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弐拾四夜 祭り

HAHAHAまさかの二ヶ月放置ww申し訳ありません(土下座)レポートが……レポートが忙しかったんです……。というわけで、久々の更新。季節が追いつき始めました……!お楽しみください!!

 大人も子供も、祭りの日は大体待ち遠しものだ。普段見ないような屋台の食べ物。射的や金魚すくいなどのゲーム。ともすれば、時間を忘れて興じることも少なくない。御輿や踊りは見ているよりも、入っていく方がなお楽しい。ただそれは、人だけが楽しいものでもないのだ。


 二、三日前から、町は何処か浮かれた雰囲気に満たされていた。昼夜問わず笛や太鼓を練習する音が町中を満たし、夏祭りを知らせる貼り紙があちこちに貼られた。そして今日が、その祭りの日だ。

 結美も当然、この日を楽しみにしていた。普段の町にはない盛り上がりとイベントがあるからだ。

「……ホントに楽しみにしてたみたいね? 浴衣気合入ってるし」

「え? いやいや気のせいだって、美香。そんなに気合入ってないって」

「うっそぉ! だって凄いキマッてるし!」

 確かに、結美の浴衣姿はよく似合っている。桃色を基調とし、橙色の花を散らした浴衣に、花と同じ色の帯。そして極めつけは、トレードマークであるポニーテールに挿した花飾りとリボン。しかも、それが浴衣の模様の邪魔をしていない。誰から見ても、準備した、と言われるだろう。

「くっそぉ、私も浴衣にすれば良かった!!」

「ははは。まぁ良いんじゃない?」

「良くない!!」

 屋台でたこ焼きと焼きそばを買い、ベンチに座って食べながら話す。町中が祭りで騒がしく、賑やかに、活気で満ちている。過疎化が進んでいるのに、何処から人が来るんだと考えたこともある。しかし、そんなことはこの祭りの前ではささやかなことだ。

「次、何処行こっか?」

「あれ! 射的やりたい!」

「美香、当てられるのぉ?」

「うっ……! うるしゃい! ……噛んだ……」

 食べ終わった物をゴミ箱に捨て、二人は歩き出す。下駄を鳴らし歩く結美は、りんご飴を売っている屋台に未希がいるのを見つけた。その頭にはアニメキャラクターのお面が掛かっている。驚いて瞬きした結美を、未希もみつけたようだ。彼女のほうを見た未希も、一瞬目を丸くして逃げるように走って行ってしまった。一連の流れを横から見ていた美香は、少しだけ残念そうにする結美を見てニヤニヤしている。

「残念、フラれたね」

「むっ、フラれてない。てか、何でフラれたって話になるのよ?」

「え? 夫婦じゃん、キミたち」

「いいえ、違います」

 どうかな、などと笑う友人の頭を巾着袋で殴って、結美はフンと鼻を鳴らして歩行者天国となっている大通りを早歩きで去っていった。


 夕暮れ。人は減ることを知らず、祭りは一番のイベントが行われる。それは神社で巫女が舞う神楽だ。毎年、この神楽を見るために来る人も少なくないのだという。そろそろその時間だ、と時計を見た結美は、門限がある美香と別れて一人神社に向かった。浴衣で階段を昇るのは厳しいな、などと思いながら、なんとか上までたどり着く。

「うわ、相変わらず人多い……」

 境内は人だかりができていて、舞台がちゃんと見えない。背伸びすれば多分見えるが、そもそも下駄ではそれがやりにくい。人を掻き分け前に出ようとした瞬間、後ろから何かに押されよろめいた。下駄では踏ん張れず、バタバタともがいたのち前のめりに倒れかけた。

「おい! 大丈夫か?」

「ふぇ……! あ、ありがとうございます……!」

「人多いしな、気を付けろよ」

 抱き止めてくれた女性は、切れ長でつり目の美人だ。巫女装束を着ていることから、この人もどこかの神社で巫女をやっているのだろう。思わず掴んだその人の腕は、しなやかな筋肉がついていた。

