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常盤は苛立ちながらも、頭をかいて説明した。
「科学省の13005無人のラボの周辺を探してくれ。前におれが通報した直後もこうだった。一瞬消えたんだよ。あいつの特性はあんたらのが詳しいんだろ?そんなに遠くへいけるわけでもないらしい。もちろんおれも行きますよ、それでどう」
黒服はフンと鼻を鳴らした。彼がアゴをしゃくると、周囲にいた黒服達が常盤を羽交い締めにした。抗う隙もなかった。
「当然だ。念のため、あなたのボディチェックをした上で被験体捜査に立ち会ってもらう」
「壱岐に!国防部に連絡させろ!いくらなんでも横暴だ!」
うろたえる常盤を尻目に、黒服は鼻で笑った。
「壱岐さんには了承を得てますよ」
常盤は何も言えず、奥歯を噛み締めた。
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無人のラボでは、興味をそがれた無人がソファに仰向けに寝そべっていた。研究室の中には数人の黒服がバタバタと歩きまわって、すみずみまで調べていた。
後手にされた常盤が連れてこられたのを見て、無人は少し驚いたように片眉をもちあげたがすぐに目をそらしてそっぽをむいた。
「あの子、常盤になついてたから。そこらに常盤置いといたら出てくるでしょ。たぶん死角に隠れてるだけだろーし」
アイスコーヒーをストローですすりながら無人はつまらなさそうに言った。常盤は腕を捻られっぱなしで、肩が痛くて仕方なかった。
「あいつが自分の意思で逃げたなら、おまえらがこんなにいたら出てこないんじゃないのか」
がっちりと腕を掴む黒服に常盤は言った。ついてきた蛭間が泡を飛ばして騒ぐ。
「さあ!おいで!つらいだろう!さあ!0F!!すぐ楽にしてあげる!」
上ずった声で叫ぶ蛭間をへ、無人は遠慮することなく軽蔑の目を向けた。ソファの肘掛けに脚をのせたまま、うるさそうに常盤に目をむけた。
「常盤、呼んでみたら?」
さっさと片をつけろという意味らしい。この男に自分の状況は伝わらないのだろうか。
黒服が常盤を締め上げながら言う。
「だいぶ飼いならしていらっしゃるようですね。呼べ」
「だから……おまえらが……」
常盤の視線の端に人影がはしる。見覚えのある柄が汚れているのが見えた。どさ、と目の前に落ちてきた。
「……うー」
顔をしかめた千歳が、床に這い、立とうと中腰になりながらまわりをにらんでいた。常盤ははじめて見る目だった。
蛭間が歓声をあげて千歳に駆け寄った。頭をおさえる千歳に、蛭間が従えてきた研究員が注射器をむけた。
常盤の頭に、壊れた研究室の丸まったシーツがよぎった。千切れた黒い拘束バンドも。そしてこの件に対する自分の扱いを、壱岐が了承したことも。
気がつくと常盤は自らの拘束を振り切り、研究員に体当たりしていた。