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妖精とクマ  作者: さぁこ/結城敦子
第三章 椛島真白の挑戦。
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3-1 再び十五階へ

椛島かばしまさん?

椛島真白かばしまましろさんですか?」


 入社して間もない風の若い男性社員さんが、私の自転車の前で手持無沙汰で待っているから、何事かと思った。

 よく見れば、昨日、エレベーター前で東野部長に声をかけた人だ。


 いつから待っていたのだろうか?

 屋根は付いているとは言え、日差しの強い午後に外に長くいたせいか、頬が少し赤くなっていた。

 それでもそこを動かなかったのは、聞けば部長より、何がなんでも私を十五階に連れてくるように厳命されたらしい。


 心臓が跳ね上がった。

 男性社員には心当たりはなさそうだけど、自分には充分にあった。


 私が出来ることをしてみたのだけど、やはり余計なことだったかもしれない、と試験中ずっと気になっていたのだ。

 勢いとはいえ、ジャン・ルイ・ソレイユに手紙を渡すなんて、出過ぎた真似だった。

 大体、夜中に書いたラブレターは朝に読み返せ、と言うけれども、私は読み返さないまま渡してしまった。

 思い返すと、かなり支離滅裂なことを書いてしまった気がする。

 あれはジャン・ルイ・ソレイユに書いた手紙だったけど、ある意味、若社長へのラブレター……とまではいかなくても、ファンレターのようなノリだった。

 どうか、あの手紙の内容が受取人以外には知られていませんように。

 特に本人に知られたら、もう恥ずかしくてバイトにも行けない!


 いいえ、その前に、プロジェクトを完全に台無しにした女として、今度こそ嫌われるかも!

 あんなに親切にしてもらったと言うのに……。


 エレベーターに乗り込み、目的の階へと上昇する間、事の無事を祈っていると、男性社員の人にしげしげと見つめられてしまった。


「大丈夫ですか?」


「えっ? ええ……大丈夫です」


 彼は「昨日は大変でしたね。私もあの時、十五階に居て……」と話し始めたが、私は若社長の事で頭がいっぱいだったし、エレベーターはあっという間に到着したので、何を話したかったか、結局、分からず仕舞いだった。


 話が途中になってしまって残念そうな男性社員に申し訳ないと思いつつも、やっぱり私はそれどころではないのだ。


***


 若社長は社長室の扉を背に、前室の秘書室で『私を』待っていた。


 疲れている様子で、髪の毛もいつもより無造作だった。

 思わずその髪の毛をくしゃくしゃにしたくなった。


 そんなこと、思っている場合じゃないのに。

 きっと、若社長は昨日から寝ないで事態の収集を図っていたのだろう。

 それをこんな目で見てしまう、己の乙女心が憎い。


 ついでに言えば、若社長の前に立つ自分の見た目が気になって仕方がない。


 リップは見かねた同じ科の友人が買い置きしていた新品のものを譲ってくれた。

 あとで買って返さないといけないが、取りあえず、昨日よりは荒れてはいないはず。


 前髪に手をやり、制服のセーラーの襟を撫で付け、スカーフを正すと、ウエストに巻いてある細めのベルトを直す……うちの学校の制服はワンピース型なのだ……それから、スカートの裾を伸ばしたが、あまり意味があったとは思えなかった。


 一旦、伏せた目を、もう一度上げると、若社長が私を凝視していた。

 だけど、何も言ってくれない。

 怒っているような、普段の顔のような、私には判別出来ない表情をしている。


 どう話しかけたものか逡巡していると、突然、脇から別の男の人が進み出てきた。

 華やかな雰囲気の人。

 極楽鳥みたい。

 何度かビル内で見かけたことがあって、そう言えば、吉野さんが「あれが若社長の末の弟さん、夏樹なつきさんよ」と教えてくれた人だ!


