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妖精とクマ  作者: さぁこ/結城敦子
第七章 椛島真白の選択。
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7-3 『義妹』からのプレッシャー

「甘い! 真白は甘すぎる!」


「そうかしら、親に言えないような婚約はいけませんわ。

道理に反します。

冬馬さんは、キチンとした方ですもの」


「はぁ? いつの時代よ!

てか、雨宮のお姫様、あんた小野寺冬馬が好きだから、真白の恋路を邪魔しようとしているんでしょう?」


「まぁ、リサさん。

私、そんなこといたしませんわ。

……冬馬さんは真白ちゃんが側に居てこその魅力だと気付いたんです。

ですから、おじい様に、真白ちゃんと一緒に冬馬さんに嫁ぎたいと、お願いしたんですけど、怒られてしまいました」


「あったりまえでしょうがっ!!

何考えてるのよ!

私が道理に反するなら、あんたときたら、倫理観が欠如してるわよ!

これだから、世間知らずのお嬢様は嫌なのよ!」


 小野寺邸の夏の間で、二人の親友が顔を付き合わせていた

 リサは珍しくスカート姿で、オレンジ色系のマドラスチェックのマキシワンピースに白いレースのカーディガンを羽織っていた。

 曰く、小野寺邸にショートパンツやジーパンを履いてくるのは躊躇われ、精一杯、お嬢様風を気取ってみたとのことだ。

 姫ちゃんは半袖の白いAラインのシンプルなワンピース姿だったが、スカートの下のパニエがスカイブルーで、後ろにストライプのリボンが付いていた。


 どちらも私を訪ねて遊びに……勉強しに来てくれたのだ。

 西翼に移ってからも、私ときたら紅子ちゃんと緑子ちゃんにフランス語を教えたり、一緒にバレエを踊ったり、受験生とは思えない生活をしてしまっていた。

 見かねた秋生さんと瑠璃子さんが、子供の昼寝の間と、就寝後は、積極的に勉強を教えてくれるようになった。


 瑠璃子さんは大学で建築学の勉強をしていたらしい。

 「建築士になりたかったんだけど、結婚してすぐに子供が出来たから、しばらくはそっちに専念しないと」と言うので、聞いてみた。


「大学を卒業してすぐに結婚するのに躊躇はなかったんですか?」


「あら? 真白ちゃんは躊躇しているの?困ったわね。

私も少しは社会に出て、経験を積んで……と思ったけど、小野寺の家に嫁いだら、仕事は辞めないといけないだろうから、それならば早いも遅いもないわ、えいっ! って結婚しちゃったの。

秋生も、自分の家族が欲しかったみたいだし。

おかげで、私には頭が上がらないから、我ながら、いい判断だったようだわ。

子供の手が掛からなくなったら、また勉強し直すことも出来るでしょ。

私は子育てに関しては、いろんな人に助けてもらって、今は特に真白ちゃんには助けられているけど、小野寺の嫁の仕事がねー。

ここだけの話、お義母かあ様はあの通り、仕事人でしょ。

家政とか他家の付き合いとかは、私がすることになってしまって。

これが結構、大変で……でも、最初はすぐに冬馬さんが結婚してくれて、お嫁さんがもう一人増えるから、私も楽出来ると思ったんだけど。

あのお兄様ったら、遊ぶばっかりで、なかなか結婚しないんですもの!」


 「だからね真白ちゃん」と瑠璃子さんは私の手を握った。「なるべく早くお嫁さんに来てね。それから、私達、仲良くしましょうね。貴女のことは、長男のお嫁さんとして、しっかり盛り立てるから。先輩風なんか吹かさないから安心して」


