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妖精とクマ  作者: さぁこ/結城敦子
終 章 小野寺冬馬の決着。
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10-3 約束反故。

 俺が日本に帰ってきたのを知っているのは、この場であった人間以外は、義父だけだった。

 小野寺邸には戻れないので、自分のマンションに帰った。


 しばらく人が住んでいなかったものの、通いの家政婦さんが適度に風を入れてくれていたので、快適とは言えないまでも、不愉快ではなかった。

 軽く風通しをし、馴染んだベッドに倒れ込むと、フランスからの移動の疲れがどっと出たのか、深い眠りに落ちてしまった。

 夢も見なかった。


 あの女の夢はもう二度と見ないだろう。


 それは祝福すべきことだが、真白ちゃんの夢も見なかった。

 真白ちゃんが出てくるのなら、どんなひどい夢でも、見たかったのに。


 思いもかけない熟睡をして起きた昼、チャイムが鳴った。


 インターフォンの画面に彼女の顔が写ったので、ついに夢の中に真白ちゃんが出てきてくれたのだと思った。

 彼女にこのマンションの話はしたことがあったけど、住所を教えたことはなかった。

 必要ないからだ。

 来てほしくなかったのだ。

 拒絶したいからではなく、勿論、俺の手癖が悪いからだ。


 だけど、これは夢ではなく、現実のようで、真白ちゃんはひどい顔をしていた。

 泣きじゃくりながら、俺を呼んだ。


「わかしゃちょぉ」


「真白ちゃん? どうし……」


 聞きかけて、どうしたも、こうしたも無いと気付く。

 自分が彼女を傷つけたんじゃないか。

 真白ちゃんは昨日、眠れなかったかもしれない。

 安眠してた自分が恥ずかしくなる。


「ごめ……」


「ごめんなさい!! ごめんなさい!!」

 

 謝る前に謝られた。


「私のせいで……若社長が……」


「どうしたの? 何があったの?」


 どうも俺の知らない所で、何かが起きたらしい。


「とにかく、俺の部屋に。

今、鍵を開けるから」


 マンションの玄関先でこんな可愛い子が大泣きしているなんて、人目に付きすぎる。

 急いで開錠すると、下まで迎えに行こうかと思ったが、思い直す。

 あちらもエレベーターで来るだろうし、すれ違いになっても困る。

 それに、自分がどんな恰好なのかよく分からない。

 洗面台に駆け込むと、顔だけ洗い、適当に着替える。

 無精ひげが生えているが剃ろうか迷っている間に、再びチャイムが鳴る。


「真白ちゃん!」


 ドアを開けると、彼女が飛び込んできた。


「ごめんなさい!!」


「落ち着いて。

君が俺に謝ることなんてないんだよ。

謝るのは俺の方だろ?」


「ごめんなさい……ごめんなさい……」


 うわ言のように謝罪の言葉を口にする彼女をなんとかなだめすかし、理由を聞いた。

 途切れ途切れで、「魔法使い」とか意味の分からない単語が出てくる話に、俺は辛抱強く付き合った。


「父が……自分が小野寺文好だって、名乗ったんです。

正当な後継ぎだって……だから、小野寺の家は自分のものだって。

私のせいなんです。私が父に頼んだから……」


「俺を追い落としてって?」


 裏切り者には制裁を――真白ちゃんが怒ってそう考えても仕方が無い。


「違います!!