「君が真白ちゃん?」


 夏樹さんが「初めまして」と、私に握手を求めてきた。

 つられて右手を差し出すと、ぎゅうっと、両手で強く握られてビックリする。

 こちらを伺う目も、笑っているようだけど、鋭くもみえる。


 ここにきて、ようやっと、秘書室には若社長以外にも大勢の存在が居たことに気付く。

 井上常務に、東野とうの・青井両部長、牧田秘書室長に永井秘書といった、この部屋で本来仕事をしている社員の人たち、それから見知らぬ男性が一人。


 若いけど、隙のないスーツの着こなしは、社会的に地位が高い人に見える。

 顔立ちは爬虫類系と言えなくもないが、なぜかクマと極楽鳥に似ている。

 もしや、彼が噂の『小野寺三兄弟』の真ん中、小野寺秋生おのでらあきおさんだろうか。


 すごい、兄弟揃ってモデルみたいに長身で素敵だ!

 おまけに三人とも仕事が出来る男として有名だ。

 並ぶと迫力があって、目に眩しい。

 彼らの母親にとっては、さぞかし自慢の息子たちだろう。


 一番背が高くて、一番素敵なのは長男の若社長だけど!


「ホント、噂通りに可愛いね。

で、彼氏とかいるの?」


 三兄弟にしきりに感心していると、私の手を強く握りしめたまま、夏樹さんが場違いな質問をしてきた。


「はい?」


 あまりに状況にそぐわないせいで、一瞬、何を聞かれたか分からなかった。


「やっぱりいるんだ!

そうだよね~、こんな可愛いし!」


「い、いません!!」


 明らかに疑問形の「はい?」だったじゃないですか。


 そりゃあ、憧れている人はいるけど!

 その憧れの君の前で、なんてこと聞くんですか!


 誤解されない様に、慌てたせいか、声が上ずってしまった。

 とりあえず、若社長の方に視線を向けないように頑張った。

 手が汗ばんできたので、夏樹さんにはそろそろ手を離して欲しい。

 だけど、こちらから振り払うのは失礼な気もする。

 何と言っても、若社長の弟さんなのだし。


 すると兄である若社長が無言で夏樹さんの肩を掴むと、後ろに引きはがしてくれた。

 やっと、話をしてくれると喜んだのもつかの間、心底、うんざりしたような声音で言われた。


「君は……」


 はぁ、とため息が入る。


「君は一体何をしたの?」


 あんまり嫌そうに聞かれたので、これは相当いけないことをしたのだと感じた。

 瞬時に、涙がせり上がってくる。


「ごめんなさい」


 泣くのを堪えて、謝ることしか出来なかった。

 ここで泣いたり弁解したりなんかしたら、うんざり所の話ではないと思ったのだ。


「謝らなくてもいいから、どういうことか教えてくれる?」


「言い訳してもいいのですか?」


「言い訳ではなくて、説明してもらいたいんだ。

どういうことか。

なぜジャン・ルイ・ソレイユが君に会いにやって来たかをね」


「え……!?」


 想像以上の期待を持てる展開に、文字通り、飛び上がりそうになった。


「来たのですか?

ジャン・ルイ・ソレイユが?

それで……」


 どうなったのですか、聞いた途端、若社長が顔をしかめた。


「大変だったよ……」


「ええっ! ごめんなさい!

私があんな手紙を書いたせいです。

でも、決して、そんな……悪いことは書いていないです。

何か誤解があったのかも!

ジャン・ルイ・ソレイユに会えませんか?

会えばきっと分かってもらえるように、説得します」


 興奮のあまり若社長の腕にすがって訴えてしまった。

 すがられた方は、びっくりした顔で私を見下ろして、それから慌てたように腕を振り払うと、「言い方が悪かった、俺の方こそ、すまない」と頭を掻いた。


 それから、「手紙を書いてくれたの?」と、うっとりするような優しい笑みを浮かべて聞き返された。

 まぁ、むずかる子供をあやすような微笑みにも似ていたけど。

 頷くと、さっきから黙っていた秋生さん……自己紹介してくれたので、間違いなく秋生さんだと分かった……が、口を開いた。


「どのようにしてジャン・ルイ・ソレイユに手紙を?

