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エリュシオン 1

※井是黒束

森の奥にあるさびれた洋館。

過去にエリュシオンという空に浮かぶ楽園を調べていた研究施設らしい。

全く研究データなんて見てもわからないというのに、白河さんの指示で俺と菅谷さんが調査をすることになった。

俺たちを怖がらす為に高崎さんが言い出したのだろう。

森の奥にあるせいか、雰囲気が暗く正直入りづらい。

正直に言うと、幽霊とか出てきそうで怖いのだ。

「す、菅谷さん……」

隣で銃を構えている菅谷さんを見る。

彼は笑顔で後ろに一歩下がった。

「井是さん、先入ってください」

「なんでですかぁ……」

菅谷さんは、一歩も動くつもりはないようだ。

仕方ないと諦めて洋館の扉を開けた。

ぎぃ、と重い音を立てて開けられた扉の奥は、広い空間だった。

中はそこまでぼろぼろになっていないようだ。

恐る恐る中に入る。

俺が先に入ると、菅谷さんが続いて中に入る。

「雰囲気ありますね……」

俺は、怯えながら洋館の中を調べる。

見回していると地図を取り出した菅谷さんが、一階の一つの部屋を指して俺を呼ぶ。

「こっちですよ、井是さん」

「やっぱり地図持ってるんじゃないですか!」

俺が怒ると、菅谷さんはけらけらと笑う。

「だーって、井是さんが怖がるの面白いんですもん!」

「もうまたそうやってからかって遊ぶんだからー……」

高崎さんにこっそり渡されたんだろう。

二人は俺を怖がらせて楽しむのが好きなんだ。

困った二人であるが、俺にとっては頼れる人なんだ。

「地下にエリュシオンへの研究資料があるそうですよ」

菅谷さんが先を歩きながら、地下への階段を下りていく。

こういうときは先に行くんだよね、菅谷さん。

階段を下りていると、だんだんと暗くなっていく。

その先に魔物がいるのが見えた。

「菅谷さん、止まって!」

地下の研究室の入り口に人型の魔物がいた。

エリュシオンから放たれた人が腐ったような魔物。

その頭を撃ち抜くようにライフルで狙いを定める。

頭を撃ち抜かれた魔物は、崩れ落ちて倒れる。

「助かりました、井是さん!」

菅谷さんが振り向いてお礼を言う。

ショットガンを取り出し、少し警戒するように下りる。

魔物の数は少なく、一体倒しただけで、見かけることなく地下まで降りてしまった。

「着きましたね」

菅谷さんが、ショットガンをしまい扉に手を触れる。

中は何があるかまでは、知らないみたいだ。

「井是さん、構えてください」

俺はライフルを構えて、菅谷さんが扉を開けるのを待つ。

意を決して扉を開けると、強い光が差し込んできた。

二人して目を瞑ってしまう。

目をあけると、資料であろう紙が散乱した部屋が見える。

「天井が……」

菅谷さんがぼんやりと上を見る。

天井が壊されていて、太陽の光がここに差し込んでいたのだ。

「いつ、壊れたんでしょうね……」

「いつなんて分かりませんよ。資料が無事なら怒られませんよ」

菅谷さんが散らばった資料を集め始める。

俺も机の上に散乱していた資料を集める。

資料のタイトルは、『エリュシオン』という文字から始まるものばかり。

ここで大きな研究をしていたのは、間違いないようだ。

二人で資料をまとめ終え、鞄に詰め込む。

「井是さん、菅谷さん!」

上から声がした。

見上げると、魔物討伐本部のメンバーである篝祇亜須磨がいた。

「おおー、亜須磨!どうしたんだ?」

菅谷さんが声を上げて答える。

「森を抜けたらお二人がいたので、何をしているのかと思いまして」

「白河さんの指示で、エリュシオンの資料集めだよ。」

「そういう亜須磨は?」

と、俺が聞き返すと、亜須磨が剣を見せて答えてくれた。

剣についている血の色は、緑。

エリュシオンから落ちてくる魔物のものだ。

「魔物討伐です。このあたりにいたみたいなので」

「あっぶなー、こっちに襲ってこなくてよかったー」

それを聞いた菅谷さんが一息吐く。

俺も安心している。亜須磨が倒してくれなければ、帰りに多くの魔物に襲われたかもしれないのだから。

「ありがとう、亜須磨。俺たちがひどい目にあってたかもしれないし」

亜須磨にお礼を言うと、当の亜須磨はくすりと笑う。

「井是さんが来る前からやってましたけどね。森に入ってくるの見てましたから」

俺たちがびくびくしながら入っていったのを思い出したのか、まだくすりと笑っている。

「見てましたね……あれ」

「横目で見てました」

「ひどいなー!」

俺が怒ると、亜須磨がとうとう大声で笑い出した。