違います……若社長を私のものにしたいって!! ……したいって……父に……お願いしてしまったのです……。

父は魔法使いで、なんでもお願いを叶えてくれるって。

でも、魔法使いにお願いするには対価が必要で……私のせいで、若社長が若社長じゃなくなっちゃう!!」


 言い終わると、真白ちゃんは安心したように泣くのに専念し始めた。


「泣かないで」


 以前は言えなかった台詞を言った。


「でも……わかしゃちょうが、苦労して……がんばって……おのでらの……」


「泣かないで真白ちゃん。

君をもう、泣かせないって、決めたんだ。

俺の為に、決して泣かせないって。

泣かせたくないんだ。

幸せにしてあげたいんだよ」


 目に涙を貯めたまま、彼女が俺を見返した。

 玄関で二人、しゃがみこんだまま見つめ合う。

 俺は彼女の両肩を掴むと言った。


「俺を自分のものにしたいって、父親に頼んだの?」


 人に求められていることに、心が震えていた。


「……はい。

だって、若社長が好きなのに、若社長は私のものになってくれないんですもの。

嫌な子ですね、私……若社長がそういうの苦手なの、知ってたのに。

つい、気が動転して……」


 そこまで言って、ようやく真白ちゃんは自分をそこまで追い詰めた原因を思い出したようだ。


「そうよ! 若社長がいけないのよ! 若社長が!」


「そうだよ、全部、俺が悪いんだ。

だから……」


「嫌!!」


「真白ちゃん?」


 やっとこちらに批判が向いてくれたので、俺がさっそく自分の非を認めようとしたら拒否された。


「やめて、若社長は私に何も悪いことなんかしていない。

そうでしょ? 悪いことをしていないなら、謝らないで!」


「……でも、君に相談すべきだった。

いくら君に心配や嫉妬をさせたくないからって、黙ってあの女に会うべきじゃなかった」


 俺は「決着」を付けようとした事情を説明した。

 真白ちゃんの瞳に、輝きが戻ってくるのを、複雑な気持ちで見つめた。


「ほら、やっぱり若社長は悪くない。

悪くなかった……私を裏切ってなんかいなかったのに……なのに、お父さんに……どうしよう……」


「いいや、真白ちゃん……」


 もっと現実を見て、と諭そうと思ったけど、フランスで誓ったことは「彼女を泣かせない」だけではなかった。


『あの子の望むものだけを見せて、望むものだけを与えてみせる』


 これが彼女の望むものなら、俺はそれを信じさせてあげないと。

 実際、俺には疾しいことなど何も起きてない訳だし。


「真白ちゃん? 約束を破ってもいい?」


「えっ??」


 それは嫌、というような顔をされた。

 約束を交わした日は、もう少し先だった気がするけど、少しだけ前倒しさせてもらおう。


「ごめん。でも、もう我慢出来ないんだ。

可愛い真白ちゃん。

俺も君のことが好きだよ。

君を俺だけのものにしたい」


「――わ、若社長」


「約束を破る男は嫌い?」


「意地悪……若社長は時々、すごく意地悪です!」


 顔を真っ赤にした真白ちゃんに、いつぞやと同じように抗議されたので、同じように返す。


「君はいつもすっごく可愛いよ。

俺の可愛い真白ちゃん。

返事が聞きたいな?

俺のこと嫌い?」


「そういう時は、俺のこと好き? って聞くんですよ」


 真白ちゃんは、ここぞとばかり俺を焦らす。

 それはそうだろう。

 彼女は何回も俺に告白していたのに、返事をもらえなかったのだから。


「真白ちゃん、俺のこと好き?」


「――はい。大好きです!!」


 花が開くように笑った真白ちゃんが抱きついてくる。


「長い間、待たせてごめんね。

その分、これからはずっと一緒に居るよ。

もう君を泣かせないし、君が望むことは全て叶えてあげる」


「全部? じゃあ――私のこと好きですか?」


「好きだよ」


「私って可愛い??」


「俺の真白ちゃんがこの世で一番、可愛いよ」


 猫みたいに頬を胸にすりつけられた。

 髪の毛がくすぐったかった。


「そろそろ、その可愛い顔を俺に見せてくれる?」


 抱き心地はいいけど、どんな表情をしているかも見てみたい。


「恥ずかしいから駄目です。

私、今、すごく思い上がった顔をしています」


「どんな顔をしていても、可愛いから、そんなこと、気にしないでいいのに」


「駄目」


 くすくすと、可愛い笑い声が聞こえた。


「真白ちゃん」


 ああ、顔が見たいのに……仕方が無いので、髪の毛を撫でて、その感触を楽しんだ。


 短い時間、おだやかな時間が流れたが、不意に真白ちゃんが顔を上げたので、俺の顎に直撃した。


「痛っ!」


「ごめんなさい!」


「いや、大丈夫……」


「じゃなくって、お父さんのこと!!」


 そう言えば、そんなこと言ってた。

 俺はその程度の認識だったのに、真白ちゃんは、深刻そうだった。


「えっと、君のお父さんは、君を応援してくれていると思うよ」


 信じられないことだけど、椛島真中こと小野寺文好は俺を真白ちゃんの相手にしてくれるらしい。

 それもかなり積極的な方法とったのをみると、俺の優柔不断さに業を煮やしたとも思える。


「どうして?」


「小野寺文好が小野寺に戻れば、次に起きるのは後継者問題だ。

真白ちゃんのお婿さんが、小野寺家の次の跡取りになるんだよ。

俺が小野寺の後継者で居続けるためには、真白ちゃんと結婚しないといけない」


 それの何が悪いのだろうか?

 願ったり叶ったりじゃないのか?


「若社長のお人よし!!」


 真白ちゃんに怒鳴られた。


「そんなことで納得しないで下さい!

父が捨てた小野寺の家を、若社長がいろんなものを犠牲にして、一所懸命努力して、守って来たんですよ?

