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弐拾夜 石

お久しぶりです、ルナサーです。一年放置、申し訳ありません!!リアルの忙しさと、私のスランプのせいで中々手が付けられませんでした…orzコンスタントに更新できるよう努力するから、見捨てないでーー!!

 古来より、石や宝石の類は権力と不変の象徴とされてきた。永き時を経てもなお輝きを失わぬそれらに、己の権力と命の永遠を願ったのだろう。今でも、その願いは変わらない。

持っているだけで安心したり、落ち着いたり、力が沸いてくるような気がしたりするのも、そう思える何かが宿っていると信じているからだろう。


 「ん~~!! 終わったああ!!」

 三日月が昇る夏の夜に、突然歓喜の叫びが小さな部屋の中いっぱいに響いた。歓声の元である結美は、自分の机の上に積まれた問題集を見直しながら満足げな笑みを浮かべている。夏休みに入って早一週間。山のように出された宿題が全て片付いたのだ。最も、このスピードで終わったのは休み時間にこつこつやってきたおかげでもある。

「やり残しなし! これで夏休み自由だぁぁぁ!!」

 宿題の範囲を再三確認し、やり残しがない事を確かめると、机の上に置いていた携帯電話を手に取った。そして電話帳から呼び出した未希のアドレスに、明日遊びに行かないか、と打ち込み送信。無性に遊びに行きたい気分だったのだ。それに、普段引きこもりがちの未希なら大丈夫だろう、という考えが働いたのだ。幸い、明日は土曜日。平日は部活がある未希でも、休日なら休みのはずだ。ただ突然の誘いであり、断られる可能性も十分ある。そして案の定……。

「……だめだったか……。まぁ、急に聞いたし、仕方ないか。……お?」

 未希から返ってきたメールには、予定がある、という文字と謝罪文の短い文章。未希に予定があるなんて、と思いながらも、明日は暇か、と落胆した結美は、未希のメールと共に入っていたもう一通のメールに気が付いた。誰からだろうか、と思いながらメールを開いた結美の表情が瞬く間に輝いた。二つ返事で了解したことを返信し、嬉しそうな顔でベッドの上にダイブする。

「やったぁ……。明日は楽しくなりそう……!」

 ベッドの上で携帯電話を握り締め、彼女は小さく笑った。


 次の日、結美は待ち合わせのため、町の郵便局の前にいた。大きな通りに面したそこは、神社の鳥居と同じくらい目立ち、待ち合わせにはうってつけである。ただ、この時期は真夏の日差しがアスファルトに反射し、体感温度は気温を超えてしまうことが難点ではある。噴き出す汗を腕で拭い、彼女は行き交う人々の中に己の友人を探しながら呟く。

「……暑い……。分かってはいるけど。もうちょっと涼しくなって欲しいものね……」

 暑さに対して文句を言ったところで涼しくなるはずもない。人混みを眺めながら時間を確認すると、予定時刻まであと十分程度あると分かった。早く来すぎたな、と思いながら携帯を見る結美の耳に、誰かの呼ぶ声が届いた。顔を上げると、そこには待ち人の姿がある。

「やっほー! 結美! 暑いね~」

「おっそい、美香! 待たされる身にもなれ!」

「あれぇ~、おかしいなぁ~? 待ち合わせの時間には、まだあと五分も余裕があるよぉ~?」

「う……うるさい! それより、京香はまだ?」

「話逸らしたな? まぁいいや。京香は体調崩したから来れないってさ」

 一人減った事を残念に思いながら、二人は商店街へと向かった。大型の商業施設がないこの町で、ショッピングを楽しめるところはこの商店街しかない。それでも洋服店も飲食店、はてはゲームセンターなどの娯楽施設まで揃っているのだから遊ぶには困らない。そこへ向かった二人は、ウィンドー・ショッピングを楽しんだり、ゲームセンターに入ったりと、行き慣れた商店街をぐるぐる見て回る。その時に見つけたアクセサリーショップで、美香が結美を見ながら考えるような仕草を見せた。

