異世界のセミは夜に鳴く
はじめましてPNです。
当作品は読者のご想像におまかせする部分が大きいと思いますがよろしくお願いします。
都会のセミも案外うるさい。
残り僅かな生命を無駄にはしまい、と少ない仲間の中から必死になって番を探すその鳴き声にある種の感動を覚えそうだ。
電信柱を木と間違えて卵を産み付ける様は、近代化が生み出した悲劇といえよう。
そんな音の暴力の中で、俺が一体なにをしているかというと『パトロール』だ。
時刻は夜中の11時を切ったところだろうか『都市』
と呼ばれるこの国も、中心部以外に手をつける気はサラサラないのか電灯らしきものもあるにはあるものの路地裏などは暗くて危険が危ない状態だ。
世の中は非情である。社会人は働けば働くほどお金がを失っていく矛盾と自身のアイデンティティの喪失に耐えながらも働ければならない。そんなご時世だからこそ働いたら負けだという言葉が生まれたのも当然の成り行きだろう。
「というふうに、ラノベの主人公にありがちな組織・社会アンチ的な考えに身を投じている次第です」
昨今の不況極まる状況から、俺のようなフリーターは肩身の狭い思いをして、こんな夜中に断腸の思いでバイトをしているわけだ。
主な見回り場所は路地裏、橋の下、廃ビル、廃校となった校舎だ。危険なためかわりのいいバイトではあるが、仕事仲間は1ヵ月で暇を出す人があとを立たない。
俺も金さえあればこんなバイト願い下げだ。そもそも金があったら仕事しない。
「やめてよね、そんなアヤシイもの買う訳ないじゃん。いい加減しつこいよ」
俺がのんきに路地裏を散策していると、少女の怒ったような声が聞こえてくる。薬だろうか、取り敢えず職務は全うした方が後々問題にならずに済むだろう。
「そんな事言わずにおひとつ買いませんか?」
奥に進むと変わった服装をした狐人の少女とこのあたりでは一般的な服装の中肉中背の男がいた。
「こんな時間帯に争い事か?」
「げっ! 見回りの者か」
俺がそう尋ねると2人の反応は似たようなものだった。男の方は嫌そうに顔を変え、俺を見るのに対して少女のほうはというと、じっとこちらを見たままなにも言わない。
もしかしてそういうプレイだったのか?
そうだったとしたら水を指したことになるかもしれない。
「こんなところにいたんですか。探しましたよ。ねえマスター?」
なんとなく気まずい雰囲気になっていると、少女は急に顔を旧知の友にあったかのような笑顔に変えて俺に歩み寄ってくる。
同時に少女は俺が首にぶら下げているカードを手に取って先程の男に見せつけるようにかざす。
なるほど、そういうことか。
こういう展開は何度も見たことがある、アニメとか小説で。つまり少女は俺という存在アピールすることによってこの男を牽制しているのだろう。
俺も少女に合わせるとするか。
「ヘイガール、こんな所で何やってんだ?迷子になったのはユーの方だろ?こんな暗いとこいないでさっさとホームに帰ろうか」
なんというべきであろうか、やはり俺にアドリブは辛かったよ。キャラは謎な方向へと迷走して、もはや冗談みたいな人に写っているに違いない。
「もうマスターったら冗談が通じないんだから、このイケズゥ」
だが、迷走した俺のキャラに対して少女の方はキャラには触れずに返事を返してきた。なんという対応力。少し俺に分けて欲しい。
「それで、そっちのユーは俺のマイハニーになにか用事でもあるのかな?」
男の存在を思い出した俺は、まるで彼女を守る彼氏のように問いかける。いい加減この状況から脱したいのでこの男には早々に退場して欲しい。
「な、何でもねぇですぜ。ここは危ない場所だとそこのお嬢ちゃんに忠告していただけですぜ」
なんでそうバレる嘘をつく。それになんでお前も少し口調がおかしい。
それにしてもこいつ、俺が所持者だと知った途端に動揺しているな、何かあるのか?
まあ、なにかあったとしても俺には関係ないし、追求してこの状況を維持したくない。感謝しろ利害の一致だ。今日のところは見逃しておいてやる。それに俺の仕事に一般人の保護はあれど怪しいやつの拘束は含まれていない。
「そうか、でもこんな暗い時間に女の子に話かけるなんて疑われても知らないyo」
「忠告痛み入るぜ旦那。アッシは巣に帰るとしますぜ。そっちの嬢ちゃんにも悪いことをした。では」
終始安定のないしゃべり方だったが、男は最後にそう言い残して光の届かない路地裏の奥に消えていった。
「何だったんだ?アイツは……」
「アンタも何やってんのよ」
後ろの方から少女が声をかけてくる。頼むから忘れさせてくれ。あれは確実に黒歴史ものだった。
「なんだ、まだ帰ってなかったのか?てっきりもう帰ったかと思ってたが」
俺がそういうと少女の方は何故か居心地の悪そうに顔を逸らして、そっぽを向いた。
「み、道に迷ったのよ!」
「はい?」
次回のAS!
「おじさんホントにマスター?」
「この国にある支部の荷物を回収してたのよ」
「私!ソニアと言います!」
「奴隷落ち…か」