それを父が取り上げて、返して欲しかったら娘と結婚しろなんて、勝手です。

結果が同じでも、若社長はそれでいいんですか?」


 誇り高い子だな、真白ちゃんは。

 俺はどうもそういうのが薄い。

 でも、椛島真中は苦手で、翻弄されるのは腹立たしい。


 未来のお父上には申し訳ないが、こちらも多少は反撃を試みても悪くはないだろう。

 真白ちゃんの許可もあるし。


「そう思うなら、真白ちゃんが魔法を解いてくれる?」


「はい?」


「ほら、魔法に掛けられるのはお姫様だけじゃなくって、王子様もいるだろう。

そういう時は、どうするの?」


 瞬きをひとつした真白ちゃんは、俺の意図することを悟って、恥ずかしそうに目を伏せた。


「……キス……するんですか?わっ、私から??」


「そう。魔法を解いてくれる?

俺に掛けられた魔法を解けるのは、真白ちゃんだけなんだけど」


 また「意地悪だ」とか言われそうなことを要求してしまった。

 けど、俺は今、根拠のない自信に満ち溢れていた。

 いや、根拠はある。

 真白ちゃんが俺のことを好きだ。

 この子が好きな自分は、なんだかものすごい人間のような気がしてきた。


 俺に無駄な自信をつけて、自らを窮地に追い込んでしまった子は、しばし、逡巡してから、意を決したように、俺の右肩に手を置いた。

 それから素早く、唇を押し付けた。ここまで色気もへったくれもないキスもなかなか無い。


「ど、どうですか? 魔法、解けそうですか?」


 顔を紅潮させて、涙の残る瞳で、そんなことを聞かれると、ますます意地悪な気分になってくる。


「……これがキス? なんだか、ただぶつかってきただけみたい」


「だって! ……もう! 意地悪! どうして、そんなに意地悪なんですか?」


「可愛いから」


 そんな理由にもならない理由を言って、俺は彼女の顎を掴むと、「ちゃんとした」キスをした。


「……っふぅん」


 甘い声が漏れた。


「可愛いね、真白ちゃん」


 瞑られた目が開くと、強気にふれた瞳が現れた。


「……これがキスですか?

私の知ってるキスと違います」


「えっ?」


「夢の中の若社長のキスはもっと……いえ、あの、やっぱりいいです。

魔法も解けなくてもいいです。

私、野獣の方が好きですから!!

じゃなくって! ……小野寺の家の若社長じゃなくってもいいです」


 真白ちゃんが俺から離れたそうに、胸を両手で押してきたので、つい、玄関先で押し倒してしまった。


「冬馬だよ……俺の名前知ってる?」


「し……知っています」


 この体勢はかなりまずい。

 おまけに真白ちゃんは、俺のことを煽ってくる。

 これって、どこで『決着』をつけるんだ?


「そろそろ、若社長じゃなくて、名前で呼んでくれる?」


「いっ……嫌です」


 断られて、内心、安堵した。これで、真白ちゃんを離すきっかけが掴めた気がした。

 でも、気のせいだった。


「若社長は若社長です。魔法、解いてください。お願いします」


「真白ちゃん……」


 俺が躊躇したのを、組ふされている女の子は誤解したらしい。


「小野寺の若社長だから好きになったんじゃないですよ!

そうじゃなくって! そう意味じゃないけど、でも、若社長を辞めて欲しくないんです。

それとも、私と一緒に、駆け落ちしてくれます?

若社長は無責任な人じゃないから、きっと、後悔すると思いますけど」


「分かってるよ。俺は小野寺の家にそこまで執着はしていないけど、愛着はあるし、やりがいも……最近、感じ始めたんだ。

君こそ、俺でいいの?

だって君は小野寺家のご令嬢じゃないか。

今なら、どんな男だって選び放題だよ。

ああ、雨宮一以外はね。奴は雨宮家の御曹司だから、小野寺の家の婿にはなれない」


「他の男の話なんて、聞きたくありません!

私には若社長だけです、若社長しかいりま……せっんんん!!」


 そういう可愛いことを、そういう可愛い顔で言うから、俺の餌食になるんだよ。


「もっと、口……開けて」


「はっ……い。……っん!!」


 まだまだ下手くそなキスに安心する。


「いい子だね。他の男には触らせていない」


「あっ…たり前です! ちゃんといい子にしてました!

だから……あっ……ん、約束通り、ご褒美……下さい」



 いやいやいやいやいやいや!!

 駄目だろう。

 真白ちゃんもうっとりとした顔で、何を口走ってるんだよ。

 俺もちゃっかりどこ触ってんだよ! ひっこめ、この手!