「……なによ、美香?」

「ん~? いやぁ、結美って飾り気ないよなぁって思って……」

「アクセサリー類がないって意味で?」

「そうそう。せっかくだし、なんか選んだら? それとも選ぼうか?」

「……う~ん……」

「ほら、この花のペンダントとか、指輪とか」

「……なんかピンと来ないよ……」

 ワイワイと言い合いながらアクセサリーを見繕うも、なかなか結美にとってしっくり来る物がない。美香は何点か気に入ったものを購入して嬉しそうだ。羨ましいが、良い物がなかったのだから仕方ない。そんな風に悶々と考える結美に、美香は自慢する気にはなれなかった様子で彼女の手を引いて店を出た。それから、商店街にあるほかのアクセサリーショップを覗くもしっくり来る物が見つからず、休憩がてらに入った喫茶店で結美は項垂れた。

「私が高望みし過ぎているのかなぁ……」

「う~ん、そうでもないと思うけどなぁ……。でも、気に入ったの付けるのが一番だし……」

 運ばれてきた冷たいジュースを飲みながら二人は考え込む。いくら日差しが遮られているとはいえ、外はかなり暑い。冷たい飲み物のおかげで一息ついた二人は、商店街に露店エリアがあることを思い出した。毎日店が出るそこに行けば、もしかしたらいい物が見つかるかもしれない。そう思った二人は注文した物を平らげると、早速露店エリアへと向かった。

 二人が考えたとおり、露店エリアはアクセサリーを置いている店が多くあった。もちろん、アクセサリー以外にも、占いや似顔絵などの店もでている。その場所で美香が、占いの店に興味を示したためあとで合流する、という流れで結美はエリア内の露店を物色し始めた。

「シルバーアクセサリーも素敵だよね……。でもなぁ、なんかピンと来ないなぁ……」

 もともと装飾品に興味が薄かったため、どんなものが自分に似合うのか分からない部分がある。ただ、イヤリングや指輪は何となく嫌だな、と考えながらエリアの端から端まで見て歩く。その足が止まったのは、露店の中でも一風変わった出店の前。そこは石で作られたアクセサリーを売っていたが、問題は商品の広げ方だった。普通の露店は、商品をスーツケースやカバンの中に入れ、あるいは引っ掛けて売られているのだが、その店は小さなブルーシートの上に適当、と言われてもおかしくない置き方で売っているのだ。

「どうかしましたか。……探し物でしょうか?」

「え? えっと……。そうでもないですけど……」

「ふふ、そうでしょうか? 良ければ、お話を聞かせてもらえませんか?」

 足を止めたことで客と思われたらしく、露店商の青年が声を掛けてきた。他の露店の店主よりもかなり若いその人は、不思議な青い目で結美を見つめて、静かな声で話しかけてきた。その目に言い知れぬ心地よさを覚えた彼女は、ぽつぽつとアクセサリーを探している、と話してブルーシートの上の商品に目を落とした。

「そうですよね。大体いらっしゃる方は、天然石のアクセサリーを探しておられる方が多いですから。どうぞ、存分に眺めてください。気に入るものがあればよいですね」

 青年の言葉に頷くことで返答した結美は、他のアクセサリーに埋もれるような形で置いてある、群青色の石のブレスレットを見つけた。手に取ったそれは五つの石を白い紐で結い合わせた物だ。日陰のその場所で、他の石の下にあったものの筈なのに、それは何故か温かく感じる。魅入られたように眺める結美に、青年は微笑を浮かべながら声を掛けた。

