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妖精とクマ  作者: さぁこ/結城敦子
第五章 椛島真白の不安。
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5-2 エリィの策略

 私が感じた不安は気のせいじゃなかった。


 永井秘書が戦慄した表情を見せる。

 ああ、そうだ、この人は、あいつに散々、嫌な目にあったんだ。


「美園……社長、なんの御用ですか」


 それでも雄々しく、永井秘書は私の前に立ちはだかってくれた。


「静香ちゃんも相変わらず可愛いね。

でも、今日はそっちの可愛い『妖精』さんに用事があるんだよ」


「……っ!」


 勝ち誇った、下卑た笑みを浮かべて囁いた美園に、永井秘書は一歩引いた。

 『妖精』のことは、今でも極秘事項だ。

 ここで大声でばらされたら困る。

 私は美園の前に立つと、挑むような気持で言った。


「なんのことですか」


「しらばっくれても無駄だよ。『妖精』さん。

俺の審美眼を侮るな。

元から良かったが、随分、野暮ったさが消えて、見違えたじゃないか。

今なら冗談でなく、俺の女にしたいよ」


 あれが冗談だったとでも言うのだろうか、この男は。

 おぞましい。

 おまけに人差し指で、下から舐めるように人の頬を撫でてきた。

 背中だけでなく、全身に寒気が走る。


「バラされたら困るんだろう『妖精』さん。

ちょっと、付き合えよ」


「嫌です」


「じゃあ、言ってもいいんだな。

『妖精』さんの正体。

騎士さんはお忙しいみたいだから、助けてはもらえないぞ」


「バラしたいならどうぞ。

社長から、もしもの時は、構わないって言われていますから。

だから、真白ちゃんから離れなさいよ!」


 嘘か本当か、永井秘書が再び、敢然と立ち向かった。

 私も、もう一度、拒絶する為に、一歩踏み出した。


 途端に、何か冷たいものがかけられた。

 見ると、白い制服に、赤い染みが広がっていた。


「ごめんなさい!!」


 呆気にとられて声の主を見ると、ものすごく綺麗な女の人だった。

 彼女は知っている。

 エリィだ。

 若社長の恋人と噂されている、日本屈指のモデルで、ジャンとも仲が良く、今では、日本での宣伝を一手に引き受けている美しい人。

 今日は真紅のドレスを着ている。

 形は、夏樹さんと東野部長が選んでくれた黒のドレスと似ている。

 きっと今、流行りの形なのだ。

 違いは、襟まわりに襞がついていないのと、スカートの後ろを長く引いている所で、ずっとセクシーに見える。

 黒い髪の毛を優雅に結い上げ、何本かの後れ毛が白い肩と赤い服にかかっていて印象的だ。

 靴は銀色。これも流行色なのかもしれない。

 中に何が入るか分からないくらい薄くて小さいクラッチバッグも銀色で、ワイングラスを持っている手の爪も銀色だった。

 ただし、そのワイングラスの中身は空だった。その中にあった赤い色は、私の制服に移ってしまったからだ。


「本当にごめんなさい。

私ったら、前をよく見ていなかったみたいで。

ワインがかかっちゃったわね。

どうしましょう」


 会場中によく響く、大きな声で言うものだから、一斉に注目が集まった。


「エリィ……」


「あら! 美園社長! ごきげんよう

美園社長もお呼ばれしていたんですか?

