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黒猫は夜闇にまぐれて跡を追う

赤ちゃん言葉って赤ちゃんにはあまり良くないみたいです。

時刻は夜の1時30分。あの後、お互い話す事は話したということで2人とは別れて、俺は残っている仕事を片付けるために、再び見回りをしているところだ。

仕事は2時に終了予定なので、あと30分ほどで終わり、帰宅することが出来る。


暗い街道を自動販売機が照らすように光っている。

何かを買おうと自動販売機に近づくと、暗闇とは違う黒い影があることに気づいた。


「にゃあー」


静かな街にそいつの鳴き声がぽつりと広がる。

そこには驚くほど黒い猫がいた。夜の闇に溶け込むかのようなその色と、妖しく光るその瞳に吸い込まれるような気持ちになる。


その猫は俺が近づいても逃げる様子も見せずにじっとこちらを観察している。投入口にお金を入れると、缶の落ちてくる音が鳴り響く。俺が缶をとって開けると、気になるのか、猫が缶を見つめている。


「なんだ、欲しいのか?」


俺がそういうと、猫は足元によって顔を擦り付けてくる。処世術をわかってやがる、でも可愛いからあげちゃう。社会の荒波に揉まれてすり減ったおじさんの心にはクリティカルヒットの効果は抜群だ。


俺が缶を傾けて飲ませようとすると、猫は急に両腕それを掴んで、顔を入れて飲み始める。

……恐ろしく器用だな。猫がこんなことできるなんて初めて知ったぞ。ていうか缶を舐めるな、俺が飲めなくなるだろう。


「にゃおん」


しばらくすると、満足したのか猫は腕を離して元気に鳴く。缶の中身はすべて気体になっていた。


俺が買ったのは『世界樹の樹液』という、しつこくない蜜の味にスッキリとした喉越しで人気の飲料水だ。


猫を撫でると、ゴロゴロと聞く人が聞けば一瞬で虜にされてしまう鳴き声を発する。


ふと気になって時間を確認すると、ちょうど2時になっていた。猫と戯れているうちにずいぶんと時間がたっていたようだ。


事務所に電話をかけて今日の報告を終えると、仕事の終了を告げられる。これでやっと自宅に帰ってゆっくりできる。


さあ、かろうというところでひとつ問題が生じた。


「ついてくるな、俺にお前を養う余力はない。フリーターの経済力を舐めないでもらいたい」


件の猫がついてくるようになってしまった。やつはこちらを見上げて純粋な目で俺を攻撃してくる。


まあ、余裕があっても、ゲームとかでその余裕もすぐに消え去るわけだが。それに俺はアパート住みでペットは禁止されている。住まわせる場所も余裕も状況もない。まさに三重苦、そして俺はどっちかというと犬派だ。


「にゃあ」


猫は俺の言ったことを理解したのか、歩みを止めて寂しそうにこちらを見つめる。

恨むなら昨今の就職氷河期を恨むことだ。


そんな紆余曲折がありながらも、俺は自宅に帰った。







「にゃおん」


翌朝、買い物をしようと度合いドアを開けると、そこには昨晩の黒猫がいた。







というハプニングのがあった後、猫は素知らぬ顔で俺のあとをつけてくる。何故か今回は何度言ってもついてくるのをやめることは無かった。

またなにか食わして欲しいのか、卑しいやつだ。

コンビニってペット入れても大丈夫だったけか?




「どうしたものか」


どうやらコンビニにペットを入れることはできないらしい。俺の後ろから猫がついてくるのを見た店員が入店を拒否してきた。事情を説明してもマニュアルにあるからと一蹴されて取り付く島もない。勝手についてくる場合のマニュアルも作成して欲しいところだ。


「あれ、東真さん?」


「あ、ホントだ」


状況に頭を悩ましていると、聞いたことのある声が聞こえてくる。昨日のソニアとソラの2人だ。


「おはようございます、昨日ぶりですね。買い物ですか?」


「おはよう」


ソニアが相変らず礼儀正しく、ソラがぶっきらぼうに挨拶をし、2人の対照的な挨拶に俺も返事をする。


「おはよう、そうだと言いたいところだが、カクカクシカジカでな」


俺はそういって猫のせいで買い物できないことを説明する。


「もう、カクカクシカジカじゃ何言ってるのかわかるわけないじゃないですか」


ソニアは「何言ってるんですか?」とばかりに言葉を返す。彼女にはからかっている様子はなく、本当にわからないらしい。昨日のあの時はきっと不思議な力が働いていたに違いない。


「ペットですか?」


俺がこの世の仕組みについて思考をめぐらしていると、足元の猫に気づいたのか


「いや、喫茶店で別れた後に見つけて、飲み物飲ませたら、勝手について来るようになって困っているところだ。こいつのおかげでコンビニにも入れない」


「そうだったんですか」


彼女はそういうと視線をしたに落とす。

こころなしか、その視線は熱いような気がする。


「あ、あの触ってもいいですか?」


俺に聞かないでくれ、そいつの飼い主じゃないんだ。

「そいつに聞いてみろ」、というと彼女は「それもそうですね」と言って猫と会話を始める。赤ちゃん言葉で話しかけている。


なんというか、傍から見たら頭のユルそうな人にしか見えない。頭弱い系女子ってやつだろうか。そのこと言うと「頭は頑丈なほうっすよ!」とか言っちゃうようなやつだったか、そう考えると彼女がそんなことを言うとは思えないし、単に純粋なのだろう。


