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昼の部 第一話 兄と従兄

昼の部は外伝扱いです。が、これは物語の進行上外伝に入れざるを得なかった部分です。2.5話扱いです。どうぞ、楽しんでください。

 結美と未希がヌエと戦っている時、空き地の目立つ暗闇の路地で、二人の男が無数の異形の獣達に囲まれていた。囲まれている二人の身長は同じくらいだが、髪と目の色が違っていた。一人は、少し長いこげ茶の髪に黒目。もう一人は、漆黒の短髪に茶色っぽい目。

「おい、貴仁。奴さん、やけに多くないか?」

 こげ茶の髪の男が半ば呆れながら、背後にいる黒髪の男に言った。その声の端々には、呆れながらも楽しげな雰囲気が混ざっている。それを見抜いたように、貴仁―佐伯(さえき)(たか)(ひと)が嗤う。

「ふん。楽しんでいるによく言うな、拓人。……まぁ、いいストレスの発散材料だが……」

 ボソッと付け加えた言葉を、拓人―神崎(かんざき)拓人(たくと)は聞き逃さなかった。

「へぇ、ちゃんと分かってんじゃん。なら固いこと言ってないで、行くぞ貴仁!」

「お前が俺に命令すんな!」

 拓人が、はしゃぐような声で貴仁を呼ぶ。その手にはいつの間にか、妖しい色合いの日本刀が握られていた。そんな拓人に悪態をつきながらも、貴仁は二本の短刀を出現させて、それを握る。二人の纏う雰囲気が、殺気立つものに変わる。その空気の誘われるように、異形の獣達が一斉に二人に襲い掛かってきた。

 口元だけの笑みを浮かべ、貴仁はまず、襲い掛かってきた獣達を両手の短刀で切り裂いた。

「鬱陶しい……。切り刻んでやる……!」

 呟いた彼は、腕を交差させて振り下ろす。巻き起こった風が、獣の数をさらに減らした。激しい風だが、道路に傷は付いていない。

「ちぇ。俺より乗り気じゃないか」

「黙れ。俺は早く帰りたいだけだ。……仕事で疲れた……」

「ん~……。まあそうだね。仕事は疲れるし、これはある意味残業だし」

 拓人は言葉を切ると、視界の端から飛び掛ってきた獣を数匹、日本刀で切り捨てた。刀に獣の血が付くが、それを落とそうとはしない。

「……弱いものいじめに飽きた。燃え尽きろ!」

 笑いながら言った拓人の握る刀に付いた血が発火する。彼は刀を振り、その火の粉を生き残りにふりかけた。残り全ての獣達それを受け、発火し燃え尽きる。数があった割に、全滅させるのは早かった。二人は周囲を確認し、武器を片付けた。周りには、何かが燃えたような跡も臭いもない。

「数がいたから、もうちょっと楽しめると思ったのに……。あっけない」

「雑魚で助かった。大物にでもあっていたら面倒だった」

「そうかぁ? 俺は、手ごたえがあるほうが良いけどな」

拓人は、貴仁の面倒くさそうな物言いに笑いながら返した。


 いつの間にか、春の月が空の頂点に輝いている。そのぼんやりとした光が二人と、足音無く近づく招かれざる客を照らす。彼らはまだ、その存在に気付いていない。近づくそれは拳を握ると、未だ気付いたそぶりを見せぬ二人の頭上に勢い良く振り下ろした。が、それが殴ったのは、コンクリートの地面だった。

「喜べ拓人! てめぇが望んでいた“手ごたえのある”敵だぞ!」

 攻撃を避けて拓人に向かい、嫌味をたっぷり込めて貴仁が言った。同じように攻撃を避けた拓人は、苦笑いを浮かべるしかなかった。まさか、実際に来るとは思わなかった。

「確かに、手ごたえのある敵と戦いたい、って言ったよ。けど、なんで(ぎゅう)()が出てこなきゃならないんだ。こいつはめんどくせぇよ!」

 牛鬼、鬼の一種で非常に獰猛な、上半身が牛、下半身が蜘蛛の妖怪である。牛鬼は力がかなり強いため、対処することが非常に面倒なのだ。

「貴仁、た……「断る」「まだ全部言ってねぇ!」

 拓人が言いたいことを全て言う前に、貴仁は素早く拒絶した。しかし、牛鬼の標的は貴仁の様で、彼は牛鬼から繰り出される攻撃を前後左右に回避し続けている。

「って、なに言ってんだよ?! 標的はお前だろ!」

「どう考えても、呼んだのはお前だ。支援はしてやる、()れ」

 連続攻撃を回避しきって、貴仁は拓人に言う。牛鬼からの攻撃に少しの間が空いた。その隙に、彼はもう一度短刀を出す。が、それが精一杯だった。牛鬼の、成人男性の頭部ほどの拳の攻撃を、貴仁が回避するだけの時間が無い。彼はその拳を二本の短刀で受け止めた。一時、力が釣り合い、両者共動かなかった。が、流石に力の差が大きすぎた。一歩、また一歩と、貴仁が後方に押されていく。

「っ……。おい拓人!ぼさっとしてないでやれよ!」

 牛鬼に見向きもされず、背後に佇んでいた拓人に、貴仁が怒鳴る。彼が封じているのは腕一本。いつ、もう一つが飛んでくるか分からない。しかも、この状態を維持し続けるのは無理がある。

「げっ、バレた? 大丈夫、一瞬だ!」

「! サボってやがったのか!!」

「サボってた訳じゃないって。タイミング、見計らってただけ」

 そのままウィンクしそうな軽いノリで返され、貴仁は思わず脱力しそうになった。が、このまま力が抜けてしまえば命に関わる。危惧する前に、拓人が再度出現させた刀で、牛鬼の太い首を一太刀で切り落とした。切り口からは、血ではなく黒い霧が噴き出す。それが出て行くにつれ、牛鬼は小さくなっていき、やがて消えた。

「……こいつ、どれだけ負の感情を食ってきたんだ……?!」

「さぁな、興味も無い。……それより、牛鬼が生まれていたことのほうが問題だ」

 ふっと息を吐いて、拓人の疑問に貴仁がどうでもよさそうに答えた。彼らの手からは、先程まで持っていた武器が消えている。

 あっ、と拓人が何かを思い出したように、貴仁に聞いた。

「なぁ、貴仁。昨日の深夜、虎見たか?」

「……虎? ヌエだろ。見てねぇよ。……多分、結美ちゃんと未希が片付けただろう」

 会話がかみ合っていない気がするが、拓人は、そうか、と言ってほんの少し笑った。



 頭上の月はまだ輝いており、別れた二人を静かに照らす。

 彼らもまた、陰陽師。日常への、非日常の介入を防ぐ、守り人にして、最終砦。


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