でしたら、エスコートして下されば良かったのに。

私、一人で来ましたのよ」


 ニッコリと、エリィは笑った。

 その声が聞こえたのか、若社長があっという間にやってきた。


「この子にワインをかけちゃったわ。これって制服よね。すぐにクリーニングに出さないと、染みになっちゃうから、着替えさせようと思うの」


 呑気とも思えるようなエリィの様子に、若社長の怒気が和らいだ。

 良かった。

 さすがに、この会場で怒鳴り合いに発展したら、若社長の分が悪い。

 エリィはそれを知ってて、そんな態度をとったのだ。

 ワインをかけたのもワザとで、こうやって注目を集めることで、美園が悪さを出来ない様にしている。

 さらに、着替えを理由に、私を美園から引き離そうとしてくれている。


 つまり、すごーく大人の対応というやつだ。


 若社長が信頼に満ちた目で、「そうだね」と同意したのも分かる。


 エリィに肩を抱かれて連れて行かれたのは、元居た控え室代わりのホテルの一室だった。

 途中で追いかけてきた東野部長が、エリィに教えたのだ。

 さらに、自分が至らないせいで、と泣きそうな永井秘書を慰めるのも忘れなかった。


 つまり、とーっても大人な対応というやつだ。


 何もできずに、大人の女性に取り囲まれている私は、やっぱり子供なのだ。

 大人しく若社長の用意してくれたワンピースを着よう。


 そう思っていたのに、エリィにまで駄目だしされた。


「何これ?」


「でしょ! 私も若社長に散々、言ったんですよ。可愛すぎるって」


「何でセーラー襟な訳? そういう趣味なの?」


「……いえ、多分、逆です。制服っぽいと、安心するんでしょう。

ほら、ちゃんと高校生に見えるじゃないですか」


「あ〜あ、なるほど」


 若社長のワンピースを摘みあげたエリィが、東野部長と一緒に、私を哀れそうに見ながら頷いた。


「私の目が黒いうちは、こんな可愛くてスタイルのいい子に、こんな野暮ったい服は着せられないわ」


「まったくエリィの言う通りです。さすが日本トップクラスのモデル!

私達が選んだドレスがあるんですよ」


 東野部長が意気揚々と見せた黒いドレスを、エリィはひったくるように受け取った。


「あら、これ素敵ね。

貴女、これ着なさい。

早く!」


 盛り上がる二人の大人の女性の気迫に、私に拒否する術はなかった。

 なのに、「そうやって、素直すぎるから、美園になんか付け込まれるのよ。もっとしっかりしなさい」と言われてしまった。


 渋々、黒いドレスに着替えると、上も下もスース―して心もとないこと、この上なかった。

 もう、帰るまでここにいよう、と決心して、ワインの染みがついた制服を東野部長に渡していると、トントンと二回、ドアがノックされた。


 若社長のリズムだ。

 そんなことを思っていると、確認の上、永井秘書がドアを開けた。

 思った通り、そこには若社長が立っていた。

 怒っていたけど、それは、美園に対してではなく、私の恰好に対してだった。


「やっぱり……どうせそんなことだろうと思ってたよ。

エリィも東野部長も彼女で遊ぶのは止めてくれ。

可哀想じゃないか」


「どうして?

こんなに似合っているのに?