「周りに気を付けろよ! じゃあな!!」

 豪快な人だ、女が惚れる女と言うのはああいう人を言うのだろう。ぼうっとしていると、彼女が去っていった方向とは反対側から、自分を呼ぶ声が聞こえ振り向いた。

「えっ? 未希!!」

「こっちは穴場だ。早く」

「あらあら未希。いくら嬉しいからって、急かす事は無いのよ?」

「え?」

 手招きする未希の横に、さっき受け止めてくれた女の人が立っている。未希の名前を知っているという事は知り合いだろうか。この人も、巫女装束を着ている。

「さっきの人と瓜二つ……。あ、でも若干たれ目だ」

「私と似ている人? あぁ、美枝のことね」

「美枝……さん?」

「梢さんの双子の妹。豪快な人だ」

「へぇ……」

 移動しながら未希は結美に、二人との関係を話してくれた。二人は未希の親戚なのだと言う。しかも驚くことに、この舞台で神楽を舞うと言う。

「毎年、親戚の神代家かみしろけに頼んでいるんだ」

「え? そうなの?」

「えぇ、そうよ。未希じゃちょっと……」

「力不足だ」

 その言葉は、結美を驚かせるのに充分だった。一度だけ見た友人の舞いは、どんな舞台でも見劣りはしなかった。その未希が力不足とは、彼女の親戚はどれ程の実力があるのだろう。

「それは、見てからのお楽しみ、というやつだな」

「むぅ……。あ、ところで未希さ、なんで昼前私見て逃げたの?」

 あの行動は若干ショックだった、と続ければ、未希は狼狽えた様子で口をもごもごさせた。その様子を見て、梢は微笑みながら未希の代わりに口を開く。

「頭にお面が掛けられているのを忘れてたのよ」

「こっ、梢さん!!」

「え? それだけの理由?」

「ふふ、充分よね」

 そんな話をしていると、結美の視界の端を黒い影が横切った。何気なくその影を目で追うと、それは人だかりの中に消えてしまう。だが、ちらっと見えたその姿は、明らかに人ではなかった。

「……未希……?」

「……あぁ……」

「……この規模は……、予測できなかったわ。祭りを楽しみにしてたのは、人だけじゃなかったみたいね」

 良く見れば、舞台を囲う人混みに多くの異形が蠢いていた。小鬼や黒蜘蛛、三つ首の雀や青白い火の玉がゆらゆら浮いている。壊れた傘が歩いていたり、首の長い女が人の顔を覗きこんだり、好き勝手している。だが、見物客には全く見えていないようで、まるっきり無視だ。

「百鬼夜行に準ずる規模ね……」

「……片っ端から撫で斬りに……」

「……! 待った! それは、人が巻き込まれる!」

 今にも武器を取り出しそうな未希を、結美は慌てて止めた。大切なイベントが血で汚れるのは見たくないし、友人が無差別殺人犯になるのも見たくない。

「ならどうしろと……!」

「……百鬼夜行に準ずる規模、あの子じゃ手に追えないわね……」

「……梢さん……?」

「それに、可愛らしい浴衣を汚す訳には行かないでしょう?」

 結美の方を向いてにこりと笑った梢に、一瞬どきりとしてしまう。しかし、未希にはその笑顔が怖かったようだ。明らかに緊張した面持ちで、梢の次の言葉に集中している。

「だから未希……、舞いなさい」

「はい。……え?」

 緊張した表情で周囲を見ていた未希は、とっさに理解できなかったらしい。間の抜けた声色で、梢に聞き直している。

「すみません、咄嗟のことで聞き取れなかったのですが……」

「舞いなさい、と言ったのですよ未希。この状況は、あの子の得意とする環境ではないの。手を出せるのは……わかっているわよね?」

「……準備……してきます……」

 少し項垂れた未希は、人混みを縫って神社の住居区に走って行ってしまった。結美は、友人と梢の話がいまいち理解できない。舞いを力不足というわりに、この状況は未希のほうが得意と言う。混乱する結美を梢はただ、にこにこと微笑みながら見るだけだ。やがて戻って来た未希は、巫女装束に扇を持ち、何故か白い狐の面を掛けた状態だった。

「……ふぅん……そうするのね……」

「え? えぇ?」

「未希の舞いはね、人のために舞うものじゃないの」

 笑みを絶やさぬまま、梢は未希の舞が人ならざるものを慰め、然るべき地へ還すためのものだと説明する。その最たる行動が、町の七不思議の一つ、季節外れに咲く神木の桜、なのだと言う。

「空間を清めて良からぬモノどもを祓うのが美枝、元の地へ送り還すのが未希よ」

「……未希は、帰り道を示す道しるべ、ですか?」

「そういうこと。さ、そろそろ始まるわ……」

 梢が未希の方を見て呟くのと、楽団が雅楽の音あわせを始めるのはほぼ同時だった。そして、それを合図に未希は、ゆっくりとした動きで左手に持つ扇を掲げて少し開く。その音で周囲から人混みが消え、彼女達と人ならざるモノどものみの空間が出来上がった。はっと息を呑んだ結美に、梢はふわりと笑いかけ、懐から五色の札を取り出した。それを空に投げると、それらは五角形を作って二人の周りを囲う。