***


 そんな瑠璃子さんは、今日は不在だ。

 小野寺の内向きのお仕事ではなく、紅子ちゃんと緑子ちゃんの幼稚園の行事でのお出掛けだ。

 二人は、志桜館学園の幼等部に通っているので、通園の時は、私と同じ白いセーラーの制服を着る。

 同じ、と言っても、スカートの切り返しの位置が下の方だったり、幼稚園児に合わせたサイズなので、また違った趣だ。

 そのセーラー服を着て、帽子を被り、通学かばんを斜め掛けしたそっくりの顔の二人の姿ときたら、あまりに可愛らしくて、お願いして写真を撮らせてもらったくらいだ。


「出来たらスマホの待ち受けにしたいくらい可愛い!」


 玄関先で、そんな風にうかれていたら、仕事に行く若社長にやや引き気味に挨拶された。

 傷が開いて再入院しかけたのに、早々に仕事に復帰していった若社長は、珠洲子様と同じく仕事人間だ。

 その珠洲子様は篠田さんとして、今日は小野寺出版の掃除のシフトが入っていた。

 さらに、大社長も秋生さんも夏樹さんも、みんな仕事に行ってしまったので、「一人では寂しいでしょう」と、リサを呼んでくれたのだ。

 家令を筆頭に、井上夫人や何十人もの使用人の人がいるのだから、一人ではないと思ったけど、この家ではそうは見做さないらしい。

 どうやって知ったのか、リサが小野寺邸に呼ばれたことを聞きつけ、乗り込んできた姫ちゃんは、その感覚を体得していた。


 いつでもどこでも私につき従うようになった島内さんは、この勉強会の時にも、部屋の隅で刺繍なんかをして、ずっと側に居たんだけど、お茶の時間になり、姫ちゃんが、ついっと目を合わせて、片手を上げ、何か合図した瞬間、お辞儀をして立ち去っていってしまったのだ。

 真のお嬢様のみが知る、秘密の暗号……なのかな?


 よく分からないけど、久々に、監視の目がなくなった。

 もっとも、ここぞとばかりに、リサと姫ちゃんから若社長について激しく問い詰められたけど。

 言えない事実がたくさん溜まってしまった。

 その中から、なんとか教えられる断片を繋ぎ合わせる。


 若社長との一年の約束を話したら、リサは怒り、姫ちゃんは納得した、と言うのが現状だ。


 リサと姫ちゃんは、私の大事な友達だけど、二人の間は険悪だ。

 姫ちゃんはああいう性格なので、リサの言うことが柳に風なのが、また仲を拗らせているみたい。


「で、その若社長はどこに行ったのよ!」


 リサが尋ねたので、仕事に行ったことを伝えた。

 ついでに、相談してみる。


 小野寺家の人たちを見送って、リサが来るのを待っている間、若社長から珍しく明るい内にメールの着信があったのだ。


 『俺も可愛い子の写真を待ち受けにしたいな(T_T)』とあったので、「なんだ若社長だって羨ましかったんだ」と、私は、早速、今朝撮ったばかりの写真を添付してあげたた。


「なのに、返事がこないの。

ちゃんと添付出来たと思うんだけど。

それとも小さい女の子の写真だから、もっと気を付けて取り扱わないといけなかったのかしら?

若社長は実のおじさんだから、待ち受けにしても構わないと思ったのよ。

私はさすがに、他人だから遠慮したもの」


「真白……あんたって子は……」


 リサががっくり項垂れた。


「冬馬さんはお忙しのね。

あんな怪我をされて、まだ治りきってもいないのに、お仕事なんて、大変ねぇ」


「そっちの理由だったら、それはそれで心配よね。

無理してないといいんだけど」


 若社長は私を嘘吐き呼ばわりしたけど、どう考えても彼の方が大嘘吐きだと思った。


 が、突如、リサが立ち上がって叫んだ。


「あんた達って、どんだけ天然お嬢様なのよ!!

真白、こっち見なさい!」


「えっ?」


 驚いて見上げると、リサのスマホが向けられていた。

 シャッター音が鳴る。


「ほら笑う!」


 そう言われても無理……な、はずだったのに、私の顔は瞬時に笑顔を作っていた。

 『妖精』プロジェクトの名残だ。

 顔が写らないからと言って、仏頂面では、雰囲気が出ない、という理由で、ちゃんと笑顔を作る練習をしていたのだ。


「おし、可愛く撮れたわ〜。

まったく、鈍感な友達に代わって、私が若社長に『可愛い女の子の写真』を送ってあげよう」


「えええええ!!