冬馬さんったら、女の子に可愛い恰好はさせない主義なの?」


 若社長に可哀想と評されてしまった私は、裾を出来るだけ長くしようと引っ張ってみたが、そんなことはお構いなしのエリィによって、彼の前に突き出されてしまった。


「そうじゃないけど」


 私の姿を一瞥すると、お馴染みのため息をついた。


「君たちは分かってない。

そんな恰好をしたら、すぐに真白ちゃんが『妖精』ってバレるだろう!」


「ふーん、やっぱり、『真白ちゃん』が『妖精』なんだ」


 私の肩を掴む、エリィの指が食い込んだ。


「だと思った。

私も美園に負けないくらい、審美眼には自信があるのよ」


 若社長の顔が険しくなった。


「美園にバレたのか」


「そうみたい。

制服着ていても、隠しきれない、このスタイルの良さ。

父親譲りの浮世離れした感じ。

目ざとい人間は、もしかして? と思うかもね。

ねぇ、真白ちゃん? どうしたの?」


 エリィが私の耳元で話すから、くすぐったいのだ。

 この黒いドレスは、いつもより首筋が多く出ているせいもある。

 美園とは勿論、違うけど、でもゾワゾワして不安な気持ちになる。


「あら、真白ちゃん、もしかして、首筋が弱点?」


「きゃああっ! やっ……ん、止めて下さい!」


 エリィが確信犯で、息を吹きかけるせいで、思わず声が出てしまった。

 私は本当に首筋が弱いのだ。リサにもからかわれたけど、あんまり過剰に反応するせいで、最近は自粛してくれるようになったほどだ。

 手を裾から首に移動して、これ以上の攻撃から守る。


「うっわ、可愛い……」


「エリィ!!」


「やだ、そんなに怒らないで。

ちょっと冗談のつもりだったのに、こんなに弱いとは思わなかったのよ。

女の子同士だし、大目に見てよ。

美園じゃないんだし……」


 エリィの言葉に、若社長が反応した。


「美園? 美園に何かされたの??」


「何も! 何もされていません!!」


 と言いつつ、今度は先ほど、美園に触られた頬に手が移動したせいで、そこを何かされた、と言うことが分かってしまった。


「何をされたの!?」


「……触られただけ……です」


「はぁあああああ? 触られたぁ!?」


 噛みつかれそうな勢いで聞かれた上に、この反応だ。

 また説教モードの予感がしたのだけど、実際は違った。


「また嫌な思いをさせてしまったね。

美園なんか呼んだ覚えはなかったのに、どうやって潜り込んだのか……。

今後は受付と警備に注意するように、よくよく指示しておくよ。

もう、君に危害を加えさせたりはさせないから。

だから、泣かないで、真白ちゃん」


 そんなつもりは無かったのだけど、若社長に頭を撫でられて、そんな風に優しくされると、涙が出てくる。

 美園に触られた所は気持ち悪いし、以前のことを思い出すと、足が震える。


「知り合いの関係者と一緒に潜り込んだのね。

『妖精』さんのせいで、美園ご自慢の私の価値が下がったこともあって、冬馬さんへの怨み骨髄って感じ。

おまけに、その私も離反する訳だし。

私のせいでもある……か。

ごめんなさいね」


「いいえ。

あの、美園から助けて下さってありがとうございます」


 両肩をエリィに掴まれているので、首だけ動かして、そちらの方を向き、お礼を言った。


「真白ちゃん!」


「はい?」


「可愛い!!」


「えええええ!?!?」


 いきなりエリィが私を、自分の方に向き直し、力一杯抱きしめてきた。


「よし! 私が、そのドレスにぴったりのメイクをしてあげる」


「エリィ……何言ってる。その服は……」


「脱がせたかったら、冬馬さんがなされば? 手慣れたものでしょ?」


「…………」


「大丈夫、大丈夫。

ちょっとだけ、気分転換するだけだから。

どうせ、顔は洗わないといけないのよ。

泣いた跡が残っているし、なにより、あの美園が触ったままなんて、耐えられないでしょ?」


 ヒラヒラと手を振るエリィの言葉に若社長が返せないでいる間に、どんどんと背中を押されてバスルームに連れて行かれてしまった。


「あの」


「大丈夫、全部、このエリィ様に任せておけば、悪いようにはしないから」


 先ほど使っていたメイク道具がそのままになっているのを見つけ、鼻歌交じりで、中身を物色するエリィに、私は混乱した。

 何を考えているか分からない。

 でも、愚図愚図していたら、エリィの厳しい叱責が飛んできて、怖い。

 美人なだけに、迫力があるのだ。

 大急ぎで顔を洗うと、あとはエリィのなすがままだった。


「完成〜!

さすが私! いい出来だわ」


 彼女はご満悦のようだったが、私にはどうも濃すぎるように見える。

 その気持ちが伝わったのかエリィは「ふふふ」と含みのある様子で笑った。


「ここではね」


 ウィンクされる。


 本当に悪いようにされないのだろうか。

 からかわれている気がするけど、これから先の展開が読めなくて、抵抗する術がみつからない。

 若社長に助けてもらいたいけど、どうも、エリィと、そして東野部長が揃うと、彼と言えども、翻弄されているように見える。


 バスルームから出ると、永井秘書の姿はなく、その若社長と私、エリィと東野部長の組み合わせになってしまっていた。


「じゃ〜ん、どうどう!?