彼とは直接どころか、間接にすら接触するのは難しいと言われているのに。

君のような一介の女子高校生が……失礼……しかし、知りたいものです」


 深みがあって優しい兄の声とは違って、志桜館の高校の数学担当の先生みたいに冷たくて理知的な声だ。

 舞いあがっていた心が一気に冷却されるという点では、彼こそ、今の私にはふさわしい聞き役だと思う。


 なので、私は、かなり冷静になって、事の成り行きを話すことが出来た。


 昨日のあの一件の後、早々に帰宅した私は、試験勉強に手を出す気になれず、友人との交換日記を取り出した。

 このご時世、交換日記なのは、二人とも携帯電話を所有していないからだ。

 しかし、その理由は大きく違っていた。

 方や経済的事情であり、もう一方は『必要ない』からだ。


 友人である雨宮姫あまみやひめちゃんは、名門名家のお嬢様が集う志桜館学園でも群を抜いたお嬢様である。

 そりゃあ、もう、そこらへんのお嬢様では太刀打ちできないレベルのお嬢様なのである。

 学校には専属の運転手兼お付きの人が送り迎えし、始業から終業までずっと学園に待機している。

 なので、迎えに来てほしいとか、いつ頃帰ると言った連絡をする必要がない。

 他の連絡事項も、お付きの人間がするし、知りたいことがあれば、ネットで検索ではなく専門家に問い合わせなのだ。

 買い物だって、百貨店の外商がお屋敷にくるか、もしくはオーダーメイドだ。


 そんなお嬢様となぜ、私が友人なのか疑問に思うだろう。


 姫ちゃんは、良く言えば素直、悪く……は言いたくないけど、驚くほど自分を持っていない子だった。

 初めて声を掛けられた時のセリフが「おじい様が入学式で貴女を見て、姫のお友達にぴったりだから、仲良くしなさいと言われたの」だったのだ。

 そんな理由で友達にはなれない、と断ったら、不思議そうに「でもおじい様の言いつけだから」と話しかけるのを止めなかった。


 万事がそんな感じで、好みというものがないらしく、服も食べ物も、なにもかも用意されたものを受け取るだけで、それを不満とも思っていなかった。

 だから、姫ちゃんと同じ外国語科の生徒がうらやむブランド物の高価で希少なバッグも、別に欲しくて持っている訳ではなかった。

 ただ自分のものとして置かれていたから、持っているだけであり、鞄など物さえ入ればそれでいいと言う考えなのだ。


 いつも満ち足りているには違いなかったが、あまりに自分が無い同級生に不安になって、何か趣味とか好きなものはないか問い詰めたら、なんと私と同じく本を読むのが好きなことが分かった。

 雨宮のおじい様の目は確かだったかもしれない。

 本だったら買えなくても同じものを図書館で借りれるし、その話題ならば、いつまででも語り合えた。


 科も違うし、生活時間も環境も違うので、なかなか直接合って話す時間は少なかったので、残りは交換日記にしたためた。


 試験期間中はお休みしていたが、直前に渡された彼女からの日記には、「親戚のジャン・ルイ・ソレイユという人がフランスからやって来て滞在することになった」と書いてあったのだ。好き嫌いの感情がことのほか薄い姫ちゃんが、「このおじさんは大好きだ」と言っていたので記憶に残っていたのだった。


 もうひとつ、強烈に覚えていたのは、春頃に書かれた「小野寺冬馬さんと言う人と結婚しなさいと言われたけど、青髭みたいに怖い顔で、食べられるかと思った」という一文だ。


 彼女には『小野寺出版の社食で朝に出会う人』の話をしたことがあり、二人で『朝日の君』なんて、当人には聞かせられないあだ名をつけて盛り上がっていた。

 まさかその『朝日の君』と姫ちゃんがお見合いするとは……。

 そのことを知った姫ちゃんは、「真白ちゃんから聞いていた人と同じ人とは思えないわ」と感想を述べ、「だからって、恋のライバルなんかにならないでね。私、あの人より、真白ちゃんの方が大事だと思うわ」と言ってくれた。