ちょっ……駄目!恥ずかしいから止めてよ」


「何が恥ずかしいよ。

恋人に写真をねだったのに、姪っ子の写真を送られてきた若社長の方がよっぽど恥ずかしいわよ。

可哀想、おっさんだけど、可哀想だわ。さすがに同情したくなってきた」


「まぁ! そういう意味でしたのね。

リサさんって、本当に賢くていらっしゃる」


 姫ちゃんが感嘆の声をあげた。

 私は絶句した。

 そういう意味だったんだ……。


「私、あんたのそういう素直な所、嫌いじゃないわ」


「ありがとうございます。

では、私のことは、姫とお呼びになって」


 スコーンにたっぷりのクロテッドクリームを塗った、なんとも食べにくそうなものを、姫ちゃんは一つも食べこぼすことなく、口の周りにつけることなく、食べきった。

 姫ちゃんに苛立っていたリサですら、感心したように、私に目を合わせる。


 それから、「ねぇねぇ、折角だから、浴衣がいいか、水着がいいか聞いてみてもいい?」と、リサがスマホを操作しながら、目を輝かせて言った。


「どういう意味ですの?」


 ミルクティーを一口飲んだ姫ちゃんは不思議顔だ。

 私はリサの表情に、以前のエリィと東野部長を思い出して、嫌な予感がした。


「私達、受験生だからって、青春捨てて、勉強に打ち込んでいるでしょう……って、何よ、その顔」


「一昨日まで、スイスに行っていて、宿題も終わってません」


「……ううっ、ごめん、私もあんまり……」


 姫ちゃんと私の反応に、リサは呆れた。


「あんた達、受験生って自覚あんの?

姫はともかく、真白は受験でしょ?」


「私も受験ですわよ」


 てっきり姫ちゃんは志桜館の大学に内部推薦だと思っていた私達は、驚いた。


「西洋美術の勉強をしたいと思っているのです。

もっと言えば、写本の勉強です。

我が家にも何点かあって、それについて研究、保存に携わりたくって。

ゆくゆくは、雨宮美術館でお手伝い出来れば、と思って。

ですが、志桜館学園大学には該当する学部がないでしょ?

祖父が作ってくれると言ってくれたのですが、思い立ったのが最近だったもので、認可が間に合わないらしいのです」


「い、意外だわ、雨宮姫。

就職のことまで考えているなんて。

自分の家だけど……てか、実家が美術館持ってるってレベルが一般人には理解出来ない」


 申し訳ないけど私も驚いた。

 とてもしっかりして見える。

 それに比べて、私ったら、将来の見通しが甘い気がする。

 若社長との約束もあるし、自分のしたいことが出来なくなるかもしれない……おそらく、そういう気持ちが、受験勉強から遠ざかってしまった一因かもしれない。

 瑠璃子さんの話を聞いたら、小野寺冬馬と言う人と真剣に付き合うことは、即、結婚を期待されることに気づかされた。

 若社長はもう結婚してもおかしくない年だ。

 それどことか、弟さんは結婚していて、もう五才になる女の子が二人いるくらいだ。


 一年だって長いくらい。

 そう思うと、一年経ったら……いやいや、それは想像を飛躍させすぎている。

 若社長にそこまでの気持ちが無かったら、どうするのよ。


「これから巻き返せると思う?」


「真白は英語が完璧だから、他の子よりは有利だとは思うわよ。

現国も大得意だし。

だけど、油断は大敵!

……そう思うと、水着は無いかな〜。

ああ、やっぱり若社長も水着は無いって

おっさん、自分が見たいのよりも、他人に見せたく無いのを優先したな」


 話している間に若社長から返信があったようだ。

 早い。

 私のメールは無視したのに、リサにはこんな早く返事するなんて。

 若社長の意地悪。

 私が勘違いして、恥をかかせたから怒っているんだ。


「やだ、真白の焼きもち屋さん。

貴女の事だから、若社長も返事をくれるのよ。

じゃなかったら、私なんて相手にもされません」


「水着がなければ、浴衣……と言うことになりますが、どういうことですの?

そろそろ教えてくださいな」


 姫ちゃんが具は胡瓜のみのサンドウィッチを摘みながら尋ねた。


「夏と言ったら、海か花火でしょう!!」


リサは勢い込んで言ったが姫ちゃんは首をかしげた。


「夏と言ったら、バイロイトの音楽祭ではなくって?」


「黙れ、お嬢!