「ちょ……っと待って! 真白ちゃん、一度、落ち着こう、ね」


 思わず腰が引けた。


「――どうして? 駄目なんですか?」


「どうして?」


 どうしてだろう。

 俺と真白ちゃんは相思相愛で、彼女は十八歳以上で、大学生で……。


「どうしてって、ここ玄関だし、真っ昼間だし……普通、もっとシチュエーションに拘ろうよ。

そ、それに、俺、昨日、風呂に入ってない……気がする」


 フランスから帰国して、空港でシャワーは浴びてきた。

 その足ですぐにあの女に会いにいく予定だったからだ。

 別に他意があった訳でなく、単純に十二時間を超える飛行時間で溜まった汚れを落としてさっぱりしたかったのと、気を引き締めたかっただけだ。


「若社長? 他の男の話は勿論、他の女の話も無しです!」


 鋭い真白ちゃんに見抜かれて、ぐいっと引き寄せられる。

 俺が押し倒しているのに、襲われている気分になる。


「若社長が相手なら、別にどこでだって、どんな時だって、何をされても構いません!」


 そう言いながら、決死の表情で、目を瞑るの、止めてくれないかな。

 右手で頬を撫でると、怯えるように震えて身体を硬直させるほど、怖がっているのに、どうして、強がるのだろう。


 初めてのくせに……っと、俺も初めての子を相手にするのは初めてだったな。


 真白ちゃんを床に縫いとめたまま、考えてしまう。

 どこからか、警告めいた音が鳴り響く。


 もし、途中で嫌がられたらどうしよう。

 初めては……その、いろいろ痛いらしいけど、俺は止められる自信はないぞ。

 そこら辺、この子はちゃんと分かっているんだろうか?

 こちらの方が、初めて経験する男子高校生みたいな気分になってきた。


 考え込んでいると、いつの間にか目を開けた真白ちゃんに不安そうに見つめられていた。


 ここで引いたら男がすたる。

 俺の男がすたってもいいけど、こんな男に身を投げ出した真白ちゃんの女の子としての自負心は大事にしたい。


 改めて見下ろす真白ちゃんは、慌てて着替えてきたと思われる、細身のジーンズに、キャミソール。その上に、透けた素材のカーディガンを羽織っていた。

 そのせいで、ほっそりとした肢体と、相反するふっくらと盛り上がる二つの膨らみが際立って見えた。

 夏の暑さに汗ばんだ肌は、白く、しっとりと滑らかそうで、触れたくてたまらない。

 柔らかそうな頬に、半開きの唇も、長い睫に縁取られた濡れた瞳も、俺を誘っている。


 なんのことはない、俺の理性なんて真白ちゃんの前では、無いも同然なのだ。


「真白ちゃん?」


「……はい」


「後悔はさせないから。責任は、必ず取るよ」


「はい」


 誠意を込めて言っているはずのに、ものすごく胡散臭い台詞に聞こえる。

 真白ちゃんは信じ切った表情で頷いてくれたけど、さらに言い訳を重ねた。


「あと、痛いかもしれないけど、意地悪している訳じゃないからね。

優しくしてあげたいけど……」


 俺もそういうやり方はよく知らない、とはさすがに真白ちゃんには言えなかった。

 せめて、がっつかないように努力するだけだ。


「若社長は意地悪なんかじゃないですよ。

優しい人です。大丈夫、ちゃんと知ってます」


 細い指が、俺の無精ひげの残る顎をなぞる。

 もう少し早く起きて、身支度を整えておけば良かったと悔やむ俺に、なぜか真白ちゃんは嬉しそうに、「ふふ、ザラザラしてますね……」と言って、はにかんだ微笑を向けた。


 正直、若い女の子の萌ポイントが、まったく分からないよ!!

 剃り残したひげの何が嬉しいんだ??

 これが世代間ギャップなるものなのか、それとも、個人の性癖なのか不明だけど、真白ちゃんがめちゃくちゃ可愛いから、どうでもよくなる。


 どこまでも俺を信じて、受け入れてくれる妖精みたいな子を、穢すのはもったいないけど、いつまでも崇め奉っている訳にもいくまい。

 いずれは来る時だ。それが遅いか早いか。いずれにしても「俺が」やるのだ。その役割を、他に手渡すなんて断じて御免だ。


「真白ちゃん! ごめん!!」


 謝罪を口走りながら、真白ちゃんの純潔に手をかけようとした瞬間――。


「あっ! 駄目! ちょっと待っ……待って、駄目です! 若社長!!」


「えええ!! まだ何にもしてないのに!?!?」


 途中で嫌がられるとは思っていたけど、まさか、初っ端から抵抗されるとは思わなかった。

 こっちはもう、すっかりその気なのに……鬼だ。妖怪だ。ひどいよ、真白ちゃん。

 どうするんだよ、この……いろいろ盛り上がった気持ちを。


 押し倒したまま、恨み言を言いかけた時、後ろから声がした。


「そう、それは良かったわ」


 俺が生まれた時から、聞いてきた声だった。


 それが後ろから聞こえるということは……俺は真白ちゃんを庇うように抱きしめると、恐る恐る振り返った。


 そこには、これこそ鬼のような形相の母が、もしくは、母の顔をした鬼が立っていた。

 両脇には、半分軽蔑と、半分憐れみの表情をする弟二人を従えていた。

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