。


「……ん?」


砂場で遊ぶ子供たちを年老いた気持ちでながめていると変な違和感に襲われた。


そしてその違和感は一人でぼっちしている子が使用している面積が広すぎるということだった。


さらに砂山を作っている子供たちがぼっちの子を見て怯えているような気がする。


気になったので、隣で寝ているメシアを起こさないように静かに立ち上がり近づいてみる。


これは……。


「おい」


「わひゃあ!?」


そこには砂場にビッシリと文字を敷き詰めて何かをしている少女がいた。


「驚かさないでよ、危ないじゃないか!」


「いやいや、お前のしてることにこっちがびっくりだよ。なんで公共の場で面積とって変なことしてんだ」


「変なこととは失礼だね! これは立派な証明なんだよ」


俺の苦言に少女はそう自慢げに返してきた。


街で聞けば10人中10人はかわいいと答えるであろう少女は残念ながら腰まで伸びた綺麗な黒髪の先の方を砂で汚していた。先程座りながら何か書いていたからその時に付いたんだろうな。


そして自慢げに反った胸は平らなもののそこには能力者が持っているプレートが首から下げてあった。


マジかよ……この国にいる能力者っていえば俺を除いてあと2人。うち1人は男なのでコイツは残りの1人となる。


男の方は情報があまり無いのでよく知らないが、この少女の方はよく知っている。………悪い意味で。


ヤベェよ、こんな所で「年間ヤベェ奴ランキング」で毎回ベスト10の常連に会うだなんてまじヤベェよ。


「あぁー! しまったさっきので証明法度忘れしちゃったよ!」


なんか、すまんな。


「まぁ、証明自体は頭の中で完成してたし。ポアンカレはこんなもんでいっかな」


感情の起伏が激しいやつだ。山から谷までが次元ドアで繋がってるのか?


しかし、改めて砂場を見てみるとどこかで見たことあるような記号があるような気がしないでもない。


……レベルが高すぎて欠片も理解できないけどな。


「ところで、ボクの証明を邪魔した落とし前どう取ってくれんだい?」


突然の賢者タイムから脱出した彼女は標的を俺に定めたらしい。あくどい顔でこっちに代償を求めてきた。


ボクっ娘属性を有しているからって簡単に屈したりはしない。


「そんなこと知るか、こんなとこでやるのが悪い。やるなら自室でやれ」


この能力者はいわゆるヤバイ奴だ。


だが、


俺はミーちゃんでもハーちゃんでもなければスウィーツでもない。世間がどう思っていようと気にしないのだよ。単純に最初に説教っぽく言ったせいで態度を変え難いだけだ。


「ちっちっちっ、分かってないなあ〜。証明は散歩している時とかにふと思い浮かぶものなんだよ」


うわ、すげー腹立つ。


なんだこの「これだから頭の悪いやつは」みたいな顔。顔がいいだけにすげぇ似合うのがなんだか悔しい。


「それに、ボクだって好きでこんなところでやっていたわけではないんだよ」


そして今度は「やれやれ」みたいな顔をしている。


なんだコイツは顔芸の能力者か? または煽りの能力者なのか?


「誰も好きでこんな場所でやらねーよ」


やるとしたらお前ぐらいだろ。


「失うのはあっという間だった。目の前が真っ白になるって言うのはああいう事をなんだね」


「コイツ、人の話を聞いていない!?」


「真っ白に襲われた後にやって来たのは暗闇だった。音も聞こえない世界でただ1人取り残されたような感覚を味わったよ」


彼女は淡々としかし力強くそう言った。


「なんでそんなシリアスそうな顔をするんだ! さっきまでの会話の流れでシリアスな展開に繋がる要素は一つもなかっただろ!」


「ボクは必死に暗闇の中でもがいた。溺れぬようにと。そしてつかむことが出来たんだ暗闇の中に差し込む一筋の光を」


「もうやだコイツ、一人語りが止まらない!」


何の話か全然わかんねーし、めっちゃ厨二っぽいし、平気な顔で言えるこいつの神経が知りたい。


「光を掴んだボクに与えられたのは自由と優しさだった。だが、自由とは時にその身を蝕む毒となる。ボクは途方に暮れて物思いに耽った。考えてみれば簡単だった。流れるように腕が動いて証明を書き始めていたんだよ」


「え!?、それ今に至るまでのあらすじだったの!?」


なんと、さっきから呟き続けている痛々しいポエムは全部コイツの身の上話だったらしい。


「しかし、そこに1匹の邪教徒が──「ブルームさまー。研究所の修理と瓦礫の撤去が終了いたしましたー。」──おや、終わったようだね」


彼女が頭のおかしいポエムを続けようとすると、遠くからこちらに向かって走ってくるメイド服の少女が彼女に修理と撤去の完了を告げてきた。


「おいちょっと待て、最後の邪教徒って俺の事だろ!」


聞き捨てならん。世間一般的には俺の方が正しいことをしたはずだ。


「誰ですかこの人は?」


メイド服の少女はブルームと呼んだ少女の元につくと近くにいた俺のことが気になり、彼女に聞いている。


なぜにメイド服?