私は一般的な女子高校生の夏について語っているの!

海か夏祭りでしょ、普通は!」


「ねぇ、真白!」と同意を求められた。


「母が亡くなるまでは、毎年、夏祭りに行って、花火も見て来たけど……」


それ以来、行ってなかったな。

浴衣も、もう縫ってもらえない。

あまり行きたいとは思えなかった。


「……見に行こうよ、花火!

若社長も誘ってさ。

浴衣姿は女子力三割増しよ!

きっと、可愛いって、褒めてくれるよ」


「そうかなぁ」


私は懐疑的な気分だった。

若社長はよっぽどのことが無いと、私を可愛いとは言ってくれない。

だからさっきの写真の件だって、姪御さんの話だと思ったのだ。

若社長が恥をかいたとしたら、自業自得だ。


「なんでそんなに消極的なのよ。

真白を卑屈にさせるなんて、あのおっさんにどんな酷い扱いされてるの?」


「もう! おっさん言わないでよ!

若社長はおっさんじゃないわ。

ちょっと年上の大人の……男の……人よ」


 若社長をおっさん呼ばわりするリサを窘めようとしたら、襲われかけた夜のことを思い出してしまった。


 あの人とは、結婚の話もそうだけど、普通の、そして、同年代の男の子と付き合うのとは勝手が違うのだ。

 海も花火も若社長は別な女の人とたくさん経験済で、そして、もう、そんな子供っぽいデートには興味がないだろう。

 私はリサが提示するような甘酸っぱい初々しい男女交際は、若社長と付き合う限り、無理なのだと悟るしかない。

 私の子供っぽい欲求に、大人の若社長を付き合わせたら悪いもの。

 若社長の為に、大人になるって誓ったから、我慢しないと。


 だから……「浴衣も無し。若社長の傷はまだ癒えていないのよ。夏祭りなんて混雑する場所についてきてもらう訳にはいかないでしょ」。

 そんな理由で、リサを説得しようとした。


 しかし、リサには別な思惑があったようだ。


「私も人ごみは嫌い。

でもさ、真白は覚えてないの?

貴女が最初に移動する予定だった部屋の話。

花火が見える高層マンションじゃなかった?

結構、楽しみにしてたんだけどな」


 すっかり忘れていた。

 そう言えば、そんな会話をリサとはした。


「永井さん、真白がいつ小野寺邸から逃げ出したくなるようなことがあっても大丈夫なように、あの部屋に住んでくれているって知ってた?」


 中華料理屋さんしかり、永井秘書しかり、リサは着々と情報網を構築していた。

 その情報によれば、永井秘書は、私を迎え入れる準備をしていたのに、結局、小野寺邸に引き取られたことになったのを聞いても、決められた期間は一人ででも住むことにしたらしい。