すっごく素敵に仕上がったと思わない?

やっぱり若い子は肌がピチピチで化粧のノリが良くって、メイクしてても楽しいわね」


「永井秘書にクリーニングを頼んだよ。

ここのホテルのクリーニング技術は優秀だから、今晩中には元通りに仕上がるよ」


 せっかく素敵なドレスを着て、綺麗なメイクをしても、若社長はちっともこっちを見てくれないのだ。

 どうして、あんなに優しくて、甘い人なのに、「似合っているよ」の一言を言ってくれないのだろう。


「あー……そうね。

私も何度か頼んだことがあるから、分かるわ。

きっとすぐに仕上がってくるわね。

その間、この恰好で、ここに居てもいいでしょう?

私がこの子に付いていてあげる。

冬馬さん、うまく会場から料理を運ばせてよ」


「え? ……ああ、そうだね。

それがいいよ。

真白ちゃん、折角のお父上の記念パーティーだけど、今晩は、もう、ここから出ない方がいいよ。

美園は追い出したけど……その服じぁ……ね」


 意外な展開に、私も、若社長も呆気にとられていた。

 それは、私の望み通りのことだ。

 今晩は、父が戻るまで、ここに居たい。

 確かに、『悪くはない』。

 それどころか、大歓迎だ。


 でも、本当だろうか。

 エリィが東野部長に合図を送ったような気がする。

 この二人は、初体面ではないはずだけど、それほど交流があった訳ではないのに、たった数分で意気投合したみたいだ。


「じゃあ、決まりね。

私は仕事中だから、会場に戻ります。

行きましょう、社長」


 東野部長が若社長を誘ってドアの方向に向かう。

 それに対応して、なぜか、私もドアの方へと押し出されていた。


「お見送りしてあげないと。

あと、食べたい料理があったら今のうちのリクエストしておかないと。

冬馬さんの見立ては、若い子向きじゃないかもしれないからね」


「いいえ、若社長はいつも美味しい物を食べさせてくれます!」


 どうしても、若社長を擁護してしまう私に、エリィは苦笑した。


 それから、「真白ちゃんは可愛いわね〜。だから、応援したくなるのよ」と、突然、若社長に向かって突き飛ばされた。

 予めドレスに合わせて、久々にヒールの高い靴を履かされていたので、バランスが悪かった。

 踏ん張りが利かず、あっさりと若社長の方に倒れ込んでしまう。

 余裕で受け止められたけど、こんな露出度の激しい上に、生地の薄い恰好で抱きしめられると、男の人の手の感触が直に伝わってきて、いっそ床に抱きとめられた方がマシと思える恥ずかしさだ。


「エリィ!!」


「ごっめ〜ん!