背筋はまっすぐ伸びていてしっかりしていそうだが、黒のショートの上にあるカチューシャとメイド服によって一気にコスプレ感が出てきている。


メイドをするにしてもどことなく天然さが滲み出ていて正直向いているようには見えない。


「ああ、この男かい。ボクの戯れに付き合ってもらっていた単なる一般人だよ」


最初に話しかけたのは俺だが、付き合わされたこっちの身にもなってほしい。


「ええ!? ブルーム様また人に迷惑かけてるんですか!?」


また……ですか。


想像に難くないのが何とも言えない。


「いい時間つぶしになったよ」


「すいません! ブルーム様には悪気しかないのです! すいません!」


「なお質わりーよ!」


まあ、彼女の態度からして悪意はビシビシと感じてはいたけど。


「ブルーム様! 研究所の爆発と今回の事といいブルーム様は他人に迷惑を掛けすぎです。もう少し慎ましやかに能力者としての自覚を持った行動を心がけていただけないと困ります」


メイドの子は怒っている。怒っている……のだが、全然迫力というか怖さがない。擬音にプンプンとつければ丁度いいであろうか。そんな可愛い起こり方をしている。


「という訳で、ボクはもう帰るね。もちろん邪魔した落とし前は今度付けてもらうからね」


そう言って彼女は背を向けて歩き出した。


嵐のような奴だった。


それにしても忘れてなかったのかよ。こんな矮小な自分には全能・・さんに対して出来ることなんてありませんよ。っと心の中でへりくだっておく。


「もう! ブルーム様聞いてるんですか!」


メイドの子も彼女のあとを起こりながらもついていく。やはり怒っている姿に逆にほっこりしてしまう気持ちが湧いてくる。


嵐のように来て、タイムセールのようにあっという間に居なくなった2人を確認したところで時計を見ると時刻は11時。時間までまだある。


ベンチに座り直して依然としてそこにいるメシアの頭を撫でる。


ああ、暇だ。








「そう言えばブルーム様」


修繕が完了した研究室への帰り道の途中、アマテラス・・・・・から声を掛けられた。


「ネズミが1匹潜り込んでいた様ですが宜しいのですか?」


なんだ、あのことか。


「その事は公園の彼に任せておけばいいさ」


落とし前としてね。


「そうですか。時にその人のこと何ですが、彼が──例の能力者ですか?」


「そうだよ。そしてボクの助手候補のひとりでもある」


「ブルーム様はそうやってまたすぐ迷惑を掛けようとして…」


「それはボクの助手になることが迷惑だって言いたいのかい? いくら何でもそれは失礼なんじゃないかい、テラス」


全く、我ながら失礼なことを言うロボットを作ってしまったものだよ。


「なんか言ったらどうだいテラス ──ん?」


返事が無いことが気になって後ろを見ると彼女は立ち止まって虚空を眺めていた。


この動きは……あれか。


「未来予測を開始。外部の存在からの襲撃を予測。襲撃まであと30秒」


「これは……なるほどそういうことなんだね」


エネミーを認識。対象の大きさ約1m75cmの

人型と特定。速度は秒速200000km。結界を破って突入可能速度と判明。エネミーの特異点反応なし。襲撃に備えます」


「してやられたね」


まさかこんな結果になるとは。


「これがいい教訓になるとボクは嬉しいな」


あの子達もボクがいなくても大丈夫なようにならないとね。


「襲撃まで残り10秒。エネミーの存在を渦中の魔物と特定」


「へぇ、渦中の魔物か。一人で大丈夫かい?」


ポジティブ、お手を紛らわせるようなことはいたしません」


渦中の魔物がわざわざここまで来て襲撃?


色々と理由がありそうだね。


「接敵まであと5、4、3、2、1──来ます」





やっと主人公以外の能力者を書くことが出来ました。


次回のASアフターストーリー


「なんだ! 地震か!?」

「危険度5と思われます」

「現在、『鉄神』様との連絡が取れません」

「俺、妻のカレーが待ってるから死ねねーわ」

「私、帰ったらちょっと高めのエステ行こっかな」


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