何故か菅谷さんまでも笑い始めている。

「なんで、菅谷さんまで!」

「だーって、あの時の井是さんの怖がりようといったら!」

菅谷さんなんて笑いすぎて、腹を抱えはじめている。

「もう、菅谷さんのせいじゃないですか!」

「あはははははは!ごめんな、さーい!」

菅谷さんがうずくまり始めた。

ツボに入りすぎじゃないだろうか。

だんだん腹が立ってくる。

「もう菅谷さん!置いていきますよ!」

俺は先に地下室の扉を開けて、出ていこうとする。

菅谷さんが慌てて俺を追いかける。

彼も怖い物が苦手なのだ。俺と同じ怖がりですから。

「待ってください!おいてかないでー!」

亜須磨がまだくすくすと笑っているが、軽く手を振って別れた。


魔物討伐本部。

司令官である白河さんが作り出した魔物討伐専門の組織。

この場合の魔物は、エリュシオンという空にある大地から落ちてくる人型の魔物の事だ。

まるでゾンビのように生気がなく、ただ生きている人間だけを襲うもの。

エリュシオンやあの魔物について分からないことだらけなのだ。

だから、俺たちが調査をし、落ちてくる魔物から街を守っているのだ。

「白河さん、持ってきましたよ」

本部の三階にある司令室。

ノックをしてから扉をあける。

司令室には、司令官である創設者である白河さんと情報班である夜月君がいた。

「はい、夜月君。資料はこれで全部だよ」

先に夜月君に資料を渡す。

夜月君は、資料をぱらぱらとみてから満足そうに微笑む。

「ありがとうございます。」

一礼してから、先に部屋を出て行った。

きっと新しい情報が見つかったのだろう。

解析されるのを待つしかない。

「ご苦労だったな」

机に両肘をついて口元を抑える白河さん。

司令官とか偉い人にはよくあるポーズだと思う。

そして不敵に笑い俺たちに声をかける。

「よくあそこから生きて帰ってこれたな」

「いわくつきだったんですか!?」

菅谷さんが驚いて声を上げる。

それを聞いた白河さんは、更にけらけらと笑う。

「高崎から聞いたぞ。あそこには幽霊が出るときもあるらしいと」

「よかったー、でなくって……」

俺は安堵して溜息をつく。

反対に菅谷さんはまだ憤怒していて、司令室の扉を乱暴にあける。

「高崎さんに文句言わなくちゃ!失礼します!」

そして乱暴に閉めた。

まずいと思い咄嗟に頭を下げて謝る。

「ごめんなさい!菅谷さんが……」

「気にするな。お前らが面白かったからいいよ」

白河さんはまだけらけら笑っている。

よっぽど先ほどの菅谷さんが面白かったのだろう。

「あ、俺も失礼します!」

「ああ、ご苦労だったな」

一礼してから、丁寧に扉を閉めた。


一階のラウンジに戻ると、菅谷さんと高崎さんが言い争っていた。

正確にいうと菅谷さんが言い負かされているだけだけど。

「高崎さん、ひどいですよ!どうして幽霊の話はしてくんなかったんですか!」

「だって、言ったら絶対いかないでしょ?」

「いかないですけど!」

「だから、井是さんを脅かせられるように地図だけ渡したんでしょ」

「それはほんと楽しかったです!」

完全に言いくるめられている。

高崎さんが俺に気付いたのか、手を振ってくれた。

「あ、井是さん。缶コーヒー飲みます?」

高崎さんが俺に缶コーヒーを渡してくれた。

菅谷さんは先に貰っていたようで、とっくに缶を開けて飲んでいた。

「ありがとうございます。」

「楽しかったでしょ?雰囲気がそれっぽくて」

「全然楽しくないです!」

高崎さんが、にやにやと笑う。

一番俺を怖がらせて遊んでいるのは、高崎さんだ。

情報を先に調べ上げて地図を作り上げてしまう。

それを持つのは高崎さん自身か菅谷さんだ。

絶対に俺が持つことはない。

「もう井是さんったら何もなくてもビビってるんですから!」

「菅谷さんのせいでしょ!」

俺が怒ると菅谷さんがまた笑い出した。

先ほど怒っていた菅谷さんとは思えない。

二人とも俺をからかうので満足してるんだから。

「ひどいですよ、本当に。俺までだますんですから!」

「当たり前でしょう。菅谷さんだって怖がりなんだから」

高崎さんにとってからかう対象は俺たち二人のようだ。

彼には勝てない気がする。

菅谷さんなんてたやすく飲み込まれてるし。

「まぁまぁ、お疲れ様でした。しばらく任務はないみたいですから、ゆっくり休みましょう?」

高崎さんも一杯缶コーヒーを飲んだ。

任務なんてない時の方が多いのだから、ずっとゆっくりしているようなものだけど。


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