 その理由が、私の逃げ場所確保とは……さすがに、若社長の女関係の評判は低い。

 はっきりそうとは言ってないけど、おそらく、そういうことが頭にあったことは想像に難くない。

 小野寺邸に入れば、逃げ出したくなるような危険なことなど何もないはずだもの。

 もし、あるとすれば、若社長の存在だけだ。

 実際、その人は自身の評価を裏付けるようなことをしてのけた。


 ――いけない、また思い出してしまった。

 頭を振って、あの若社長の姿を、あの感触を、あの声を、追い出す。


「真白?」


「ごめん、そうだったね。

リサにも迷惑をかけたのに、約束を破るところだった。

そこなら、ゆっくり花火を見られる……のよね?」


 リサや姫ちゃんに気取られない様に、必死で冷静さを装った。

 けど、きっと顔は真っ赤だろうな。

 ああ、恥ずかしい。


「うん、特等席だって。

あの中華料理屋さんの料理を食べながら、みんなで花火見学しようって話なの。

若社長も呼ぶけど、他の人もいるから……残念ながら」


「楽しそう! 姫も行く! いつですの?」


「お嬢、あんたは呼んでない」


「……酷い! 真白ちゃん、この方になんとか言って下さい。

仲間外れにするなんて」


「仲間外れ? もともと仲間じゃないし。

雨宮家だったら、自分の家で花火大会でも開いてなさいよ」


 さっき、少しだけ仲よくなってように見えたのは、私の気のせいだったのかしら。

 リサと姫ちゃんが、花火見学を巡って、険悪になっていた。


「リサ、姫ちゃんも招待したいの。駄目?」


 若社長と姫ちゃんの関係は気になるけど、姫ちゃんのお願いには弱い。


「……真白がいいならいいけど……」


「兄を呼んでもいいですか?」


「……あ、兄ぃ!? あんた兄貴? も、もしかしなくても美形?」


「さぁ?」


人の美醜に頓着しない姫ちゃんは質問の意図を量りかねていた。


「分かった。聞き方が悪かった。

あなたのお兄様は、あなたに顔が似ているのかしら?」


「ええ! 良く似ていましてよ。

みんさん、そうおっしゃいます。

お兄様は、とても素敵な方ですのよ」


「そんなお兄様をどうして呼ばないといけないのよ!」


 これまで以上に、動揺したリサが姫ちゃんに噛みついた。


「お兄様も真白ちゃんが怖い目に遭ったと聞いて、とても心配していますの。

もう一度、会いたいとも」


「やっぱり!あんた真白の恋路を邪魔しようとしているんじゃないの!

真白も真白よ、雨宮家の御曹司とも知り合いなの!?

じゃあ、むしろなんで、あのおっさんなのよ!」


 知り合いではない。

 雨宮家のお茶会で、挨拶した程度だ。

 気分が悪かったから、どんな人かよく覚えていないけど、確かに姫ちゃんに似て、綺麗な顔をしていたような気がする。

 雨宮一の顔を思い出そうとしたら、私は自分が雨宮家の血を引いていることに思い当たった。

 父の母、つまり、私の父方の祖母は、雨宮家の出身のはずだ。

 おぼろげな記憶の中の雨宮一は、おぼろげな分、詳細が省かれたせいで、雨宮家の特徴が際立って残り、それが父の持っているものに似ていることが分かった。

 そう思って見れば、私と姫ちゃんも似ている。

 姫ちゃんのおじい様が、私と仲よくするように「命令」したり、やたら似ている、似ていると言っていたのも、その為だ。

 雨宮の会長ともなれば、私の父の事を知っていて当然だった。

 系図的には、父は姫ちゃんの祖父の甥にあたるはずだった。

 つまり私と姫ちゃんはまた従姉妹……。

 友達だと思っていた子が、こんな近い関係だったなんて。

 これまで親戚なんて持ったことがないから嬉しくって、つい、姫ちゃんに報告したくなった。


 姫ちゃんは、その事実を知らなそうだ。

 雨宮一は、そのことを知っているのだろうか。

 彼が私に興味を持っているのは、恋愛とか、そう言ったものではなく、なんとなく、親族としてのもののような気がする。


 だから、私はあっさりと承諾したのだけど、そのことを聞いた若社長から失望のメールが届いてしまった。


『他の男は側に置かないって約束したのに』


 文末に顔文字がなかった。


『親戚ですよ』


『男には違いないよ。しかも、姿も家柄も財力も俺よりも上のね。

あ、俺、嫉妬している?』


『私にとって、若社長ほどの男の人はいません。

私もさっき嫉妬しましたよ。

若社長って、私にはメールの返事が遅いのに、リサだとすぐに返すんですね?』


 メールだと、面と向かって言えないようなことも伝えられるのが嬉しいけど、送った後は大抵、後悔してしまう。


 その後、返事は無かったけど、仕事が忙しいと言う理由で、最初は参加を渋っていたはずの若社長が、一転、出席を表明した。

 若社長と、朝晩の食事と出勤のお見送り以外で会う。

 それは、あの一件以来と言う意味だ。

 緊張するけど、大丈夫だろう。


 なにしろ、主催・東野部長家族を筆頭に、牧田秘書室長とその恋人、永井秘書、秋生さん家族、夏樹さん、リサと雨宮兄妹、そして、エリィと賑やかなパーティーになりそうだからだ。


 ほんの僅かにガッカリした気がしないでもないけど、みんなで花火を見ながらワイワイするのを想像したら、俄然、楽しみになってきた。


 もっとも、その楽しみを存分に味わう為に……と、リサが私と姫ちゃんに課題を与えたので、当日まで、机にかじりつくことになったけど。

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