「その石はラピスラズリ、和名で瑠璃ですね。古くから魔除け、お守りとして愛されてきた石ですよ。ですがプライドが高くて、なかなか持ち主を選ばないのです」

「? 石が持ち主を選ぶんですか?」

「ええ、そうですよ。触れてみて、温かく思いませんでしたか? そう思ったことが、証拠です」

 そんなことが起こるのか、と思ったが、現に結美の手の中の石は温かく、離したくないとさえ思わせるものだ。これは買うしかない、と握り締めたその手の下に、彼女は別の石のブレスレットを見つけた。その石の朱が印象的で、結美はそれも手に取ったが、その石はかなり冷たく、持っていることに違和感すら覚える。

「三色の虎目石で作った腕輪ですね。残念ながら、あなたの石ではないようですよ」

「そうですよね、何となく分かります。でも、この赤い石が……」

「赤虎目石、レッドタイガーアイといいます。黄色がタイガーアイ、青が鷹目石、ホークアイです。ブルータイガーアイとも言いますが、ホークアイの方が有名です。それも、魔除けと鷹の目にちなんで見通しが良くなるという願いも込められていますよ」

 虎の目というだけあって、それぞれの石には目を思わせる輝きがある。冷たさに違和感があるが、この石に彼女を重ねてしまい手放せない。どうしようかと悩む結美に、店主は何か読み取ったらしい。落ち着く声で結美に言った。

「お友達に差し上げるのですか? その人のことを考えながら選ぶと、その人にあった物が見つかりますよ」

「……そうですね……。あいつには、これが持って来いかも……」

「……勇猛な虎、聡明な鷹、その二つを併せ持つ少女、といったところでしょうか……?」

「!!」

 店主の言葉に、結美はどきりとしてしまった。確かに彼女は戦闘を恐れないし、窮地に陥ったとしても、その判断力で切り抜けて勝利を収めることもする。しかしそれを、見ず知らずの人に言い当てられたことは、結美にとって驚愕の一言に尽きる。そんな彼女の思いを知ってか知らずか、彼は彼女に買うかどうか尋ねてきた。もちろん結美の返事は一つだった。


 店主に石の保管方法や浄化の仕方を教えてもらい、サービスで貰った水晶の細石と小さな器をカバンに入れた結美は、夕焼けに染まる道を美香と別れて一人で歩いていた。自宅ではなく神社を目指して、長い階段を上がっていく。慣れた長い階段を上りきると、目当ての人物は社殿に至る階段に座って読書に勤しんでいた。結美が近づくのと未希が顔を上げるのはほぼ同時で、なんともいえない以心伝心に結美は少し笑ってしまった。

「どうしたんだ、結美。こんな時間に……」

「ん~、未希に渡したいものがあってね」

 訝しげに目を細める未希に、結美は昼間買った石の腕輪を細石の入った器ごと手渡した。何故急に、といわんばかりの未希に、結美は昼間の出来事を掻い摘んで話した。

「そうか……。確かに、これは温かく感じるな……」

「でしょ? 私も、ほらこれ。ラピスラズリのブレスレット!」

「結い上げているな……。それなら、紐の一本や二本切れても、ばらけることはないな」

「綺麗でしょ?」

「ああ。ところで、何故この石を選んでくれたんだ?」

 未希のその問いは、結美にとって予想できたものだった。しかし、何故か彼女は言葉に詰まってしまった。そもそも結美が言える筈がない。何故なら、彼女はその赤い石に未希の紅い瞳を重ね、それを離したくない、とただ思っていただけだったから。直接口に出して言うには恥ずかしい。だから、

「未希にただ似合いそうだなって、ただ思っただけだよ」

 とだけ告げた。もちろん、嘘ではない。理由の一つではある。ただ、未希には隠れた理由があることに気付かれてしまったようだ。が、ほんの少し微笑んだ彼女は追及しなかった。

「……まぁ、そういうことにしておこう」


「それ、外さないでね。お守りだから」

「分かっているさ。……大切にする……」


 夕暮れにそまる境内で微笑む二人を、隠れる太陽と、顔を出した月が見ていた。


次は伊豆宮さんとのコラボを上げようかな……。別作品ですけど……ww

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