ちょっとふらついちゃって。

さらに、もうひとつ謝っていい?」


「何?」


「鍵を部屋に置いたまま、ドアが閉まっちゃった……えへ」


 見れば、いつの間にか全員が廊下に締め出されていた。

 ここは会場近くの控室の為の部屋ではなく、普段は一般の……と言っても、かなり高い部屋だけど……一室だから、鍵はオートロックで、鍵が掛かってしまう。


「えええ!!」


「エリィ……本気で怒ってもいい?」


 私の腰に回された腕に力がこもる。


「いいけど、怒っている暇があったら、フロントに事情を話して、鍵を取りにいってもらった方が建設的よ」


 若社長の半ギレにも動じず、腰に手を当てて仁王立ちするエリィは、してやったり顔だ。


「私がフロントに行って、鍵を開けてもらいますので、少しお待ちください」


「あ、私、ちょっとお腹が痛いから、トイレに籠るから。

……そうだ、ホテルの部屋の前の廊下に、年頃の男女二人で立っていると、誤解されるかもしれないから、上のラウンジで待っていた方がいいかもね。

それじゃ、真白ちゃん、またね!」


「エリィの言う通りですね。

鍵が開いたら、連絡します。

それでは……ちゃんと、上のラウンジで待っていて下さいね!」


 話しながら、徐々に距離を開けていた二人の女性は、風のように去って行ってしまった。


「……ああ、くそっ!」


 若社長が、私から手を離し、頭を抱えてしゃがみこんだ。


「真白ちゃん、ごめん」


 そうして、顔を上げて謝罪するから、私は慌てて、引き下がって、スカートの前を押さえた。

 ちょうど角度的に、中が見えそうなのだ。


「若社長! その体勢は駄目です!」


「…………っ!! み、見てない! 見てないからね!!」


「分かります! 分かりますから!!」


 急いで立ち上がった若社長は、廊下の壁に寄りかかってしまった。

 手で頭を押さえている。隙間から見える耳が真っ赤になっていた。


「ごめんなさい」


「なんで君が謝るの?

簡単に謝らないんでしょ。

ったく、エリィの奴、あとで見てろよ……」


 若社長はギリギリと歯を食いしばると、不意に息を吐き、こちらを向いて、ふっと笑った。


「会場に近い所に控室はもう一つあるし、一緒にフロントに鍵を取りに行ってもいいけど……でも、行こうか?」


「どこにですか?」


 自分の声が震えて聞こえた。


「……上に。嫌?」


「嫌じゃ! ……ありません」


 ホテルの最上階に続くエレベーターは天国への階段かもしれない。

 フワフワした気分と、フラフラする高いヒールのせいで、一度は断ったものの、結局、若社長が右手を腰に回して支えてくれた。

 さらに、左手を頭の横に軽く添えたので、まるで抱きしめられているかのようだ。

 若社長の身体が近い。

 ヒールが高いせいで、いつもより視線が上がり、あの素敵な顎の線が間近に見える。

 かと言って、視線を外すと、やっぱり素敵な喉仏が見えるので、私の視線はあてどもなくさ迷った結果、エレベーターのガラスに映る、まるで見るだけなら恋人同士に見えなくもない二人の影を捉えた。

 ホテルの中を貫くエレベーターはガラス張りになっていて、キラキラ光る階下が見えた。

 どこもかしこも磨きあげられ、輝くシャンデリアがぶら下がった、エントランスとロビーだ。

 東野部長が鍵のことを説明しに、あそこに行っているのだろうと、若社長の身体の隙間から、覗こうとしたのだけど、なぜか阻止された。

 その時、シャンデリラが何かに反射したのだろうか、一瞬、光が瞬く。


 ふと、姫ちゃんのことを思い出した。

 まだあの会場の中で、若社長を探しているだろうか。

 抜け駆けしている気持ちだ。


 でも、姫ちゃんだっていっぱい抜け駆けをしている。


 ――そういう風に言い訳している自分がとても嫌だ。


 私は……私は若社長にとってなんなのだろう。

 遊ばれている?

 すっかり忘れていたけど、彼は『モデル喰い』と称された遊び人なのだ。

 エリィとも付き合っているはずだし。


 そこまで思って、再び疑問が浮かんだ。

 エリィは私が若社長と二人でいるように画策してくれた。

 つまり恋のライバルではない、と言うことなのかしら。


 分からないことだらけで混乱する。


「おいで」


 到着した最上階はホテルのラウンジだった。

 薄暗い店内に、ポツポツと光が灯っている。

 大人な空間だ。

 足がすくんだ私に、先に出た若社長が手を差し伸べながら、声をかけてくれる。


 私の気持ちを振り回し、姫ちゃんとの友情を壊した男の人の手をじっと見つめた。


 この手を取ってもいいものか、自問自答する。


 でも、もう、この人の手を、私は振り払うことが出来ないのだ。

 分からないことだらけの中で、それだけは、唯一、自信を持って断言出来る。

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