 あっ……私、もしかして若社長の大事なプロジェクトどころか、結婚話さえ邪魔しているんじゃ……。


 それでは公平ではないだろうか。

 姫ちゃんだって、若社長が優しい人だと知れば、見た目がちょっとクマっぽいくらい気にしないだろうし、若社長だって、姫ちゃんのことを誤解しているのかもしれない。

 私だって、最初は着せ替え人形みたいな子だ思ってた。

 でも、付き合ってみれば、彼女なりに喜怒哀楽はあるし、過不足なく暮らしてきたものだけが持つ、鷹揚さと素直さは、他にはない魅力だった。


 だから、きちんと言った。


「友人の雨宮姫ちゃんに頼んで、ジャン・ルイ・ソレイユに手紙を渡してもらったのです」


 夜中までかかって書き上げた手紙を、朝、姫ちゃんに渡してくれるようにお願いした。

 これは『朝日の君』の浮沈に関わることなのだ、と説明したら、「まぁ」と小さく言って、至急、届けてくれるように約束してくれた。

 そして、彼女が至急と言ったら、その通りに物事が進むのだった。

 正直、普通の同級生と同じ感覚で付き合っていたせいで、彼女の力を見誤っていた。

 秋生さんの言い草からすると、小野寺三兄弟でもなかなかジャン・ルイ・ソレイユには会えないようなのに……すごいよ、姫ちゃん。

 やはり若社長のお相手に、と言われるだけある。


 その話を聞いた若社長は、なぜだろう、悪戯を見つかった子供のように見えた。


「君……雨宮姫と友達なんだ」


 呻くように言ったあと、「それで……」と言いかけて止めたので、私はてっきり姫ちゃんが自分のことをどう話していたのか気になるのだと思った。


「あの……姫ちゃんはいい子です。

私が請け負います!

ただ、人見知り……でもないけど、でも、やっぱり十六歳なのに突然結婚って言われて驚いただけだと思います。

決して若社長のことが嫌いな訳ではないです。

だって、嫌いになるほど会話もしてないじゃないですか!

普段は、すごく素直だし。

あ、ほら! 最初印象が悪くても、徐々にお互い歩み寄って行くって、なんだか物語みたいで素敵です!

姫ちゃんの好きな本にもそういうのありました。

本好きなんですよ。

いつも『晴嵐』が発売するの楽しみにして読んでいるんです」


 若社長は憧れの君だけど、姫ちゃんは大事な友達だ。

 どう考えても若社長と結婚出来る訳でもないのだから、ここは友人への誤解を解くのを優先すべきだろう。


「真白ちゃんも読んでるのよね、『晴嵐』」


 東野部長が苦笑しつつ言った。

 『晴嵐』は小野寺出版が発行している文芸雑誌であり、確かに、あまり若い子たちは読まない……かもしれない。

 当の出版社の人から、そういう反応をされると、ひどく悲しい気持ちになる。


「可笑しいですか?」


「いいえ!」


 フワフワの髪の毛を振って、東野部長は否定した。


「違うの……えーっと、そう、この間、あんまり必死に訴えていたから。

可愛かったなぁ……と思い出しちゃって。

気を悪くしたらごめんなさいね。

私も読んでいるのよ、勿論、この会社の人間ですもの」


 ね、と室内で同意を求めたが、半分くらい微妙な顔をしていたので、購読率は推して知るべしだった。


「私は読んでいるよ。

なるほど、君がどうやってジャン・ルイ・ソレイユに手紙を渡したかは分かった。

内容を聞いても?」


 微動だにしない感情と表情を持つ秋生さんが羨ましい。

 私は若社長に関することとなると、ダムが決壊するように感情がだだ漏れになってしまうと言うのに。

 今もそうで、秋生さんの問に激しく動揺した。


「駄目! 駄目です!