「おねーちゃんはだいの猫好きなんだ」


姉の様子になにか思うところでもあるのだろうか、ため息を吐きながらソラが言う。まあ、言うまでもなくそうだとわかるぐらいの熱狂ぶりだ。ふと犬が吠えて羊を追い立てる場面が頭に浮かぶ。同時に彼女が犬に吠えられて怯える場面も浮かぶ。そんな理由もあるのかもしれない、っと勝手に想像する。


「ワタシたちがここで、面倒見てるから買ってきなよ。大丈夫、1匹と1人のことはしっかり見守っているから」


文字通り1人多いような気がする。


「なんだか…苦労かけてすまないな、すぐ終わらせてくるよ」


俺はそう言ってコンビニに入った。

後ろの方からは「用事はいいの?」「まだ大丈夫〜」という会話が聞こえてきた。



コンビニから出ると、ソニアは猫の足を持って戯れていた。猫の方も満更でもないのか楽しそうに鳴いている。


「終わったんですね?」


ソニアが猫を抱えてこちらに体を向けて、二人羽織のように話しかけてくる。猫がバンザイの格好でぶら下がっている。……メスだったのか。


「ああ、助けてくれてありがとな。一時はどうなるかと思ったよ」


「にゃ〜」


猫は暢気に鳴き声をあげて返事をする。元はと言えばお前のせいなんだがな。


「いえいえ、こちらこそ楽しめましたし気にしないでください」


彼女はそういうと、猫を地面に下ろした。

猫は地面の感触を得るやいなや、俺の足元まできて勢いよくジャンプして肩に登ってきた。でかいし、重い、なおかつ登る時に爪が引っかかって痛い、今も肩に爪が食い込んでいる。明らかに肩のサイズにあってないせいで首が自由に回らない。


「お前こんなことも出来たのか、とりあえず邪魔だからどけ」


「にゃむ」


「凄い、猫ってそんなことできるんですね!羽が生えてるみたいです」


「いや、こんなことできるのはこいつしか見たことがない」


例えできたとしても、こんなことをする猫はこいつぐらいだろう。いい加減どいてくれ片方だけ重いとバランスが悪いし、肩が凝る。そんな気持ちを知ってか知らずか、猫は飽きたように俺から降りる。そして今度はソニアに近寄ると、彼女の頭に乗る。


「あ、メシアちゃん、ダメだよそんなとこ危ないよ」


驚いたソニアが猫に注意するように言う。彼女の頭の角がいい感じにフィットするのか、猫はあたまからはなれようとしない。


「メシア?」


「はい、名前がわかんないので勝手にそう呼んでました」


たしかに、今まで飼うことすら考えていなかったからか、呼ぶ時も猫とかで済ませてた気がする。


「悪くないな、俺もそう呼ぶか」


しかし、名前で呼ぶと、ペットと認めたみたいで嫌だな。


「ホントですか、それは良かったです!」


自分のつけた名前がそのまま採用されたことが嬉しいのか彼女は、笑顔になる。


「おねーちゃん、そろそろ行かないと間に合わなくなっちゃうよ」


いつまでも猫を可愛がる姉にソラが苦笑いしながら言う。


「これからどこかに行くのか?」


昨日はあの後支部へと帰ると行っていたしもう荷物もまとめただろう。他による場所でもあるのか?っと疑問に思って聞いてみる。


「これから第二支部の方へ行って、そっちの方の荷物を回収する予定なんです」


なんと一つの国に2つも支部があるとは、荷物の回収も楽ではないようだ。


「では、名残惜しいですが私たちはもう行かなければならないので」


「またねー」


「じゃあな」


ふたりはそう言って踵を返して去っていく。アレ、猫が頭に乗ったままだが大丈夫か?2人とも忘れてるようだが、まあ大丈夫だろう、きっと。ここで呼び止めて猫が戻ってきても困るしな。


そういうことで、特に呼び止めることもせずに俺も踵を返して家へと向かった。



そして家に帰る道程、全身を黒い服で覆って、黒い帽子を被った何かが道の真ん中に立っていた。長身に細身の体躯で、帽子の下から僅かにのぞく眼光が射殺さんばかりにこちらを見つめている。


都会にはこういう危ないヤツがたまに湧く。変な因縁をつけられないように静かに脇を通ってやり過ごすのが無難だろう。


「まて」


スルーして脇を通ろうとすると、その黒服が突然待ったの声を上げる。感情を殺したような低い声からこの黒服は男なのだろうと場違いな感想を浮かべる。


誰に待って欲しいのか知らないが、俺は関係ないようなので歩みを続ける。



所持者(ホルダー)だな?」


男はそう言って俺の方へと体を向ける。


ホルダーとは権限を持ったものや能力を持ったもの指す隠語だ。どれもマスターにしか持ちえないもので、この場で該当するのは俺ぐらいしかいそうにない。


面倒くさそうなのに絡まれた、勘弁してくれ。


「外見の特徴は一致している。黒髪の男だと聞いたから『鉄神』かと思っていたが、違っていたようだな。。どこの誰だかわからんが、どうせ大した能力者でもないだろう」


能力者、ユニークスキルを持っているマスターを意味する俗語だ。…なんだか不穏な雰囲気になってきた。


「何のことだか知らないが、人間違えじゃないか?」


とりあえず、何かされる前に素知らぬ顔で横を通り過ぎる。ふっ、完璧すぎる演技だ…。なんで俺のことを探しているのかは謎だが、やつもこれで人違いだと思うに違いない。


「潔く死んでもらおうか」


あ、だめだこりゃ。







次回のASアフターストーリー!


「ぎゃああああ!? 昼飯と晩御飯がぁぁあ!」

「よそ見とは、ずいぶん余裕だな」

「愚か者が……」

「『お前のものは俺の物』『ナイフ投げ』」

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