「結界よ。これで私達の姿は、異形達には見えなくなるわ」

 微笑む梢に釣られそうになるが、結美にはいまいちこの状況が理解出来ていない。突然人のいない空間に投げ出されたせいかもしれない。

「あの、梢……さん? いまいち状況が理解できないんですけど……」

「……そうね……、まぁ見ていなさいな」

 もうすぐ始まるから、そう続けた梢の言葉に首をかしげたちょうどその瞬間、何処からともなく笛と鈴の音が聞こえてきた。その音に合わせて太鼓の音が重なる。それらが、今彼女達がいる場所で演奏されていないものだと気付くのに時間はかからない。

「この場所は裏側。向こうから音が流れて来ているのよ」

「裏側……?」

「えぇそうよ。とにかく、今は未希の舞いを見ていたら良いわ。野暮なことは考えないのよ」

 腑に落ちない顔をしながらも、結美は異形の群れる舞台に目を移す。扇を片手でゆっくり開くと、未希は流れる演奏に合わせてゆっくり足を運ぶ。二、三歩右に歩いて扇を翻してターンする。空いた右手は、なにかを振るような仕草をする。今この空間を満たすのは、雅楽の音と未希が砂を踏みしめる音だけ。騒がしかった異形共も、舞う未希を静かに見ている。

「……凄い……」

 呆然とする結美の口から漏れ出た感嘆の言葉。もはや、そう表現するしかなかった。それほどに美しい。

「異形達が黙る理由もわかるでしょう?」

「……はい」

 流れる曲は激しさを増し、それに合わせて舞う未希の動きも激しくなる。回って、跳んで扇を翻す。長い袖が音をたて、踏みしめる地面の砂が跳ねる。それらの音に混じって、板を踏みしめる音が聞こえる。ちょうど社の中から。

「……!」

「……美枝……?」

 社の中に現れたのは、梢のいう表側で舞っているはずの巫女。舞う二人はお互いに気付いておらず、背中合わせで舞っている。鏡のように、息のあった舞で異形を魅せる二人の巫女。背中合わせで舞う二人の目が、回転した瞬間に合った気がした。上段で舞う美枝が砂地で舞う未希を見下ろし、砂地で舞う未希の、仮面の顔が上を見る。視線の交錯は一瞬で、二人はお互いの存在を気にすることなく舞い続ける。そのうち社にいた美枝は姿を消し、雅楽の曲は最後の盛り上がりをみせる。曲に合わせて再度激しさを増した舞は、音楽の終わりと共に止まった。左手に持つ、開かれた扇を片手で閉じていき、音をたててそれを閉じる。その音で異形達は一瞬で影霞と消え、辺りに人混みと歓声、拍手が響きわたる。その拍手と歓声は、未希へのものではなく、舞台で舞った巫女への賞賛だ。

「凄かった……。未希の舞、凄く綺麗だった……!」

「……」

 結美がだらんと腕をおろした未希に駆け寄るのと、未希がぐったりと結美の方へ倒れてくるのはほぼ同時だ。慌てて抱きとめると、未希は小さな寝息を立てている。落ちた仮面の下のあどけない寝顔に、思わず叩き起こそうか、と考えてしまった。

「未希はいつもそうよ。力尽きたぁ! て顔して寝ちゃうのよ。……だから、家まで運んでくれないかしら? 浴衣なのにごめんなさいね……」

「え? ああ、そうなんですか……。大丈夫ですよ。未希、こう見えて軽いんで」

 なんだと拍子抜けした結美は梢の頼みを聞きいれて、浴衣で難しそうに未希を背負って住居区に歩いて行く。その後姿を見送る梢の目が、一瞬険しくなったことに結美は気付かなかった。


「よう、姉貴。怖い顔してどうしたよ?」

 重苦しい舞装束を脱ぎ、普通の巫女装束に着替えた美枝が、いまだ険しい顔をする梢におどけた調子で尋ねた。この双子は、かなり多くの困難を二人で一緒に乗り越えてきた経験上、姉妹の絆は強い。片方の考えることは大体もう片方も分かるのだ。

「……未希のことよ……。あの子、あんなに力を注いで……。どうしたいのかしら、何がしたいのかしら……?」

「姉貴……。それは、未希が決めることだぜ。少なくとも、私たちは首を突っ込むべきじゃない」

「ええ……分かっている。分かっているわ……」

 袖の上から腕を擦る梢に、美枝も何か感じているらしい。それらを振り払うように空を見上げる。星空は、薄くのびた雲に隠れて見えなかった。

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