……恥ずかしいから……駄目です……」


 最後は消え入りそうな声になった。

 実際は何を書いたのかよく覚えていない。

 若社長は最高に優しくて格好いい人です……とか書いたかも。

 うわぁ、それ言うの?


 それだけは勘弁して欲しいと目で訴えた時の秋生さんの顔は、子供におもちゃをねだられた父親の如しだった。この兄弟は、つくづく私を子供扱いしたいらしい。


「………なつ、パス」


「えええ、なんで俺?

助けて冬兄ふゆにい! ……って、ジャン!いつの間に!」


 子供の相手が面倒になったのか、秋生さんは弟さんにふったのだが、それを受けた夏樹さんが途中から、別のことで驚きの声を上げた。

 その視線を辿ると、秘書室の会議スペースのような場所に金髪の男の人が足を組んで座っていた。

 緑色の瞳がキラキラしていて、泰然として不遜な態度はこの場を支配している王様みたいだった。

 そんな王様が、フフンと鼻で笑いながら若社長を見た。


『姫の話のあたりから居たんだけど、全然、気づいてなかったね。

そうそう、姫!

あの子は素直で可愛いよ。

おまけに雨宮家の総領娘だ。

その子との縁談を断るなんて、よーーーっぽどの理由があるんだろうねぇ。

たとえば、他に好きな女性が居るとか?

それも訳ありの』


 それは……あるかも。

 若社長は大人の男の人で、世界は広い。

 もしかすると『モデル喰い』の異名をとるほどの女好きは世を欺く姿で、本当は好きになってはいけない人を想っているのを必死で隠しているのかもしれない。

 そうだ、そんな話があるじゃない!


『人妻とか……それも、お父さんの後妻で、実のお母さんとそっくりとか?』


『おお! ゲンジだね!』


『そう! それ!

源氏物語! ……現代語訳でしか読んだことないのですが』


『ははは! 私もだよ。

……ところで、初めまして、真白ちゃん。

私がジャン・ルイ・ソレイユ……ジャンと呼んでくれ!』


 驚いた。

 姫ちゃんは私の語る若社長と、自分が会った小野寺冬馬は別人のようだと言った。

 それならば、私だって、姫ちゃんの教えてくれたジャン・ルイ・ソレイユと目の前の人間は、印象が違う。

 第一に、『おじさん』ではない。

 見た目、若社長よりも若いじゃない!

 十六、十七歳の目からみたら、ジャン・ルイ・ソレイユすら『おじさん』なの?


 私の戸惑いを余所に、ジャンは立ち上がって進み出た。

 先ほどまで夏樹さんに握られていた右手を自然と取られ、甲に優雅にキスをされた。


『やっと会えたね、私の妖精。

君に会うために、ここに来て……そして、待っていたよ。

それなのに、トーマときたら、君が来たのを知らせてくれないんだ。

なんて意地悪なんだろう!

お菓子もくれないし!』


 茶目っ気溢れる顔で、軽くウィンクされたから、本気で言っている訳ではないようだ。

 私はやっと会えたジャン・ルイ・ソレイユに若社長の事を話そうと勢い込んだ。


『手紙を読んでくれましたか?』


『読んだよ。

真白ちゃん、美しい手紙をどうもありがとう。

私はまだ見ぬ君にすっかり魅了された。

そして会って、ますます確信した。

だから、君の言うことは全て信じよう!』


『全て……?』


『そう、悪いのは全部、美園だ!』


『はい!』


『でも、エリィは使わない!』


『はい?』


 ジャンは意味ありげに、秘書室を見渡すと、高らかに宣言した。

 日本語で。


「今度のプロジェクトには真白ちゃんを使いたい。

と言うか、使う!

異論があるなら、この話はなかったことにするよ!

いいよね、真白ちゃん?」


『……すみません、全然、状況が把握出来ないのですが』


 日本語を話すフランス人相手に、日本人なのにフランス語で返してしまった。

 だって、日本語なのに、何を話されているのか、さっぱり理解出来ないのですもの!

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