前編
所在なく揺れ動く学生バッグを小脇に挟み込み
アスファルトに偏平足を打ちつけながら
闊走するのは穴木三太夫。
キセル乗車と穴熊囲いが得意な
どこにでもいる高校2年生である。
いやしかし、どこにでもいる。というと
いくらか語弊があるかもしれない。
彼は特殊な思考として他人から軽侮の対象とされると
「けっ、俺の前世は山本五十六なんだ。
国葬だよ、国葬!わかるか!?
お前らとはスケールが違うんだよ。」
とまるで根拠なく自らの前世を連合艦隊司令長官に
仕立て上げるきらいがあり
相手の前世がGHQの元帥である可能性など
みじんも考えない先天的かつ後天的なバカである。
そんな救いようのない男は
よせばいいのにどうせ起こらない濡れ場を期待しながら
すずめがさえずり出すまで深夜放送のB級映画を鑑賞、
案の定寝坊をしてしまい、
半ば涙目になりながら全速力で学園に向っていた。
2学期初日から遅刻はやばすぎる!
と焦る傍ら、あることを思案したかと思うと
そのままコンビニに突入し食パンをくわえて
再び通学路へと復帰した
初日。遅刻。食パン。
穴木はギャルゲーやエロゲーの類に興じたことはないが
この三種の神器が揃うとき
人智を超えた奇跡が起こることを
遺伝子レベルで認知していた。
正面にはおあつらえ向けに丁字路の突き当たり。
彼はそれを認めるとコーナリングの鉄則である
スローインファストアウトを完全に無視し
心の中のスロットルを全力で捻りカーブに進入
しかしウーロンが神龍にパンティーをお願いした時のような
至福の表情をした穴木の目前にあったものは
たわわな裸体の上に瀟洒な制服をまとった端麗な女子高生の姿ではなく
ブラックパールの車体が陽光に鈍く光る、セルシオさんであった。
死ぬ!色んな意味で!
ある意味人智を超えた瞬発を発揮し
すんでのところでボディはかわすも
サイドミラーはラリアットよろしく
穴木の肩を払った。
その勢いでミラーはへしゃげ
自身は地面へとやわめに弾かれた。
死んだ・・・
間接的な死を予感した穴木に
容姿および服装等の外観描写は苦手なので割愛させてもらうが
とにかく見るからにめんどくさそうな男が
キキッとタイヤを泣かせて停車した動産の運転席から
いきり立って降りてきた。
「こんのだらすがぁ、今時当たり屋とはえぇ度胸じゃけぇ!
ちょっとツラ貸しやさんあ!」
きっと小さい頃父の単身赴任で全国を転々としていたのだろう、
頭に血が上ると各地の方言が混ざるらしい。
穴木の顔面は蒼白だったが
相手のお里の知れる言葉遣いから
心の中では
けっ、てめーなんざ所詮送迎係のゴロツキなんだろ!
それに比べ俺の前世は山本五十(以下略)
「やめなさい、楠木!」
車内から掛けられた凛とした女の子の声が
その柄の悪い男を制する。
「し、しかし、お嬢さん。さっきの女といい、
今日2回目ですぜ。きっとこいつもグルっすよ。
ちょっとしつけてやった方が・・・」
「いいのよ。そんなことより時間がないわ。
初日から遅刻は面白くない、急ぎましょ。」
「へ、へぇ・・・」
わけのわからんやり取りを二、三かわすと
車に乗り込む際に女性は穴木に向き直り
「ごめんなさいね、ちょっと急いでるの。
乱暴な処置になっちゃうけど
治療費とかで相談があるならここまで連絡して。」
と渡されたのはなんたら建設事務所と印刷された名刺。
まだ袈裟切りはされたくないので
どうやら治療費は望めそうもない。
名刺から女の子へと期待を込めて視線を移す
タメに見えないこともないその女の子は
ブラウン管(死語)ごしで見たのなら多分なんとも思わないが
クラスメートでちょっと優しくされたら気になる程度には
整った顔立ちをしている。
ちょっと想定に及ばなかったので微弱な落胆はあったが、
そりゃそうだ。
出会う人、出会う人が激マブ(死語)な女ばかりなら
日本は少子化に悩むことなんてない。
みんなテレビで一級品を見すぎなんだ。
しかしそう考えると金八先生のキャストには
ある種のリアリティーに対するこだわりを感じる。
穴木は初めて民放について真剣に考えた。
気がつけばブラックパールのセルシオは走り去っていた。
―学園
一悶着あったせいで朝のホームルームには
5分ほど遅刻したが
職員の方でも何かゴタゴタしているようで
担任教師はまだ我クラスに顔を出していなかった。
「どうした、アナーキー。そんなに土にまみれて。転んだのか?」
隣の席のわりと仲のいい友人、中城が気遣ってくる
「いやー車と接触してしまって。」
「うわっ、あぶね!お前は学校にすらまともに来れないのか?
まったく生きるのに不器用なやっちゃ。」
「お前が器用すぎるんだよ。健さんも草葉の影で泣いてるわ。」
「ちなみに健さんはまだご健在だけどな。
そーいやさ、アナーキー!今日転校生が来るらしいぜ。」
「なぬ、転校生とな。それはメイルかフィメイルか?」
「さぁ、そこまでは・・・」
「んだよ役立たずが。」
「でもお前の隣空席だし、もしハラショーな女子だったら
ちょラッキーだな。」
「でも違ったらお前と両サイドから男のむさい空気を
吸わなきゃいけなくなるんだぞ・・・」
あまりにも鈍すぎる穴木を尻目に
担任が教壇に立った。
「遅れちゃってごめんなさいね。ちょっと転校生が
時間ギリギリに来たものだから。」
時間ギリギリ・・・
(回想)そんなことより時間がないわ。
初日から遅刻は面白くない、急ぎましょ。
急ぎましょ・・・
ましょ・・・
しょ・・・
ピコーン
穴木の側頭部に裸電球が灯った
(一応)衝突(そういや食パンはどこいった?)
転入生
隣が空席
新三種の神器が顔を揃えた
フラグ、成立。
初めての彼女が極道か、まぁ悪くねぇ。
「それじゃ、そろそろ入っていらっしゃ~い」
穴木は目があった瞬間
お前は今朝の!
と言うため目を細めた
先生・・・
あらあら、二人はもう知り合いだったの?
穴木くんも隅に置けないんだから
ってお膳立て、頼むぜ
クラスの有象無象共よ・・・
うぉ~っ
とか叫んで彼女を赤面させるのだ
さぁ来い!
ガラガラガラ・・・
「―そぅ来たか・・・」
教室前方の扉から入室したのは
かの極道の女の子ではなく
運転手の楠木だった。
「今日からみんなのお友達になる
楠木正男くんよ、みんな仲良くしてあげてね。」
楠木はやや赤面していた。
―後編に続く




