輪廻は断ち切れない
冬。午後5時30分。まだ、夕方だと言うのに日は落ちかけて、辺りは暗くなってきている。冷たい風が俺の頬に触れて、通りすぎる。そうこうしているうちに見えてきたのは、俺んちだ。どこにでもある一軒家なんだが。
「ただいまー」
「おかえり。拓也」
「はぁー。やっぱり居んのか。ま、いつものことだけどな」
二階の自分の部屋に向かう。俺を『おかえり』と迎えてくれたのは、母さんではない。てゆか、家族ではない。あいつは......
「拓也! なんか、冷たいぞ!」
幼馴染みの、夕夏だ。
「そりゃ、毎日顔をあわせてりゃ冷たくもなるだろ」
そう。夕夏は毎日俺んちに来ている。と言うかもう8割方俺んちだ。夕夏の親は海外に出張とかで二人ともいない。それで、か、どうかは分からないが、毎日俺んちにいる。そして、飯を食ってく。それだけじゃない。風呂も入ってく。何故だ! 自分の家あるだろ! などと思っていると突然、部屋のドアが開き、夕夏が入ってきた。
「ご飯、出来たぞ」
「ノックしろよ! 」
「あぁ。すまない。忘れてた。まぁ、許せ」
「はぁ~」
夕夏と一緒に部屋でてリビングへと向かう。
―――夕夏と一緒に、か。そう、いつもそうだった。俺はいつも、夕夏と一緒だった。俺が、夕夏が家にいるのをここまで迷惑がっている理由はここにある。俺は、いつも夕夏と一緒で、いつも、ドキドキしていた。そして、夕夏が、家にいるときは、この心は嬉しいが、それと同時に、休まる時がないのだ。つまり、俺は夕夏が好き、なのだ。改めてそう思った俺。
夜、俺は毎日、夕夏を家まで送っていく。たかが、5分程度の道を二人で。暗闇に染まった住宅街。街灯が二人を照らす。俺には、喉まで、この喉まで、出ている言葉がある。それを、口に出したら、幼馴染みの関係はどっちに転んでも無くなるだろう。それが怖くて口に出来ない。
それと、同時に思うこともある。きっと明日もこう思っているのだろう。毎日、決意と後悔を繰り返している。
......よし、明日、好きだと、言おう。